二人の正体とキャプテン
「こら幸多!なーにサボってんだあ?」
対処の仕方に困っていると、遠くから声が聞こえた。声の方向を見るとよく焼けた肌に、焼けて茶色くなったのであろう短い髪の風格のある男前がグランドに立っていた。練習着姿の彼は、段々と僕達に近付いてきた。
「サボるなら今日のメニュー教えてからサボれよ」
冗談交じりにそんなことを言う彼はニカッと笑った。白い歯が眩しい。
「失礼な。僕はサボってなんかいません。優しい先輩として、入部希望の新入生を案内してただけです」
「の割には、随分楽しそうだったじゃねえか」
「そうそう!この子!マネージャー希望なんだって!」
いきなり話題がこちらに移り、びくりとした。
「マジか!入ってくれるとホント助かるよ。俺、連城崇矢。サッカー部のキャプテンだ。よろしくな」
「は、はい。えと…進藤遼介です」
握手を求められるままに返すと、ギュッと強く握られた。
「遼介か。お前、手ちっちゃいなあ。なんか、弟出来た気分」
ぐしゃぐしゃと頭をなでられる。俺もなんだか兄に撫でられている気分だ。
「それで?そっちの二人は選手希望で良いのか?」
僕の頭から手を放すと、今度は後ろの二人に目線をやった。
「高槻八尋です。杉下中学出身で、FWやってました」
「同じく杉下中出身の、赤羽龍也っす。GKやってました」
二人が軽い挨拶をすると、幸多先輩と崇矢先輩が眼を見開いた。
「高槻と赤羽って…、お前らが、あの高槻と赤羽か!?」
幸多先輩が信じられないというように二人を交互に見る。隣の崇矢先輩は落ち着いた様子で二人を見つめていた。
「監督からお前達二人の話はよく聞いている。名門である杉下の歴史でも、お前達の代、特にお前ら二人は優秀で、長年全国大会から遠ざかっていた杉下を、全国ベスト8まで導いたらしいな」
そんなにすごい人たちだったんだ…。僕も二人の事を交互に見ていると、八尋が照れたように少しわらった。
「僕達が優秀だった訳ではないですよ。メンバーに恵まれたのと、良い監督が来てくださったおかげですよ」
「そうそう。八尋はともかく、俺が優秀なんてありえないっすよ」
アハハと笑う龍也に、崇矢先輩はニヤッと笑った。
「まあいいさ。噂が本当か嘘かは俺が吟味すれば済む話だ」
そう小さくいったのを俺は聞き逃さなかったが、少し離れた八尋と龍也には聴こえなかったようで、崇矢先輩の笑いに少し戸惑っているようだった。
「それより、見学だけなんてもったいない。せっかくだから練習に参加してみたら?今日は監督も来る予定だし、新入生は今君達だけだから、いろんなことじっくり教えられるし。あ、でも練習着なんて持ってないかな…」
「いえ、一応準備はしてきたので、大丈夫です」
「よし!じゃあ早速着替えに行くぞ。ロッカーまで案内するからついてこい」
部室棟まで来るとそのまま崇矢先輩の後についていこうとしたところで、くいと肩を掴まれた。
「どこ行くの?君はこっち」
ずるずると幸多先輩に引き摺られるようにして、二人と別れた。
「マネージャーのロッカーは選手とは別なの。そんなに人数いるわけじゃないし、あんなむさいところにわざわざ行きたくないでしょ。それと、今マネージャーは僕しかいないから、広々と使って大丈夫だよ。あ、掃除は交代制ね。僕、綺麗好きだからこまめにやるよー」
「は、はい…」
さっきから思っていたが、幸多先輩はスイッチが入るとよくしゃべる。最初の印象はよそ行きのものだったのかもしれない。相手の反応はあまり気にしていないようだ。しかし、話題を振ったりするのが苦手な僕としてはありがたかった。