第5話 志姫、一言だけ言葉を発する。それは雄叫び
私は今、非常に慌てている。
人類最強クラスの力というものをどうやら侮っていたようで、隠し扉の内側にだけついているノブを回そうとしたところぽっきりといってしまった。ドアまで破壊するわけにもいかないので、通風口のような場所を発見し、そこから脱出することにした。埃っぽいし散々だ。
ただでさえ遺跡と言うことで建物がもろくなっているので、今の力だとうかつなことをするわけにはいかない。そういえば、スキルも位階を重ねてとんでもないことになっていたが、ひょっとして対物にも効果が出るようになっていないだろうか?
早速私は神殿の壁にそっと、もう絶対に壊さないように手を触れつつ魔力を込め、Lv調節を138の最大状態で小ヒールをかけてみる。ごっそりと魔力が抜け落ちる感覚と共に神殿全体が発光、光が収まるとゲームの頃のような丈夫そうな神殿が蘇った。
さすがに汚れの除去などはされなかったので全体的にくすんだような状況であるが、神殿内はあらかた直っているようだ。あらかたというのは、いくつか穴のあいてるヶ所などが見受けられたからで、がれき等が見あたらない状況から、恐らく神殿の壊れた壁の一部が無くなっている部分が修理されなかったのだと思われる。
人体で言えば、腕を切断しても腕さえ残っていれば治せると言うことであろうか。上位の回復魔法ならひょっとすると欠損していても回復できるかもしれない。聖女として治癒魔法は重要事項なので要確認ということでメモをして置いた。
確認のため、再度隠し部屋に訪れてみるが、やはり内側のノブは元通りになっていた。元の強度を取り戻しているので多少力を入れても今度は折れることがない、と思ってたらやっぱり折れた。ヒールのかけ直しをするはめになった・・・・
これから能力の検証をいろいろとする予定だったが、人をおちょくるのが大好きな私は人自体が大好きともいえるので、一人で黙々と作業するのがとても苦手だ。
なので検証を移動しながらすることにして、当初の予定であったポータルでの移動を取りやめ、徒歩で下山をすることにした。取り出したるはおなじみ火属性のハルバード、バーサーカーの再誕である。
我が名は呂奉先。この戦乱の世に覇を唱えるものなり。
我こそは最強の『武』。敵うと思うならば立ちふさがるがよい!
「マーーーーーーーーー!!」
謎の雄叫びをあげながら私はハルバードを振りかざし、夕日をバックに悠然と下山してゆく。
行きとは違い道無き道を突き進む。道とは私が通った後に出来る物。ハルバードを振り回し、非破壊属性なんかついて無くても小ヒールで武器を直すので躊躇無く木々をぶったぎる。聖地といえどもこの森は不浄なり、破壊することに躊躇などいらない。
私は三国志が大好きである。特に呂布様。
とっかかりはシミュレーションゲームで魅力にとりつかれたのが始まりだったが、ある日であった蒼○航路のあまりにもぶっとんだ呂布様に出会い、私の中のイメージが完全に塗り替えられた。さらに惚れ込んだ。
人のいないこの場所でなら何も遠慮はいらない。思う存分能力を実感できる。考えるな、力を振るえ、体で能力の制御をたたき込め、今はひたすら馬鹿になれ、呂布様のように!
遺跡から山の麓まで戦場が広がっていった。
私の宣言通り、倒された木々で道が出来てゆき、遺跡までのもう一つのルートが出来上がってしまった。
ノリノリで呂布様になりきって暴れてはいたが、途中でさすがに体力が枯渇しかけたけど、小ヒールは怪我の治療だけでなく体力の回復も出来るようで、それに気づいてからはもう無尽蔵に暴れてしまった。とはいえ、治癒と体力の回復は一度に片方しか選べなかった。これはメモかな。
身体向上に関しては大体感覚がつかめたと思う。力業だけであれだけの破壊を巻き起こせたのは驚異でしかない。人前ではあのザック達を参考に力を押さえていくことにしよう。
魔法に関しては、非常に困ったことになった。
魔法は獲得したスキルLv内で細かく調節できるのだけど、1200オーバーという通常のカンスト値の10倍の数値は洒落になっていなく、Lv1状態でも一般のLv10よりも高威力を出していた。私は大魔王じゃなくて聖女なのに。
全力で攻撃したときなんかは殲滅戦の途中で空から襲ってきたワイバーンゾンビにホーリーライトを当てたら光が空まで突き抜けていった。ちなみに、浄化されたワイバーンゾンビは骨だけが残ったので、素材としてばらしてアイテムボックスに収納した。全長10mの大型だったのでかなり圧迫している。
一応、今麓で野営している時に倉庫に有用なアイテムがないかチェックしている。ゲーム初期時代の旧装備の他にも実用性のないネタ装備なんかも結構あったはずである。
あれ?なんか量がめちゃ増えてる気が・・・・ぎゃあああっ残り5アカウント分の倉庫まで追加されてる!
そういえば、アコライト系のクラスはどのアカウントにもいたからなあ。とはいえ、今の世界だと装備の質が分からないので、武器はあまり目立たないようしばらく旧式装備でいくことにする。
防具に関しては衣装装備で覆い隠せるから何でもいいけど、今の装備もまだ検証中なので当面はこのままで。
そう、衣装で気づいたことがあり、どうやら衣装装備による手触りは幻影+結界によるものだったようで、一度衣装をはずして装備し直したら、見事に返り血もろもろが無くなっていた。年頃の女子としてはこれはとてもうれしいものだ。
そのようなことを考えながら装備を漁ってたら、発見した。これだ、もうこれに頼るしかない。
『マジカルステッキオブラブリー』
イベント用ネタアイテムで、装備中は魔法攻撃力が20分の1まで下がり、激減する代わりに魔法のエフェクトがきらきらと派手になると言うものだ。
この杖自体の見た目も昔の魔女っこ変身用のステッキそっくりで先端には星形の飾りが付いている。装備したら期待通り魔力が大幅に抑えられたので当面は魔法を使うときはこの杖を装備して使うことにしよう。
試しにこの杖を装備して魔法を発動させたら、光の帯を出したりやたら目立つことになりモンスターが次々におびき寄せられ、殲滅後は野営地を移す羽目になってしまった。