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ノーマネー・ノーライフ  作者: ごまだんご
1章 荒んだ青年と安全?な世界
11/66

貴族のジレンマ

宜しくお願いします。


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「なに!奴が街を出て行くだと。」


 テビニーチャの街の富裕層が住む一角にカペーロ伯爵の所有する豪邸がある。オーバレイド王国の貴族であるカペーロ伯爵は、隣国である【マシュカ王国】との戦争の際に功績を立てて伯爵の地位を国王より授かった名士である。


 武勇を認められて出世した伯爵には1人の息子がいた。名を【ファンク・カペーロ】という。


 跡継ぎである彼には子爵の地位が与えられている。カペーロ伯爵から家督を譲られると伯爵を名乗れるが、現在はまだ子爵でしかない。彼を表す相応しい言葉はイケメンだろうか、彫の深い顔に少しちぢれた金髪の髪をオールバックに纏めている。軽薄そうな雰囲気を醸し出す青い目が特徴的だ。イタリア人を想像してもらえれば分かりやすいかもしれない。


 彼はテビニーチャの街から北に向かった先にあるカペーロ領で暮らしているが、国王から父親に任務が出された魔物討伐の任に立候補した。武勇でならしたカペーロ侯爵の私兵は勇猛で鳴らし、領内では盗賊や魔物の被害はほとんどなかった。その為跡継ぎであるファンクは中々功績を挙げる機会を得られずにいた。


 今でこそ跡継ぎとしての地位に着いてはいるものの、武勇を誇りとするカペーロ家で支持を得るには相応の実績が必要だった。側近の騎士との修練で貴族として恥ずかしくない実力を持っていると自負していても、このまま実績を示せなければ自身を蹴落とそうという弟達に隙を見せる事になってしまう。


 焦っていたファンクは、国王からの任務をチャンスだと捉えた。一部の大型の魔物を除いて、基本的に魔物は人間の得物である。修練を積んだ騎士やベテランの冒険者からすれば取るに足らない相手なのである。個々の能力は高い魔物であるが、知力と技術を武器に数を使って攻める人間のほうが勝率は高いのである。


 カペーロ侯爵もファンクの焦りに気付いていたのだろう。今回の討伐任務は【バウンドウルフ】の群れの討伐だ。フワフワの毛皮を持った狼の魔物で一匹の戦闘力は弱く駆け出しの冒険者が狩れる相手である。流石に群れともなると駆け出しでは厳しいが、相応の人数が居れば対応できる相手でもある。


 普通に討伐軍を率いれば何十頭の群れであろうと楽に討伐できるであろう魔物なのだ。そのまま倒したのでは実績としては微妙なものである。なので侯爵はファンクに指示をだした。


 ・連れていける騎士は2名まで、兵士の増員は不可である。

 ・貴族の地位を使った強引な手は不可である。

 ・生活の場はこちらが用意するが、軍資金は必要最低限に抑える事。

 ・任務に失敗するような事があれば跡継ぎより失脚させる。


 厳しい制限であったが、苦しい状況でこそ挙げた勝利の価値が上がるというものだ。この条件をのんだファルクは信頼する部下の【ホットマン】と【スネイパ】を連れてテビニーチャの街の別邸にて準備をしていたのだ。


 3人とも腕に自信のある騎士であるが、今回は多数を少人数で全滅させなければならず、失敗も許されない為事前の準備が大事だった。周囲の地形や群れの正確な数などを調べていった。調査は主に頭脳派であるスネイパの仕事であり、武闘派で時間を持て余していたファルクとホットマンの2人は街の武器屋に来ていた。


 そこでファルクは棚にかけられていた一本の剣に一目ぼれしてしまう。風薙ぎの剣という刀身が緑色の珍しい魔剣だった。価格を聞くと180万と言われた。


 普段だったら即決で購入したのだろうが、現在はまずい。個人的な金を使えば買えるのだが、任務中に買った武器も軍資金の扱いになってしまう危険もあった。侯爵が気にしなかったとしても兄の足を引っ張りたい弟達は嬉々として突いてくるだろう。


 ならばとっとと任務を終わらせてから魔剣を迎えに行こうと意気込んでいた最中、愛しの魔剣が誰かに買われてしまったという情報だった。毎日その美しい姿を見に武器屋に足しげく通っていたというのになんという事だと嘆いたファルクは、部下のホットマンに魔剣を買った客の特定を命令した。


 実はあまりにも毎日来るのに何も買わずに魔剣を見つめるファルクが気持ち悪くて、金を持っていたユキナリに厄介払いのように押し付けたのは秘密だ。


 命令を受けたホットマンは捜査を始めてすぐにユキナリを発見した。貧相な恰好なのに美しい魔剣を持つ男。非常に目立っていた為だ。ユキナリが生活用品を大量に買っていることから長期滞在の旅人だと感じたホットマンはファルクに報告した。


 ホットマンからの報告を受けたファルクはすぐにユキナリに会いに行った。持ち前のカリスマオーラによって街中でも確固たる人気を獲得しているファルクは、貴族としての威厳によってただの平民でしかないであろう男から魔剣を貢がせようとしたのだ。


 しかしユキナリは、お前は馬鹿か?とのたまい欲しけりゃ金払えと言われたのだ。これは貴族としても騎士としても許せない屈辱だった。


 なんとか奴に一泡吹かせられないかと本来の任務そっちのけで考えていたファルクは、ユキナリが街を出て行くという話しに驚いていた。


「は、奴は保存食やポーション類を購入しており、先ほどは馬屋にて馬車と牽引馬を2頭仕入れ、街はずれに止めておりました。協力者に確認した所、奴の宿泊予定は本日までで延長の話しはきていないようです。」


 それは不味い。旅に出られてしまったら唯の平民1人の行方を追うのは困難だ。あれほどの魔剣に次ぎ出会えるのはいつになるのか?


 どうすればあれを俺の手に出来るのか…………。


 彼の青い瞳に濁ったよどみが広がっていくような感覚を側近のホットマンは感じていた。


「逃がさないぞ!俺の魔剣!!」


 その端正なマスクの口元が醜く歪んでいた。






ご覧いただきまして有難うございます。

次回から短いですが戦闘シーンが始まります。

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