転生されました
再度目が覚めた俺の視界に映ったのは見渡す限りの草原だった。
少し行った辺りには整地はされていないが、道らしき草の生えていない線が見える。ここを通る商人であったり旅人であったりが利用するのだろう。
気持ちのいい風が髪をはためかせていく。空気も美味しく感じる。気のせいかもしれないが。
一通り全方向を眺めてみたんだが街はおろか建物や人影なんかも見つからなかった。
この世界に来たばかりの俺がやみくもに歩き回っても迷うだけだし、道沿いに行ってもどれだけかかるかも分からないしなぁ。取りあえずは自分自身についての確認作業を優先するか。その間に誰かが道を通ったら話しを聞けばいいし。
これだけの大草原でありながら、道には雑草が生えていないことから結構人通りが頻繁な場所なのだと予想した幸成はどっこいしょと胡坐をかいて草原の上に座った。
たしか、最高神が目が覚めたらまずはこのスキルをつかいなされとか言っていたのがあったな。
幸成が【ステータス】と念じると目の前に液晶画面のようなスクリーンが浮かび上がってきた。
・名前:ユキナリ ココノエ
・年齢:20歳
・職業:無職
・階級:1
・装備:布の服
・技能:【無限黄金郷】
ゲームかよ。俺は金がなかったからあんまりやったことないけど、このステータスというのはゲームのシステムの1つだったはずだ。それにこんな現象は日本でもまだ難しかったはずだし、やっぱりここは異世界なのかと改めて思った。
しかし、このステータスという物にはいろいろ不明な点が多い。まず年齢だが、俺が死んだのは27歳の時だ。天界では驚きが大きすぎて自分の姿まで気が回らなかったけど、現在の身体を見てみると確証はないが肌質なんかは若返った気がする。ステータスにも年齢が20歳となっているから、転生の際に若返ったのだろうか?まぁ困ることもないしこれはいいや。
次に職業なんだけど、無職って……。小説なんかのお約束だったら【勇者】とか【賢者】とかでもいいんじゃないかとも思うけど、まぁ確かに無職だったよな。別名お勤めとか言われているけど、刑務所に服役していたんだし。せめて【戦士】とか【魔法使い】、いやもう【村人】でもいいんでなんか欲しかった。ぷーたろうって・・・。
階級ってのはよくわかんないから置いておこう。追々分かってくるだろうし。
装備は、布の服か……。異世界で現代ファッションは浮くだろうし別にいいんだけどね。ちなみに上下の服セットで布の服になるらしい。下着や靴下、靴は装備品にはならないらしい。下着系の装備はないのかな?ちょっと残念。
最後に一番気になるのが技術だ。たぶんこれが最高神のくれたチートなんだろう。名前に黄金の文字が入っていることからもその可能性が高いと思う。
神様が、しかも最高神が自身の願いを聞き入れて授けてくれたチート能力。いやがおうにも期待が高まるというものだ。やっぱり異世界に来たんだから俺だけの力ってやっぱり憧れるよな。
だけど、どう使うんだこれ?ゲームなんかだったらヘルプとか説明書なんかがあるんだろうけど、タッチしてもヘルプと言ってみても何も反応がないし。使用方法くらい教えてくれればいいのに。
うーん、黄金って名前と俺が願ったお金持ちにしてくれってことから絶対お金関係の技能だと思うんだけどなぁ。
うーん、札束を想像してみる。一万円札が束になった百万円の束だ。実際にそんな大金を見たことはないが諭吉が百人いれば百万になるしこんな感じだろう。
何の反応もなかった。いくら金持ちと願っても諭吉は調子に乗りすぎたかな?
同じように五千円札に千円札、硬貨も一枚単位で想像してみたけど結果は同じだった。一円玉でもダメなのか。使い方が違うのか、なにか呪文みたいなものが必要なのだろうか?それともそもそもお金に関わる能力ではないとか?
わからん。
早々に諦めた幸成はゴロンと草の上に寝っ転がった。何もヒントがない状態でいきなり正解にたどり着けるわけもないし、一度休憩しようとしたのだ。
最高神が言うには、この世界は平和でのどかな世界だって話しだしゆっくり解明していけばいいだろう。少し休んだら何か食糧と水を探しに行くか。数日くらいなら何も口にしなくても生きていけるけどそれでも限界があるしな。
極貧生活の幼少時代のおかげで超燃費のいい体に変質してしまっている幸成には空腹はたいした問題ではなかった。
目を閉じると意識を手放す。今日一日でいろいろな事がありすぎて思考の整理が必要だろう。殺されて、神にあって、異世界に飛ばされて、生き返った。英雄でも勇者でもない一般人の俺には怒涛の環境変化を素直に消化できるような精神力はない。ゆっくりと思考の海に沈んでいった。
どれくらい寝ていたのだろうか、ガラガラという音に意識が急浮上する。道の向こうから牛のようで牛じゃない、額に大きな角を生やした牛もどきの動物にひかれた一台の馬車が走ってきた。そんなにスピードは出ていない、ゆっくり漕いだ自転車くらいだろうか。
とはいえやっと会えた最初の現地人だ。相手の警戒心を刺激しないように声をかけながら大きく手を振って近づいていく。
相手も俺に気付いたようで牛車を止めて男性が1人降りてくる。30代くらいの小太りの男だ。ターバンのような帽子をかぶっていて人の好さそうな顔をしている。
「おやおやどうされましたかな?」
ほがらかに近づいてくる男の態度に俺は違和感があった。何かを企んでいるとかそうゆう悪い感情ではなさそうなんだけど、何だろう?
取りあえず旅の途中で道に迷ってしまったので街まで乗せていってくれないかとお願いしてみると、二つ返事で了承してくれた。
男性は【ポピドン】という名前の商人で、果物の買い付けと販売をしているらしい。馬車にはたくさんの木箱に鍬や荒縄なんかの道具が積まれている。ポピドンさんの牛車に乗せてもらい、目的地である【テビニーチャ】という街に向けて進んでいった。
彼は怪しさ全開の俺の質問に丁寧に答えてくれた。なんか必死にこちらの機嫌を損なわないようにっていう意気込みを感じてちょっと怖かった。俺は凶器の類は持っていないし、背は高いけど別に凶悪な顔をしてはいないと思っていたんだけどなぁ。もし転生の際に強面の顔に変更されていたらちょっとショックだ。早く鏡を手に入れるか水場に行って確認しないといけない。
しかし、必死で答えてくれるポピドンさんは、今の俺にはとても頼もしい。この世界の常識を一切知らない俺が普通の人に聞いたらまず怪しまれるだろう。国の名前や貨幣価値すら知らないんだから当たり前だ。
幸いにも言葉は通じるようだし、牛車の中に積んである木箱に書かれている文字は見たこともないものだったが何故か読めた。【パーラ】と書かれている箱にはリンゴのような果物が入っていた。
この世界は【アリエント】と呼ばれているらしい。聞いた限りの文明レベルは中世ヨーロッパくらいで剣と魔法の世界のようだ。流石は異世界テンプレ通りだな。
俺達が通っている草原があるのは【オーバレイド王国】という国の地方都市であるデビニーチャの街の近くにある【ホナップ草原】という所らしい。彼は【イスキ】という村から仕入れた果物を街まで売りに行くらしい。
一番為になったのはお金に関しての情報だった。普通だったら旅をしているくせにこの世界のお金を知らないなんて言ったら不審者確定だろうが、テンパっているポピドンさんは気づかなかったようだ。
見せてくれたのは三種類のお金。銅貨と銀貨、そして金貨だった。貨幣価値としては銅貨100枚で銀貨1枚分、銀貨100枚で金貨1枚分になるらしい。ポピドンさんが1枚だけ持っていた金貨をよく見せてもらうと、けっこうずっしりしている。大きさは500円玉くらいだがかなり価値が高そうだ。
ポピドンさんは、俺が金貨を観察している間ガチガチに緊張していたけど、金貨を返すと明らかにホッとしていた。失礼な、盗みなんてしねぇよ。
その後はしばらく牛車を走らせていて、荷台にいる俺は風通しようの窓から外の草原を眺めていた。そんな時急に牛車が急停止をしやがった。固定されている商品は動かなかったけど、俺の身体は衝撃で倒れた。イテテ。
どうしたのかと、御者席に座っていたポピドンに尋ねると、道に倒れている人がいるらしい。進行方向に目を向けると確かに20メートルほど先に人影が見えた。
牛車駆け下りたユキナリは、倒れている人影へと駆け寄った。
そこで倒れていた人物を見て、ユキナリの目が開かれる。
「これは……、獣人か!?」