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ノーマネー・ノーライフ  作者: ごまだんご
2章 新たな仲間と安住?の都市
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創世記学 2時間目

宜しくお願いします。



「はい、おはようございます。本日の授業は、自由都市フリーランドについて勉強していきましょう。教科書の29ページを開いてください。」


 アルフォンス講師の講義を受けている100名以上の生徒達がパラパラと教科書をめくっていく音が講堂に響く。


「皆さんが通っているこの学園がある【賢人国家サファイネシス】ですが、かつては自由都市フリーランドと呼ばれていました。自由都市というのは、国王や皇帝といった特定の統治者によって治められているわけではなく、都市1つで運営しているという特徴があります。長い歴史上でも、自由都市と認められていたのはフリーランドだけなのです。」


「先生、統治者がいないという事は税金を納めたり、兵役を課せられたりしないので、とてもお得なように思うんですけど、なぜ自由都市は今までフリーランドしかなかったのですか?」


 アルフォンス講師の創世記学を常に最前列で受けている金髪の女性【カエデ】が質問をする。この講義の名物の光景である。


「良い質問ですね、カエデさん。確かに都市全体の住民が平等の扱いですから、強制力のある徴収などはありません。しかし、国を纏める者がいないという事は、もし他国からの侵略に会った時に助けてくれる兵士もいませんし、都市で疫病や飢饉が発生しても自分達で全て対応しなければなりません。通常の国家では、国民の生活や安全を護る代わりに税金を納めてもらっているのです。義務を放棄するならば、庇護も諦めなければなりません。通常の1都市に国家の代わりが務まるほどのキャパシティがないのが原因だと考えられています。」


「それでは、フリーランドには国家に匹敵する強みがあったということでしょうか?」


「はい、フリーランドが自由都市として発展できたのには2つの理由があります。まず1つ目が種族差別のなさと技術力の発展です。」


 黒板に大きく技術力!と書かれる。


「元々フリーランドの起源は、魔物の中でもはみ出し者集まってできた集落でした。そこに行き場のない魔物や、問題を起こして他国に居られなくなった人間なんかが集まってきて大きくなっていきました。元々弾き出された者同士ですので差別なんかも起きなかったのでしょう。そうして多様な種族が揃ったことで、今まで単一の種族でしか使っていなかった各々の技術力が合わさることで、より画期的な道具や技法が生み出されたのです。他国にはない強力な武器を、戦闘力に優れた魔物や、連携に優れた人間が使う事で、他国からの進攻を防いでいたようです。」


 講師は懐から1枚の巻物のような物体を取り出した。


「これは、当時のフリーランドの特産品だった【呪文書(スペルスクロール)】という道具です。この巻物に特殊な技法で魔力を込めると、魔法を使えない一般人でも刻印されている魔法を使う事ができる、すごい道具です。残念ながら魔力を込める技法は失われてしまっており再現はできませんが、このような道具を使って都市の防衛をしていたのだと考えられます。」


 実は、創世記学の研究者としての私の目標は、この【呪文書(スペルスクロール)】を復活させる事なのですよ。というアルフォンス講師の言葉に、生徒の一部が目の色を変える。創世記学の第一人者であるアルフォンスでさえ解明できていない事を解決できれば大出世間違いなしである。向上心の高い生徒達のやる気が上がるのも無理は無かった。


「もう1つは、やはりユキの存在が大きかったのです。ユキは各地へ旅に出る事も多かったのですが、彼の拠点は長い間フリーランドにしていたようです。彼は【黄金の魔王】の異名のように莫大な資金を持っており、フリーランドの技術の発展や防衛費に惜しげもなく投資をしました。ユキが何故それほどの資金を持っていたのかは、まだ解明されていませんが、金は軍事面でも生産面でも根本となるものであります。その一手としましては、東の軍事国家【オーバレイド王国】への牽制の為に、南の蛮族国家【アプ】に資金や物資を融通していたという研究結果もあります。内政だけでなく外交にも優れていたのでしょう。」


「でも、ユキがそれだけ優秀だったとしても、突然現れた部外者に元々の住人達は大人しく従っていたのですか?全員が平等の自由都市なら突出した存在は嫌われたりするんじゃないでしょうか?」


「勿論、後に魔王とまで呼ばれるユキですが、彼らはまだ表舞台に立ったばかりの出来事です。自由都市の住人は長い間、大国であるシーナや、野心の強いパリックからの侵略を跳ね除けて来たという自負もありますので、急に現れたユキに従うような事はなかったでしょう。」


 解説をしながら、黒板に【謎の空白期間】と書き込むアルフォンス講師。


「実は、ユキたちがフリーランドに定住してから、最初の大きな戦いである【ラーナフライ砦防衛線】まで1年程の空白期間が存在します。この間の記述は発見されていませんが、別の研究者の仮説では、この一年の間に大規模な洗脳魔術をユキが行使したことでフリーランドを自由に動かせるようになったのだ。などと言っている方もいらっしゃいますね。あまりにも非人道的な行為の為に歴史書ではカットされたのだと。」


 私は信じてはいませんが、違うという証拠もないので別の仮説が発表されるまでは、否定できないのですという講師。


 そこにかかるはカエデ嬢のポツリと思いついた言葉だった。


「普通に生活していたんじゃないですか?隣人付き合いをして、都市の行事に参加したりして。一年間で普通に信頼を高めていったんじゃないかな?日常の生活風景だったら歴史書に載せる必要ないし。」


 カエデの呟きが聞こえたアルフォンス講師の目が光った。


「そうか!確かに後の悪名の為に悪逆非道な男というイメージが先行していますが、最初の彼は一般人と変わらない価値観だったはずです。テビニーチャの街を出て行かなければならなくなった彼は、奴隷達と静かに暮らしていくためにフリーランドで普通の生活を送っていても不思議じゃない…………!?すみませんが、今日の講義はこれで終わらせて頂きます。急いで論文を纏めて学会に提出しなければならなくなりましたので!」


 急いで荷物を纏めたアルフォンス講師は教室を出て行く。カエデを連れて。


「え?あれ?」


「すみませんが、カエデさん。あなたの発想を論文にさせていただきますので、共同研究者としてご協力をお願いします。」


 ズルズルと引きずられて行くカエデなのであった。




ご覧いただきまして有難うございます。


シーナ王国とフリーランドに挟まれている国の名前を変更しました。

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