まずは自己紹介
そのあと、幸いにも通常通りにやっていた食堂で八尋はハンバーグ定食大盛り、龍也はかつ丼セットと大盛りラーメン、僕はハヤシライスを頼んで席に着いた。龍也の食べる量が多くて吃驚したが、体格を考えるとこれが普通なのかもしれない。
僕達は四人掛けのテーブルに、一人だけご飯の量が多いため龍也が一人で座り、その正面に僕と八尋が腰かけた。そして昼食を食べながら、改めて自己紹介をすることになり、厳正なるじゃんけんの結果、龍也がトップバッターになった。
「えーと、赤羽龍也デス。杉下中学出身で、GKやってました!でも別に、ポジションにはこだわって無くて、サッカー出来るならどこでも大歓迎!ちなみに身長は百九十六センチで、体重はヒ・ミ・ツ」
最後の情報に必要性を感じなかったが、でかいということだけは分かった。八尋と僕が無反応でいると、耐えきれなくなったように
「……ちょっとちょっとー、どっちか突っ込んでよー、俺悲しい」
と無きマネをし始めた。そんな龍也を無視して、八尋が話し始めた。
「まあ知ってると思うけど、高槻八尋です。龍也と同じく杉下中学出身で、ポジションはFWやってたよ。後は、うーん、あ、ちなみに身長は百八十五センチ。僕も龍也と同じで、サッカー出来ればポジションはどこでも良いかな」
二人とも本当にサッカーが好きなんだなあと思っていると、泣きマネが飽きたのか、ラーメンを食べていた龍也が八尋に向かって言った。
「お前がフォワードやんねーで誰がやんだよ。お前がフォワードじゃねーなら、俺もキーパーなんかしねーよ」
少し不機嫌そうに言う龍也を、俺が不思議そうに眺めていると、龍也と眼があった。
「もしかして遼介知らないの?高槻八尋って言えば、県でも有名な選手なんだぜ。実際、八尋がいたから俺たちは勝ち上がっていけたようなもんだし」
ズズーとラーメンのスープを飲みながら、龍也は得意げに話す。
「何言ってるんだよ、いくら俺が点入れたって、お前や仲間がゴール守ってアシストしてくれたから勝てたんだ。俺だけだったら負けてたよ」
八尋もまたセットのスープを飲みながら、しみじみと話した。二人ともスープを飲んで和んでいたので僕も何か飲もうと思ったが、あいにく水しか無かった。
「俺たちの昔話はこれくらいにして、遼介の自己紹介どーぞ」
すっかり和みモードで飲んでいた水を置き、姿勢をただした。
「え、えと、進藤遼介です。華岡中学出身で、下手だけどディフェンダーやってました。ホントはサッカー続ける気は無かったんだけど、やっぱりサッカー好きだから、マネージャーやろうと思って、ます」
ここで自己紹介を終了しようとしたのだが、それを許してくれないのが龍也だ。
「はいはいしつもーん!遼介は身長何センチ?」
あえて人が言わなかったことを!藁にもすがる思いで八尋を見るとにこにこしながら
「俺も知りたいな」
何て言うものだから、完璧に逃げ道を失った。
「………一六〇センチ…」
せめてもの抵抗でぼそっと言ったのだが、二人にはばっちり聞こえたらしい。
「マジで!?俺と四〇センチ差かあー」
「四〇センチじゃないもん、三十六ンチだもん」
僕はもう龍也を無視して、自分のハヤシライスに意識を集中させることにした。そんな様子に気づいた龍也が、僕の頭を軽く撫でた。
「ごめんな、カツ一口やるから、すねんなって。ほら、あーん」
別に拗ねてるわけじゃないけど、カツは欲しかったので素直に口を開けた。なにが悲しくてでかい男にあーんなんかされなきゃならないんだと思わなくもなかったが、目の前の美味しそうなカツにそんな考えは吹っ飛んだ。
パクッと食いつき、カツをもぐもぐと食べていると、龍也がニヤニヤ見つめてきたので
「な、なに?」
と問いかけた。すると
「いや、なんか動物に餌あげてるみたいで楽しいなーと思って」
なんて返ってきた。なんだそれ。
カツをやっと呑み込むと、今度は横から肩をたたかれた。
「遼介、俺のハンバーグも一口あげる」
と美味しそうなハンバーグを差し出されたので、それもパクリと食べた。
「あ、ホントだ。なんか楽しい」
にこにこしながら言ってくる八尋にもう何も言う気が起きず、僕はそのままハヤシライスに意識を戻した。