幸成ピンチ!
宜しくお願いします。
ミールの可愛らしい口から発せられた、ユキナリ達の生命線とも言える秘密。ユキナリが使用する所を見てもいないのに、アーツの名前を当ててきたのだ。
最後にアーツを使ったのは、今日の早朝だ。まだミールに会っていないしバレるような発言も行動もしていないはず。あれだけテビニーチャの街では見た目に釣り合わない大金をポンポン使用しておいて今更な気もしないでもないが、ユキナリは自分の能力が大きな影響力を世界に与える事を理解していた。
もしかして、ミールは何処かの諜報員なのかもしれない。今までの彼女の話しは全部作り話で俺達の隙をうかがっていたんじゃないのだろうか?用意しておいた盗賊団を俺達に始末させて、こちらの最大戦力、シャナの力を測ろうとしたんじゃないか?それで手練れが仲間にいるのか、正体をバラしても対応できる状況になったから俺の秘密を話しだしたのかもしれない。お前の情報は私達には筒抜けだよ、と。
考え込んでいくユキナリには、もうその展開しか有り得ないのではないかという強迫観念にも似たプレッシャーが押し寄せていた。もし、彼が1人旅をしている時に今と同じ状況に合っていたら、もう少し落ち着いた思考が出来ていたかもしれない。
しかし、今のユキナリの思考を埋めているのは、圧倒的強者と対峙したときにどうやってシャナを無事に逃がすかという事だった。
僅か半月の付き合いだが、自分をご主人様と慕ってくれる彼女を愛しく思っているのも事実だった。前世では、ゴミを見るような目を向けてくる大人に疎まれながら生きてきたユキナリにとって、シャナの真っ直ぐな好意の眼差しに恥ずかしさと嬉しさを感じていたのだ。
絶対にシャナに危害は加えさせねぇぞ!魔剣の力が使えなくても刃物だし、スパイクで接近してミールを人質にできればなんとか逃げる時間を稼げるだろうか?分からねぇが殺るしかねぇ!5数えたら行くぞ。5……、4……、3…。
「あっ!すみません、急に言ったから驚いてしまいましたよね?私のアーツの力で【技術診断】と言います。」
2!…………あれ?
「鍛冶師や細工職人なんかの職業の人が使える【鑑定】というアーツのちょっとスゴい版です。お恥ずかしながら、これでもドワーフの神童と呼ばれていまして星級のアーツを所持しています。」
えっと、知らない単語も出てきて理解できない部分も少しあったけど、取り合えずミールのアーツの力で、俺のアーツの名前がわかったって事でいいのかな?良かった。俺の考えすぎだったのか。そりゃそうだよな。冷静に考え直してみれば、そんな小説の中でしか起きないような罠が早々起きるわけもないもんなぁ。
安心したユキナリは、張りつめていた緊張感が抜けた事で足から力が抜け、隣にいたシャナの背中にお腹からもたれかかった。
「ご、ご主人様!どうされたのですか!?」
ユキナリが抱えていた疑惑など思い付いてもいなかったのだろうシャナが、急に覆い被さってきたユキナリに驚いているが、決して嫌な訳ではない。その証拠に彼の体温を背中に感じることで顔を真っ赤にしているのだが、彼が落ちないように屈んで背中に担ぎ上げている。
「あー、悪い。今日は色々あって疲れたわ。ミールの詳しい話しは明日聞こう。今日は馬車で寝ちゃおうぜ。」
ユキナリがそう言うと、戦闘をこなしたシャナも、怒濤の1日だったミールも頷く。みんな疲れていたのだ。
ユキナリが馬車でゴロンと寝転ぶと、とてとてとやって来たミールが彼のすぐ横で寝転ぶと直ぐに可愛い寝息をたてた。ユキナリは彼女の髪をひと撫ですると自分が羽織っていた2枚しかない毛布の1枚を彼女にかけてあげた。もう1枚は体積の関係で馬車に入れないシャナが外で使っている。下半身は大丈夫でも、人間の上半身には夜の寒さは堪えるのだ。
年上なのだが、外見相応のあどけない寝顔のミールに小さく「おやすみ」と言うと、毛布の端を腹にかけて目をつぶった。
ミールが寝たあとに、ユキナリが然り気無くアーツを使って金貨を生み出しているのを、馬車を引っ張っていた馬が見ていたが、そのまま夜がふけていったのであった。
ユキナリの所持金。
・金貨 48枚 銀貨、銅貨ぼちぼち。
約4800万円也。
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