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ノーマネー・ノーライフ  作者: ごまだんご
2章 新たな仲間と安住?の都市
36/66

創世記学 休み時間

宜しくお願いします。



「……ついに見つけましたわ。」


 古びた洋館の地下にある書庫に、1人の女性が籠っていた。彼女はここ一か月ほど住み込みで調べ物をしていた為、艶のあった黒髪は埃で薄汚れ、周りには脱ぎ散らかした下着や、丸められた携帯食料の容器が散乱していた。


 お目当ての記述が載っている文献を発見した彼女は、周りに散らかっている物には目もむけずに外へと出た。


「まぶしっ!?」


 約一か月ぶりに浴びる太陽の光に、身体が過剰な反応を示すが気にせず、近くで待機している助手が待つ【魔導車】に乗り込んだ。


「お疲れ様です、教授。お目当ての物は見つかりましたか?」


「ええ、最高の切り札を引いてみせたわ。これで世に蔓延る創世記信者共に一泡吹かせられるというものね。すぐに屋敷に戻るわよ。解析を進めなければならないのだ…から……。」


 そう言って、この一か月の疲労が一気に来たようで、女性は車の中で眠ってしまった。発見された資料を大事に抱えたままで。


 眠った教授を確認した助手は、携帯電話のような道具を取り出すと、別の助手に連絡を入れた。洋館に残っている教授の私物を回収してきてくれと。










「皆さまおはようございます。アルベニーク新聞社所属の記者【リッカ】です。本日は、【アリエント歴史学】の権威である【ダイアナ・フレッチャー】教授から歴史的な大発見の解説をして頂ける機会を得ることが出来ました。フレッチャー教授、本日は宜しくお願いします。」


「こちらこそ、宜しくお願いします。」


 教授はスッキリと纏められたタイトスカートのスーツ姿で椅子に座っている。絹のようななめらかな黒髪と、血が通っているのか怪しいほどの白い肌を持った美女を前にして、同性ながらリッカは顔を赤くしていた。


「それでは、早速ですが教授が発見されたという事についてお話しいただけますか?」


「はい、私は元々アリエントの歴史全般について研究してまいりました。歴史とは発端と終端が必ず存在し、多くの人々の貢献によって積み重ねられてきた結晶であると私は思っております。かの5000年続いたと言われているシーナ王国を建国した【ハウリトン一世】にも始まりと終わりが明確に残っているのです。」


 ですが、と一呼吸おいて教授が取り出したのは一冊の本、数年前から歴史書として注目を集められている【創世記】の教本であった。


「しかし、最近ポッと出で現れたこの創世記という歴史書には、発端と終端を表すべき歴史の重みというものが私には感じられませんでした。原因はそう、このユキという魔王の存在です。」


「ユキの存在ですか?」


「はい、歴史の中心人物として居る魔王ユキですが、何処で生まれたのか?両親は誰なのか?など謎が多すぎます。採取にユキが登場するテビニーチャの街までに彼が何処で何をしていたのか、不鮮明すぎるのです。主要人物の発端が曖昧な事では、歴史の真実とは言えないと思っています。」


「えっと、つまり教授は魔王ユキが架空の存在だったかもしれないという疑問を提唱しているのでしょうか?」


「提唱ではありません。私が先日発見したものによって確証へといたりました。」


 ダイアナは自身のバックから古びた冊子を取り出した。随分古いもののようだが、【保存】の魔法がかかっているのか状態は良好だった。


「これは約1500年前の自由都市フリーランドにおける出産、結婚、死亡の記載がされた台帳です。この死亡欄の120ページを見てみてください。」


 冊子を受け取ったリッカは、ダイアナに指されたページに目を通していく。その一文を見つけた時リッカの目が見開いた。


『サウダーレアのスラム街にて起こった誘拐事件の結果、被害者である【ユキナリ・ココノエ】の死亡を確認。提出者【ミール】』


「分かっていただけましたか?人間を虐殺し、魔物の世界を作り上げようとした【魔王ユキ】は、歴史の序盤で死んでしまっているのです。よって、創世記によって居るとされた魔王ユキは創造の産物であり、正規の歴史には存在しなかった事が証明されました。いたのは唯のユキナリという旅人だけであり、フリーランドにおける空白の一年の間に死んでいたという事実だけが歴史に残るのです。」


 ダイアナの主張を聞いたリッカは恐怖していた。今や創世記学は主要研究対象として多くの学者や研究者に広まっている。もしダイアナの主張が発表されて【創世記】が歴史書ではなく、フィクションを多大に含んだ小説でしかなかったとするならば、世界的な大混乱が起こり得るからだ。


 しかし、確固たる証拠を自身の目で見たリッカには反論できるだけの材料がなかった。


「ダイアナ・フレッチャー、29歳!ついに世界に私の功績を残せる歴史的な日を迎えるのですわ!おーっほっほっほ。」


 部屋には教授の高笑いがいつまでも響いているのであった。





ご覧いただきまして有難うございます。


次回は2章登場人物の紹介を投稿する予定です。


明日以降3章に入っていきたいと思います。


宜しくお願いします。

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