ミール先生の異世界勉強講座 1
宜しくお願いします。
翌朝、朝食を終えたユキナリ、シャナ、ミールの3人は進路を西へと取り向かっていた。
行く宛てのなかったミールだが、元の主人である貴族の安否が分かるまでの間ユキナリが面倒を見る事になった。見た目が幼い彼女をほっぽり出すのも後味が悪いし、幸いアーツのおかげで金には困っていない。
とはいえ、タダで養うというのもバツが悪いのも事実だ。なので俺から2つばかしの要求をした。エロい事じゃないからな。
1つは、俺達との旅の中で知りえた情報を外部に漏らさないということ。特に【無限黄金郷】に関しては他人に知られるのは極力避けたい。絶対メンドクサイ事に巻き込まれるのが目に見えているからだ。
これに関しては、強制力とか拘束力といったものはない。そうゆう行動に制限をかけるような魔法もあるらしいんだけど、俺らは使えないし、ミールの人間性を信じるしかない感じだ。人間じゃなくてドワーフだけどな。
まぁ、もし密告とかしたら俺の全財力で復讐するって脅しといたから大丈夫だろう。顔が青くなっていたけど、信頼を裏切らないでくれれば俺ほど害のない男はいないとおもうんだけどなぁ。
そして2つ目は、この世界の常識や知識を教えてほしいというお願いだ。昨日の出来事にしても【鑑定】というアーツの存在を俺が知っていれば、あんな恥ずかしい勘違いをしなくてすんだのだろうしな。
地球から転生してからまだ1か月くらいしか経っていないユキナリは勿論、ケンタウロス族の集落周辺でしか生活してこなかった箱入り娘のシャナも、この世界の常識という物に疎いのも事実であった。
それに比べ、シャナと同じく魔物扱いされているドワーフの奴隷であるミールは、大国に仕える貴族の側近として王都で生活しており、国営図書館にて知識を蓄えた存在である。
ユキナリは生活費の提供の対価として知識の提出を求めたのだ。
ミールとしても、ユキナリと分かれた場合に生きていける目途もなく、主人である貴族の行方を捜すとしても資金は必要になるのだから、断る理由はなかった。
そうゆう事で、両者の利害が一致した結果、ミールはユキナリ達の一時的な仲間となったのだった。
走っている馬車の荷台でユキナリは、対面しているミールに怒涛の質問攻めをしていた。対するミールも自らの知識量に自信があるのか、淀みなく答えて行った。長身の男が見た目3歳児に勉強を教えてもらっているような光景に、この場に事情を知らない第三者がいたら驚くか、男を蔑んだだろうが、男も幼女も真剣だった。
因みに、もう1人の仲間であるシャナは、勉強という単語を聞いた途端に逃げ出した。今は馬車を引いている馬と一緒に外を警備しながら歩いている。
まず最初に聞いたのはアーツに関しての事だった。ユキナリも何となく使えたから【無限黄金郷】を使っていたが、そもそもアーツとは何かという事は知らなかった。
ミールの説明によると、技能とは職業毎に使う事のできる特殊能力だという事だ。例えば営業職である【武器商人】や【道具商】の職業を持つ人のは【価格鑑定】という商品の適正価格が分かるアーツを持っていて、商売に使っているとのことだ。
他にも戦闘職である【戦士】の職には、一定時間の間攻撃力を上げる【近接戦闘】のアーツを持っていたり、魔法職である【神官】は、癒しの力で外傷を治す【生命の息吹】なんかが使えるらしい。
さらに才能の高い者には、より高い性能を持つアーツが開花するものもいるらしい。ミールの持つ【技術診断】も、生産職である【細工職人】の持つ【鑑定】の上位版なのである。これら上位版のアーツは【星級】と呼ばれ、星級アーツを持っている者はエリートと認識されるらしい。
職業とは別に、魔物と分類されている人間以外の種族にも独自のアーツを持つ種族もいるらしい。ドワーフ族であるミールは【魔導技師】という魔道具を作る事に長けたアーツを持っているらしいし、ケンタウロス族であるシャナは【人馬一体】というアーツを持っていると思いますとミールが言っていたので今度聞いてみようと思った。
だとしたら、ユキナリが持っている【無限黄金郷】とは何なのか?彼の職業は【無職】である。無職という職業?のアーツが金貨を生み出せるということだったら、世の中はニートだらけになってしまうのではないだろうか?
その質問に対しての答えは、【月級】のアーツだと思います。というものだった。
月級とは、職業や種族等の括りによって得られるアーツとは違い、世界で1人しか所持していない特別なアーツだという事だ。所持できる条件は解明されておらず、生まれつき持っている者もいれば、後天的に入手できた者もいたらしい。それらの月級所持者の殆どが、英雄の末裔であったり、大賢者として名声を得ていたりと、特別な血筋や実績を上げた者が神に選ばれる事で入手できるのだと言われています、との事だ。
確かに、俺のアーツは神様から貰った物だ。一般人である俺が持っているのもおかしいのだろうが、異世界人というのが特別な血筋という条件に当てはまるのかもしれない。
ミールによれば、月級アーツの所持者はその殆どが大国の重鎮であったり、高名な冒険者であったりするそうで、一般人では話す事も難しい程の天上人ばかりなのだという。
「ユキナリさんのステータスを興味本位で見てみたら、知らないアーツの名前があって驚いちゃいました。私の【技術診断】だと、名称は見えるんですけど内容までは分かりませんので。」
ミールの星級アーツ【技術診断】は対象の性能を数値で表される自分にしか見えないスクリーンを目の前に出すものだ。ゲームのステータス画面のような物を想像してほしい。
因みに彼女が自分を対象にするとこうなる。
名前:ミール
種族:ドワーフ
年齢:25歳
職業:鍛冶師・細工職人・奴隷
階級:16
装備:耐熱防刃服
技能:【技術診断】・【魔導技師】
鍛冶師と細工技師のアーツ【鑑定】がランクアップした【技術診断】。ドワーフの種族統計アーツ【魔導技師】。ミールは月級アーツは持っていないのでこうなっているのだ。因みに奴隷は固有技能はないので2つだけになる。
このように大雑把な情報は見れるのだが、詳細までは見る事が出来ないという欠点を、ミールは持ち前の聡明な知識量によってカバーしているのだ。
成程な。アーツについてはよくわかった。
じゃあ次は…………。
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