ヤで始まる職業の人達。
宜しくお願いします。
自由都市フリーランドの国内は5つの地域に分かれている。
西側に広がる牧草地帯や、稲作やイモ、野菜等の栽培が行われている広大な畑が広がっている農業の盛んな【ウェスリード】地域。
東側はゴツゴツとした岩肌を持つ鉱山や採掘場があり、力自慢の男達が熱い汗を飛び散らせながら都市内に流通する資源を発掘している【ケラースト】地域。
大国であるシーナ王国と国境を面している北側には、軍部や自警団、役所なんかの防衛機構や都市の運営機構が置かれている。通常の国家であれば税金で運営される組織であるが、税金のないフリーランドでは各組織が副業を持っており自給自足で運営されている。その性質上中々にプライドの高いメンツが集まっている【アノラス】。
都市の中でもあまり開発がされていない南側には、能力面や人格面から他の地域では職に就けなかった者達が行き着く地域である。主な産業は遊郭などの風俗産業であり、スラム街や荒くれ者の住処などが点在している【サウダーレア】。
そして都市の中央には都市の各地から集められてくる素材を加工し、商品化する職人や、外国との商売をする商人が持つ店舗が軒を連ねている。名実共にフリーランドの中心である中央地区【ベルファニア】。
上記5つの地区によって運営されているのがフリーランドなのである。
住む所を求めてユキナリ達は、北地区アノラスにある役所へと来ていた。役所とは言っても日本にあるような建物ではなく、大きな酒蔵のような木製の建造物であった。門柱には【飛鼬組】と大きく書かれた表札が掛けてある。
「何用だ?」
入口で守衛をしているサングラスをした黒服が話しかけて来た。対応してきた男はひょろ長い体躯にピンと張った尻尾。短い獣耳が頭に生えている。組の名前からしてイタチの獣人なのだろう。
中央地区のガンドルフ鍛冶師の紹介で来訪した事、住居の紹介を依頼しに来たので通してほしいと黒服に伝えた。
黒服はユキナリのみを凝視すると、守衛を別の黒服に任せてアゴで付いてこいと示すと建物の中に入っていた。なんか俺だけ歓迎されてないような気がする。代わりに来た黒服も(左手の小指だけ無いけど気にしないでおこう)シャナやミールは一瞥しただけだが、俺だけジトッとした目で見てくるし。感じ悪いな。
黒服の後を付いて行ったユキナリ達は奥の部屋へと通された。正面から見た外観は酒蔵だったのに、中に入ってみると純日本家屋のような建物だった。畳や襖があるし。おい異世界、雰囲気大事にしろや。
「親父、お客人です。失礼しやす。」
日本庭園のような植木と石材のコントラストが美しい、庭に面している廊下を歩いていると、先導していた黒服がとある一室の前で止まった。
黒服が部屋の中に向けて話しかけると、襖を開けて入っていった。シャナとミールに待ってもらって俺だけで入室した。
結構広い和室の室内では、案内してくれた黒服が壁際に立っており、彼以外にイタチの獣人の黒服が総勢20人程の黒服が左右の壁際に仁王立ちしている。現れた俺に対して剣呑なオーラを発してくる。
「おう、てめぇが【テツ】の言っていた客人か。何用でい?」
黒服に囲まれるように奥に座っていたのは、濃い緑色の着物を着た壮年の男性であった。白くなった頭の上では小さな獣耳が動いている。切れ長で鋭い目からは年齢を感じさせない力強さが感じられる。その側には抜き身の剣が置いてあり(刀ではなく剣である。)威圧感を放っている。
あぁ、間違いない。こいつら役所の公務員じゃなくて、893の人達だわ。
ユキナリは深く大きなため息を吐いた。
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