初めての先輩
そんなこんなで、ようやく食べ終わった僕達はグランドに向かった。
グランドは、私立の高校だけあってとても立派だった。サッカーのコートとは別に、テニスコートや屋内プール、野球のグランドにラグビー場まである。
部室棟と言うにはいささか大きすぎる建物の中にはトレーニングルームまであり、その立派さに気押された。
グランドに近付くにつれて、どんどん先輩達の声が大きくなっていく。それと同時に、僕の鼓動も大きくなる。今まで見てきたものとはレベルの違うサッカーが僕を待ち構えているかと思うと、緊張で押しつぶされそうだった。
そんなことを考えていると、視界が開けた。
「もしかして入部希望?」
突然、後ろから声をかけられてビクッとしながらゆっくり振り向くと、そこには運動部と言うには少々細すぎる人が立っていた。肩までのサラサラとした黒髪ストレートを靡かせた和風美人は、サッカー部と言うより、むしろ茶道部と言ったところだろうか。少々小柄な体格が儚さを際立たせている。しかし、僕よりはかなり大きい…。
「はい。見学させてもらっても大丈夫ですか?」
ボーっとしている僕をよそに、八尋が話を進めていく。
「やっぱり。全然問題ないよ。うちのサッカー部は厳しいけど、その分楽しいし、
レベルの高い子もたくさんいるから、良いライバルが見つかるんじゃないかな?」
容姿を裏切らない、穏やかな雰囲気の人だ。最初に出逢った先輩がとても良い人そうなので、僕は秘かにホッと息をついた。
「それじゃあ案内するよ。今なら丁度キャプテンがいるから、話を聞くといよ。」
そう言って歩き出した先輩に続いて、僕らも歩き出した。
「そう言えば、僕の名前言ってなかったね。サッカー部のマネージャーをやっている、有馬幸多です。ちなみに三年生だから、分からないことがあったら何でも聞いてね。」
やはり、先輩はマネージャーだった。男の人のマネージャーがいて、僕の気持は幾分和らいだ。そしてこの先輩なら上手くやっていけそうである。
「さっきから気になっていたんだけど、そっちの大きい二人はさておいて、もしかして君、マネージャー希望?」
前を歩いていた先輩が突然振り返り、僕の目の前に顔を近付けた。美形に慣れたものの、美人に迫られるとなんだか落ち着かない。
「…はい。そのつもりなんですけど……」
おずおずと見つめ返すと、先輩は眼を輝かせた。
「やったー!やっと入ってくれた!もう、マネージャー不足で大変なんだよー。やっと人手が増える!しかも僕より小さくて可愛い!文句ないよ!でかい男達ばっかりでうんざりしてたんだ!そっちの二人が入らなくても、君は是非入って欲しいな。僕の事は幸多先輩って呼んでね!」
突然マシンガンのように話し出した幸多先輩に吃驚して、コクコクと頷くことしかできなかった。