友達の友達
クラス全体の自己紹介が終わると、担任からこれからの予定が説明された。自己紹介の印象は、八尋の話通り運動部が多いことと女子が少ないこと。各クラスに五人いれば良い方らしい。担任の先生に至っては、若くて強面の先生だったということだった。
午前で帰宅ということだったので、僕達は学校内の寮へと向かった。
「遼介の部屋は何号室なの?俺は二〇三号室なんだけど、近かったりする?」
「えっと、うん。僕は二〇四号室だから、隣だね!」
「ホントに?嬉しいな。すぐに遊びに行けるね」
「うん!」
こんな偶然があっていいのだろうか。初めてできた友達がお隣さんだなんて、僕は入学早々とてもついているらしい。
「あ、でも遼介は二人部屋だから頻繁には行けないかな…じゃあ、俺の部屋に遊びにおいでよ。実は角の一人部屋だから、結構融通聞くんだよね」
「そ、そうなんだ。あれ、でも一人部屋って…」
僕の記憶が間違いでなければ…
「あー、言ってなかったよね、俺一応サッカー推薦なんだ。中学の時に知り合ったこの学校の監督に呼ばれてね。僕にとってもチャンスだったし、監督がとても素晴らしい人だったから、二つ返事でOKしたよ」
「す、すごいんだね!八尋は!」
この名門高校で推薦なんて、本当にすごいことだ。もしかしたら僕は、とんでもない人物と友達になってしまったのかもしれない。
寮につくと、同室者の子が台所で昼食の準備をしていた。
僕と同じくらいの身長だが、長男気質であるためか、現に大家族の長男なのだが、威厳があり同い年とは思えないほど落ち着いているので、僕はなんだか小さい弟にでもなった気分だ。同室者の彼、結城透馬が作ってくれたカレーを食べてお風呂に入ると、眠気が襲ってきた。お風呂に入り、髪を乾かさずに寝ようとしたところを透馬君に見つかり、しっかりブローされた後ようやく自室に戻れた。
そして窓から見える綺麗な桜を、ベッドに寝ころがって眺めているうちに、僕はいつの間にか眠ってしまっていた。
新入生というものは案外楽で、授業ではなく学校のオリエンテーションで数日が過ぎる予定だ。この日も、各教室の案内や書類の記入などが終わると午前で帰宅となった。僕は昨日の約束通り、八尋とともにグランドへ向かおうと教室を出ようとした。すると八尋が僕を呼びとめた。
「ちょっと待って。二組に俺と同じ中学の奴がいて、そいつもサッカー部に入部するんだ。一緒に連れて行っても構わないかな?」
正直人見知りの僕には辛いお願いであったが、嫌というわけにもいかず、僕は小さく頷いた。
廊下に出ようと扉を開けると、視界は白一色だった。というのも、僕よりはるかに大きい人が目の前に立ちはだかっていたのである。僕より大きい八尋より、更に大きい。大きいというレベルじゃない。巨人だ。視界いっぱいの白は、その人の新品のワイシャツだった。
僕が驚きのあまり硬直していると
「お、八尋!もう飯食った?まだなら一緒に食べねーか?」
「あ、そう言えばまだ食べてない。学食って今やってるかな?」
と、僕の頭上で会話が繰り広げられる。
ふと、目の前の彼と眼があった。
「もしかして、こいつがマネ希望の奴?」
僕の目線に合わせるように少し腰をかがませる彼の顔が、八尋に負けないくらいの男前だったので、僕は自然と後ずさりした。髪の色が八尋よりも明るくて、少し長めだから、ぱっと見ちょっとチャらい感じだ。
「そうだよ、彼が進藤遼介。遼介、このでかいのが赤羽龍也だよ」
「でかいのって…、まあいいけど。よろしくな、えーと、遼介でいいか?これから同じチームメイトだしな」
彼はニカッとさわやかに笑った。
「う、うん。よろしくね。僕も龍也って呼んでもいいかな?」
姿勢を戻した彼に、一生懸命上を向いて問いかけると、勢いよく突然龍也に抱きしめられた。
「遼介可愛い!ちっちゃいから自然と上目づかいになるんだなー」
「ぼ、僕がちいさいんじゃなくて、龍也が大きいんだよ!」
コンプレックスである背をからかわれているのだと知って、僕は必死にもがいた。しかし悲しいかな、激しい体格差の前に僕はなす術が無かった。
なかば諦めてされるがままに頭をくしゃくしゃにされていると、後ろから助け船が出された。
「それくらいにしなよ。早く昼飯食べたいんだろ」
いつもより幾分低い声に僕は少しビクッとしたが、緩んだ龍也の腕から見えた八尋はいつもと変わらぬ笑顔だった。
「ごめんごめん、体格のいい男子ばっかでちょっと飢えてたんだって」
だからと言って僕にその矛先を向けないでほしい。