第7話 志姫、冒険者ギルドで登録する
「そういえば、クァグマイアを使えると言うことは、ユミールはウィッチなのかな?」
クァグマイアは土系魔法の上位スキルだから、1次職のマジシャンでは使えないはずだ。スキル拾得のためには2次職のウィザード、女性ならウィッチにならなけばいけない。
「ウィッチ?なんかいい響きね、これから私もそう名乗ろうかしら。」
「・・・・・・? 今の君のクラスってなんだい?」
「変なこと聞くのね、あなたは。冒険者になってて聖職者以外ってクラスは冒険者しかいないでしょうに。」
そう言って、ユミールは私にカードを差し出す。ああ、これって冒険者カードか。確か、冒険者カードのシステムは神様が作りだしたとかの設定だったはずだから、1000年たっても仕様に変化はなかったのかな。とりあえず、ユミールの冒険者カードを覗いてみる。
名前:ユミール=ディ=パリィ
種族:人族
クラス:冒険者
クラス・位階:無し
所属クラン:無し
冒険者ギルド発行:ランクD
アピールポイント:土と雷系の魔法が得意なマジシャンよ。ソロで活動しているけど友達がいない訳じゃないわ、勘違いしないでよね。
「そうか、君は友達がいなかったのか。せ、せめて私が友達に・・・・くっ、おかしいね、涙が止まりませんよ。」
「ふかしこいてんじゃないわよこのエセ聖職者! 口元が笑ってるでしょうが!!」
「じゃあ、友達はいるんだね?」
「もちろん・・・・い、いるわよ?」
なんで疑問系なんだろう。ここはツッコミを入れないのが優しさだろうか。
「なんで疑問系なんだい?」
「うがーーー! あんた分かっててわざといってるでしょうが。だいたい、他のところを確認しろって渡してんのよ!!」
そういえばそうだった。でも、あんなネタになりそうなことを書いてるほうが悪いと思うのだが。気を取り直して、カードの情報を再確認してみる。ステータスやスキルは任意で隠せるから別にいいとして、所属クランは無し。やっぱり友達はいないんだな。
そうじゃないそうじゃない、問題ヶ所はクラスが冒険者になっている。冒険者は旅人から他のクラスにならないままでLv25まで育てると自動でなる職業だ。
ひょっとして、転職石の存在が知られて無くてみんな冒険者になるしかなかった? 冒険者は全ての1~2次職のスキルを一部を除いて取得出来るけど、3次職にはなれないし、冒険者極めても位階を重ねることが出来るんだろうか? 無理だったら冒険者って専門のクラスよりかなり劣るんだけど・・・
そういえば、さっき聖職者以外はって言ってたな。ということは、プリースト系列だとちゃんと転職できるようだ。それなら、私はとりあえず問題はないか。
「さっきから何カード見て考えこんでんのよ。」
「いやなに、クランに所属してないってことはやっぱり」
「いるって言ってるでしょうが! あったまきた、紹介してあげるから街までついてきなさい!」
私は引きずられるように街に向かって連れて行かれた。
学園都市ライテック
ユミールいわく、ルイスガルドで唯一冒険者アカデミーがある都市である。
冒険者というクラスはスキル構成が多岐に渡るために育成プランもバリエーションが幅広く、適当な育成を行うと痛い目を見ることになる為、1000年前の大戦後から比較的早い段階で設立された古い都市である。
そんな冒険者向けの都市に住んでるのにどうしてユミールはこんな残念なスキル構成なんだろうと、不思議に思って聞いてみたところ、彼女はアカデミーには通わず師事していた冒険者にずっと教えを請うていたそうだ。その師匠とやらが無知だったのか、ロマン型だったのか非常に気になるところだ。
「ということは、その師匠が君の唯一の友達と言うことでいいのかな。」
「違うわよ! 師匠は師匠であって友達なわけないでしょうが。」
「そうなのかい? ユミールが人の話をするのを初めて聞いたからてっきりそうだとばかり、すまなかったね。」
「どれだけわたしは寂しいやつなのよ、そもそもあんたとは出会ったばっかりでしょうが!」
ぎゃあぎゃあ言いながら歩き続け、やがて冒険者ギルドにたどりついた。あらかじめ二人で決めていたことだが、まずはギルドにシルバーウルフの討伐報告と私のギルド登録を済ませることにしていたのだ。
冒険者ギルドは大きさで言えばかなりのもので、せいぜい2階建ての一軒家くらいの大きさを想像していた私はかなり驚かされた。ちょっとした区役所くらいのレベルはありそうだ。考えてみれば、アカデミーのある都市のギルドとまでいけばギルドのメンバーも相応に多いのであろう。
「建物の大きさにも驚いたが、中も整然としてきれいなものだな、冒険者らしい荒々しさもない。」
冒険者登録用のカウンターに並びながら雑談をする。討伐報告を先にすると報酬がもらえないかもしれないとのことなのでギルドカードの作成を先にすることにした。
「アカデミー生も利用するからね。話によると、あんま素行が悪いのは斡旋という形でよその街にとばされてるそうよ。」
「飛ばされるって、徒歩とか馬車での強制移動かい?反発する輩がいそうだけど。」
「神殿と契約しているプリースト様が相手に応じてポータルで転送先を振り分けているという話よ。わたしも一度でいいからポータルに乗ってみたいわ。」
・・・ポータルってメジャーなものじゃないのか? それに契約しているのがプリーストって、アコライトじゃないのか。もしかして、アコライトだとポータルが使えない? スキル取得条件が違うのだろうか。これは後で確認しておかないと面倒なことになりかねない。
そうこうしているうちにこちらの順番が回ってきた。受付の子を見ると、どうにも私より若い。しかも制服のようなものを着ている。もしかして学生なのだろうか。
「失礼する。ギルドに登録をしたいのだが、君はひょっとしてアカデミーの学生さんかい?」
「あ、はい。アカデミーの学費や生活費が足りない人は簡単な町中での依頼やこうやってアルバイトをしてお金を稼いでるんです。書類はこちらにありますのでご記入をお願いします。」
なんか本当に役所にいるような空気になってきた。会話や文字が日本語と言うだけでファンタジー感がどんどん無くなっていくなあ。
とりあえず書類に記入だ。まずは契約書をよく読んで・・・うん、特に問題はない。要するにギルドに登録したら悪いことはするなってことか。記入欄は名前とクラス、それに所属クランと後はアピールポイントか。かきかき
「記入したよ、これでいいかい?」
「契約書はよく読みましたね? それでは確認させていただきます。・・・え? 貴方のクラスは冒険者じゃなくてアコライトなんですか!?」
「そうだが、アコライトじゃ冒険者登録は出来ないのかい?」
「い、いえ、失礼しました! アコライトでギルド員になられる方は滅多にいないもので・・・。聖職者の方は冒険者活動を行わないとばかり。」
ふむ、特に問題があるわけではないらしい、ならばいいか。
「他の聖職者がどうかは分からないが、特に問題がないなら登録をお願いするよ。」
「はい、それでは早速カードの方を作成させていただきます。ようこそ冒険者ギルドへ、歓迎いたします!」
聖職者で冒険者のなり手は思った以上に少ないようで、私はやけに歓迎されてしまった。それより、この子が声がやたら大きかったせいで、ものすっごい注目されてるんだけど。物欲しそうな目をしてる輩もやたら多く、勧誘が来たら面倒だとひそかにため息をついた。