第43話 志姫、Aはひっくり返さない 後編
「ちょっと、全然話が違うじゃないのよ!!」
ユミールの叫びと共にすぐそばから爆音が鳴り響いている。緑色の巨大ロボットが装備しているマシンガンからこちらに向けて次々に発砲されているからだ。
アニメだとマシンガンはビーム兵器に比べたら威力がぱっとしないものだったけれど、対人相手ではかなりの驚異になる。というか、攻撃を受ければ即死のレベルだ。
ある程度は戦闘を予想して戦術を練っていたが、さすがにこの状況は想定外である。ターゲットを抱え込みながら私は内心冷や汗をかいていた。
石像を通り過ぎた私達は山の中腹あたりにある洞窟の入り口でエリザベスさんと別れた後、山頂を目指していた。
幸い、石像や洞窟を通り過ぎても山頂までの道は続いていたため移動に困難はなかったが、その途中で地面から激しい振動を感知した。
最初は地震かと思い警戒をしていたのだが、突如地面が陥没してそこから緑色の巨大な腕が伸びてきた。丸みを帯びた金属製のボディ、まさしく巨大ロボットである。
陥没した穴からはい上がってきた単眼の巨大ロボットはその視線を左右に巡らせた後、こちらに気づいて有無を言わせず襲いかかってきた。
しかし、攻撃はうまく定まらず、挙動もおかしくふらふらとしている。機械の知識のない素人が動かせるはずもないし動きが慣れていないと言うよりは酔っぱらいというか、まるでロボットそのものがゾンビであるかのような挙動を見せている。
これならば制圧も余裕かと思ったところで、そのロボットが取り出したのはマシンガンだった。ユミールの叫び声を耳にしながら対処を考える。
「あのロボットの動きがおかしいのが気にかかる。ちょっとあれにとりついて中の人を確認するので援護を頼んだよ。」
「金属に雷属性の攻撃してたらあんたまで感電するわよ!?」
「大丈夫だ、問題ない。このロボットよりも私の方が丈夫だ。」
味方からのダメージを受けながらの特攻宣言にみんな引いていたが、HPも多ければ自前で回復も出来る私だと味方からの攻撃程度はほとんど効くことはない。
ロボットの背後に回った後その足に聖女パンチを喰らわせて膝かっくん状態にして、後ろに倒れかかったロボットの腕を取り、それを地面に突き刺した。
一瞬でも動きを封じることが出来ればこっちの物だ。私はコックピットの場所までよじ登って素手で強引に引っぺがしていった。バリバリと音を鳴らしながらハッチが全て開放される。
「あ、アンデッドだって!?」
思わず叫んでしまった。中にいたのはそのアニメの世界の兵士であろう、ぼろぼろになった服装をしたゾンビがいた。
ゾンビにロボットの操縦ができるのか等と驚愕していたら、恐らくコックピットに備え付けられていたのであろう、ハンドガンを取り出してこちらに発砲してきた。
油断していた私は銃の直撃をうけて、ダメージはなかったが体勢を崩してコックピットから転げ落ちてしまった。そしてロボットが再び立ち上がる。
「大変だ、あのロボットの中には向こうの世界の兵士のゾンビがいて、あれを動かしている。これでは一体やそこらでは済まないかもしれない。」
「散発ではなくて複数まとめて襲いかかってくる可能性があると言うことですか・・・。でも、こんなのを操縦できるとか、向こうの世界のゾンビは凄いんですね。」
校長が変なところで感心しているが、あちらの世界にはゾンビなどいない。おそらくは、土地に眠る死体がここに流れ着いてからゾンビ化したせいで変質でもしているんだろう。この場合はとてもやっかいである。ちなみに、銃で撃たれて転落したことに関しては誰も心配してこなかった。銃を知らないとしても、若干へこんでしまう。
「数は驚異だが、対処法は見えてきたよ。中身がゾンビであれば私の聖属性魔法が効くけど、それには今のように中に入っているゾンビを視認できる状態にしないといけない。」
「なるほど、要はあのロボットを完全に破壊する必要はなくて動きを止めて中の人?を見える状況にもっていく。今みたいな戦法ですね。」
「そうだね。そこまでいけば後は私に任せてもらえばいいよ、こんなふうにね。”ターンアンデッド”」
対不死用の浄化魔法を浴びたゾンビは、淡い光を放ちながら消滅していった。ホーリーライトだと物理ダメージも出るのでエンジン部分を誘爆させかねないので候補からはずすことにした。
「さあ、攻略の糸口は見えた。どんどん先に進もう。」
「またいつものパターンな訳ね・・・」
生身で巨大ロボットと渡り合う、なんて心躍る光景だろうか。
先程戦闘したロボットに似た黒色のロボットから放たれるキックをがっしりと受け止め、勢いよく吹き飛ばす。この爽快感。
次第に気分が高揚し始めた私は味方の援護のことをすっかり忘れて、ゲハゲハと高笑いしながら周囲にある大岩などをコックピットに投げつけたりしていた。
一人で2~3機倒したところで、味方への防御魔法のことをすっかりと忘れていた私はあわててかけ直したが、暴走する私が怖かったらしく、みんな涙目になっていた。ヒノミヤはひとりきゃっきゃと喜んでいたけど。
「・・・・あんたがバーサーカーって言われている理由がよく分かったわ。」
「女性として、と言うより、人として間違っているような奇声を上げながら戦ってましたわね。」
「巨大ゴーレム相手に素手で殴りかかったり岩を投げたりとか、志姫の奇行に見慣れていてもさすがに現実離れしてます。」
「でもでも、おねえちゃんはバーサーカーになってもかっこいいね!」
「今のがバーサーカーっぽかったのかい? あまり自覚はないんだが。武器を持って戦ってればだいたいみんな同じ感じじゃないだろうか。」
納得しかねる私の返答に対してみんなから徹底的に口撃されてしまった。
拳での肉弾戦を却下されて肉聖女として壁になりながらの単純作業にもどり、ストレスがたまりだしたが限界が来るまでになんとか頂上にたどり着くことが出来た。
眼下を見渡してみるが、思ったよりは木々が無く全体を見渡すことが出来る。アーチャーの位階を重ねたおかげでパッシブスキルの鷹の目を手に入れたため、周囲の様子がはっきりと分かる。
地面をぶち破って襲いかかってきたのはどうやら私達の進行ルートからだけのようで、この山から次々と飛び出して周囲に被害を与えるという心配は今のところ無さそうだ。
「この山の外側には人影無し、後はエリザベスさんの報告を待って異界送りだ。」
「またなんか湧き出てくる前に下山して準備始めちゃった方がいいんじゃないの?」
「そうだね。本当ならもっとガチで殴り合いしてみたかったけど、無理そうだしさっさと送り返す用意でもしようか。」
「あんな大きいの相手にバトルジャンキーにならなくてもいいとおもう・・・」
ティアミーがげっそりとつぶやいているが、全力で肉弾戦が出来る機会はあまりないから少しは華を持たせて欲しい。そう文句を言ったらユミールに鈍器でぼこぼこにされてしまった。理不尽だ。
下山に関しては、登山前に異界送りの儀を行う際に最適であろうポジションを確保していたため、ポータルで一気に戻ってきた。
毎度おなじみのBitchを取り出し準備を進めていると、エリザベスさんがどこからともなく現れてきた。エリザベスさんの固有スキルの私との合流能力を使用したようだ。
「内部に生存している人はおりませんでしたが、ゾンビがものすごく巨大な何かに乗り込んでいました。急いだ方がよろしいかと思います。」
巨大なのと言われていくつか心当たりはあったが、どう考えても面倒な予感がするので言われた通りに早々に異界送りの儀を行うことにした。
突発的な邪魔が入ったときのために全員に防御魔法をかけておき、Bitchを振りまいて陣を形成したところでそれは姿を現した。
山の頂上を突き破って現れたのは、先程まで戦っていたロボットよりも更に大きな上半身と長い長い胴体、むしろ管と呼んでもいいような物が地面から伸びており、下半身部分は見えていない。
一見するとこの山そのものがロボットとでも言えそうなこの光景に戦慄するが、儀式が発動すればこちらの勝ちだ。
「私の両目が白く輝く、異界へ返せととぉどろき叫ぶぅうう!!」
「うわっ、あんたいきなり何叫びだしてるのよ!!」
「志姫さんがテンションが上がりすぎて壊れてしまいましたわ!?」
周囲の雑音など聞こえない。
残念な物を見るような視線や雑音をシャットアウトして自分の殻に閉じこもり己をひたすら高める、これぞ明鏡止水、”中二モード”だ!!
「宗派! BL教が名の下にぃ、豪熱ぅ怪光線んんんっ、腐・女・子・・・・ビーム!!!」
かつて無いほど自分を高めてから放たれた腐女子ビームは、迫り来る超巨大ロボットの上半身に直撃してそのまま山へ押し返し、巨大な非歪みが発生して山が形を崩すことなくそのまま吸い込まれてゆく。
「なにそれなにそれ、燃える! 私もやってみたい!」
「おねえちゃん、わたしも~!」
精神年齢的にお子さまなティアミーもヒノミヤに感化されて私の中二モードにきゃっきゃ言い出した。今の私はヒーローに見えるのだろう、まんざらではない、いや、むしろもっと私を見るがよい! フハハハハッ。
他のメンバーのドン引きする視線を背に受けながら高笑いをあげていたら、突然目の前の地面からあのロボットの一部であろう頭とそれにつながる長い首がでてきた。
「うわっつ、まるでろくろ首のようだな・・・!」
「ちょっと、こいつあの吸い込まれて行ってる山からのびてるんでしょ、下手したら私達も巻き込まれるんじゃないの!?」
ユミールの疑問も尤もだ。仮にここで首を切り落としてもこいつをこの世界に残しておくのは非常にまずい気がする。
覚悟を決めた私はその首に向かって突進して、そのまま歪みに向かって押し込んでいく。最初は私の力で押し込んでいたのがだんだん歪みに吸い寄せられる力の方が強くなり、一緒に吸い込まれ始めた。これは・・・、脱出は不可能かな・・・。
みんなが私を救出しようと追いかけて来たが、確実にみんなも巻き込んでしまうのでとっさに水系魔法で氷の壁を形成してみんなの足を止める。巻き込むわけにはいかないからね。
山やあの超巨大ロボットと共に私は吸い込まれてゆき、歪みも急速に狭まっていく。
「帰り道がもうそろそろ完全に閉ざされてしまうな。」
どことなくその光景を他人事のように眺めていると、背後から機械の駆動音が聞こえてきた。この期に及んでもまだ私と戦うつもりなんだろうか?
こうなればとことん相手をしてやろうと振り向くと、そこにはあの石像が崩れだして中から白を基調としたロボットが現れてきた。
「そういえば、私はこのロボットが当時は大好きだったな。」
アニメの時のような光景で登場するロボットは、この場に置いてもやはり私の心を躍らせるが、これはアニメじゃない。あれは明らかにこちらの方を向いているので戦闘は避けられないであろう。
そういえば、あのロボットは石像のままだったのでゾンビが搭乗はしていないはずだがどうして動いてるのだろう? 疑問に思っていると、それはゆっくりとバーニアを噴射してこちらに近づいてくる。そして伸ばされる腕、明らかに戦闘の意志は感じられない。
危害は加えられないようなので黙って様子を見ていると、そのロボットは私をその手に乗せて一気に飛び上がり、閉じかけた歪みから私を押し出していった。
「そうか、君は私を助けてくれると言うんだね? ・・・・ありがとう。」
無人のはずのそのロボットの行動に、人ではなくても確かに感じられたその意志に、深い深い感謝を告げた。そのロボットは一度だけその両目を光らせて力を失ったかのように流されていき、その後歪みは完全に閉じてしまった。
「この・・・・バカ志姫が!!!」
感慨深く立ちつくしていると、怒鳴り声と共にユミールが真っ先に駆け込んできて、まるでバットを振るかのごとく鈍器をフルスイングして狙ったのかどうか、私のみぞおちに直撃した。
「ぐふおぁっ、ちょ、これはまじで痛い!?」
「あんだ、あんだねぇ、人をどんだけ心配させるのよ!? いなぐ、いなぐなっだがどおぼったじゃない・・・うう゛ぇええええんっ」
肩に強くしがみついて泣き出したユミールの頭を撫でていると、遅れて他の皆も走ってきた。戻ってこれて良かったとこの瞬間、本気でそう思えた。




