創生の物語
宜しくお願いします。
人間が空を舞う。それも1人や2人じゃなくて数十人の男達が奇声をあげながら打ち上げられていた。
よく見ると、花火ようにポンポンポンポン飛んでいく男達はある中心点から四方八方にぶっ飛んで行っている。
その中心には……俺がいる。全方位から凶器を振り上げた野蛮人が俺に向かって殺到してくるのを、シャナが風薙ぎの剣から生み出された竜巻で上空に跳ね上げている。
シャナは圧倒的な実力の持ち主だったようだ。戦力にならない俺を護りながら飛来する魔法を叩き落とし、襲ってくる男達を撥ね飛ばし無力化している。最初はシャナの美しさにゲひた笑いを浮かべていた男達もその戦闘力の差に攻めあぐねている。
「ご安心ください、ご主人様には指一本触れさせはいたしません!」
ポケッとシャナの勇士を眺めていた俺に、自信に溢れた凛々しい顔で護ってやると言われるとガツンと心にくるものがある。濡れそう……。男だけど……。
倒しても倒しても街中から湧いてくる荒くれ者の総数が100人に達しようという頃、魔剣により打ち上げられて気絶した者達による山が100人に達した時、つまり荒くれ者全員をシャナが打ちのめした東門前の広場にはユキナリとシャナ、ファルク子爵、ホットマン、スネイパの5人だけとなっていた。
「な、なんなのだ!お前らは!?」
ファルクがその端正な顔に脂汗を滲ませて糾弾するが、魔剣を一振りしてへばりついていた血を飛ばすと、その切っ先をファルク達へと突き付ける。
「我がご主人様に対して闇討ちに多人数での集団襲撃とは、貴族とやらのプライドも地に落ちたものだな!我等は失礼するぞ。これ以上貴様等に関わるのはご主人様に害にしかならないからな!」
シャナはユキナリを自身の馬の背中に乗せ、ユキナリが購入した馬車を引いている馬に目配せをすると、襲撃者の山から魔法でこちらを狙っていた男に風の矢を突き刺した。
「我等は街を出る。これ以上ちょっかいを掛けてくるというなら容赦はしない!死ぬ気があるというなら追ってきてもいいぞ。」
シャナはもう興味がないというように背を向けると東門の外へと歩いて行った。その後ろを従者のようにユキナリの馬が馬車を引いて付いてくる。
残されたファルク一行は追う事も出来ず恐怖で動かない身体のまま、小さくなっていく影を見送るしかなかった。
シャナさん、マジカッケー!
ホナップ草原に辿り着いた俺は、シャナに感謝した。
彼女の背に乗りながら彼女のぴょこぴょこ跳ねるポニーテールを撫でる。1度自由を手にしたというのに俺を助けに来てくれた感謝の意を込めてゆっくりと撫でる。
シャナは顔を真っ赤にしていたが特に拒絶をしないことから勝手に許可だと判断してその手触りのいい髪を撫でていた。
一通り満足すると(主に俺がだが)シャナにこれまでの事情を聴いた。
彼女は俺と分かれた後、ホナップ平原から脇に入った所にあったケンタウロス族の集落へと向かったらしい。彼女が捕まってから8か月程経っていたが、部族の情報は耳にすることが出来なかったとのことだ。
テビニーチャから馬である彼女の足で片道半日ほどの所にある集落には誰も居なかったらしい。家や畑は焼き払われていたが死体の類はなかったので、襲撃を受けたのか住処を変えたのかは判断出来なかったらしい。
元々部族の皆にも逢えたら良かった程度の気持ちだったので少し残念な気持ちを持ったくらいだったらしい。また半日かけて街の近くまで戻ったシャナは、ユキナリが街の外に出てくるまでキャンプ生活をしていた。なんか大量の狼の魔物がいたようで食糧にも困らなかったらしい。
そんな生活でユキナリが来るのを健気に待っていた所、急に東門が内側から弾け飛んだ音に飛び起きたシャナが様子を見に行くと、ユキナリが襲われている現場だったという事だ。
「それではご主人様、どちらに向かいましょうか?」
うーん、取りあえず道の通りに進んでみるか。
「了解しました、ご主人様。」
カポカポと2頭の馬が道を進んでいく。このテビニーチャの街での襲撃事件は、後世にて【黄金の魔王】と言われる【ユキナリ・ココノエ】と魔王の剣と呼ばれる重臣【シャナ・ココノエ】の出会いと共に語られる創生の物語の最初の記述だと言われている。
ご覧いただきまして有難うございます。
表現の間違いをご指摘いただきましたので、少しセリフに変更があります。