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第3話 志姫、凶戦士や神と間違われる

 初の転送魔法である。


 腕だけ入れたり足だけにょきっと伸ばしたりして転送先に人がいれば驚かせるのではないかと期待していたのだが、残念なことに、ポータルに触れた時点で全身が転送されてしまった。考えてみれば、あのポータルは双方向じゃないから無理だったよね、とあきらめのため息をつく。


 早速辺りを見回してみるが、ゲーム時のマップと比べて木々が増えているが地形自体は同じのようだ。だが、この登録していた場所は私の所属クランのたまり場としていた村のあった場所で、個人的に思い入れがかなり強い場所であったがやはり1000年もたっていれば村など無く、荒れ地となっていた。


「そうだ、いつかここに自分で村でも作ろう。」


 ふとそのように名案が思いついたので、一瞬感じていた寂しさなど忘れて楽しげな未来を予想する。ユリアの話によれば1000年の間に人の数も元に戻ってきており、ルイスガルドに始めからいた種族以外にも、歪みを通してまとまって流れてきた亜種族などもいくつかいるそうなので、そういう人たちを勧誘してみたいところだ。


 さて、未来に想いを馳せるのはこれくらいにして、そろそろ転職石に向かって山登りを始めますか。気持ちを切り替えて登山ーといっても傾斜からハイキングレベルではあるがーを開始仕様としたところで、山を覆う森の様子がかなり不気味であることに気づいた。


「これ絶対モンスターがいそうだな。しかも、雰囲気から言ってアンデッド系か。」


 廃墟とは言え、アコライトの総本山であるプリライトの山がアンデッドの巣窟ってどうなんだろう。聖域が力を失って逆に不死系の魔物を呼び寄せてしまったとかだろうか? 


 まあ、終末郷のアンデッド系モンスターは一部を除いて再生能力とかもないし、さほど苦戦することもないだろう。退魔系や火炎系の魔法を覚えていないのが気がかりではあるが。ああ、ヒールと腐女子ビームがあった。


 ヒールはアンデッドには有効ではあるが攻撃スキルに比べて連射速度は上だが燃費が悪いのでアコライトだと少々つらい。腐女子ビームはオーバーキル状態になるので亜種などのボス系でもない限りは使うことはないだろう。


 退魔スキルを手に入れるために退魔スキルが必要な場所を突破しなければならないなんて嫌がらせだろうか。まあ、嘆いても仕方がないのでさっさと登山を開始しよう。


 腐っても冒険者で、体力は7という数字でも元の世界と比べて格段に上のようで、登山自体にはさほど苦労はしない。廃墟とは言え人の出入りも多少はあるのであろうか、獣道よりも多少広いくらいの道が続いている。


 戦闘時に体力が尽きてるなんてことのないように、念のためウィンドウォークをかけておく。体が軽くなり、行軍速度が倍に上昇した。


 登山を開始してしばらくすると、樹木に覆われ薄暗くなっている場所から不穏な気配を感じた。サーベルを取り出し構えておく。奥から沸いてきたのはやはりアンデッド、見た目からしてゾンビのようだ、初の実践である。


 「初陣が臭い相手というのは嫌なものだな。しかも倒してもうまみがない。」


 本来聖職者ならアンデッドを見たら哀れんで成仏でもさせてやろうとか思いそうであるが、やはりゲーム脳の転移者。思考が明らかにずれている。とはいえ、臭気以外の忌避感はないようで、「ぶっ殺してやる!」とノリノリで構えていたサーベルでゾンビをざくざくと突いてゆく。


 最初のうちは人体の急所を突いていこうとしていたが、力や器用さはあっても剣技スキルは無いためうまく狙えず、命中してもゾンビにとっては心臓を撃ち抜かれてもトドメにはならないようでがしがし反撃されていった。終いには非破壊装備と言うことで開き直って思いっきり振りかぶって腕やら足を斬り落としていった。

 

 腕やら足やらを切り落とされて動けなくなったゾンビにトドメを刺した私は、しばらく歩いて戦闘跡地から離れた後、ゾンビ相手に有効そうな武器がないか倉庫を漁ってみる。ふと目に付いたのは火属性が付与されているハルバード、懐かしい。


 ゲーム初期は武器の見た目がNo.1で好みだったこのハルバードで暴れ回ったものだ。しかもアンデッド相手なら火は有効だし、これにしよう。




 私は聖女である、名前は志姫。


 ハルバードを手にした私はサーベルの時とは違い、ノリノリでアンデッド共を虐殺(?)して回っていた。リーチが伸びで肉片がこちらまであまりかかってこないのがいい。スケルトンを粉砕したときの手応えも素敵である。


 後から思ったことだが、初の実戦でハイになっていたのであろう。女性とは思えないような「ゲハハハハッ」とアンデッドもかくやという高笑いをあげながら暴れ回っていた。


 途中Lvも上がって、退魔系スキルのホーリーライトを取得できるようになっていたが、取るのも忘れてハルバードを振るっていたのは愛嬌というものであろう。そうか、このうっかりが萌えというものか。


 登山の方も順調で、日が落ちるまでには頂上付近までつけそうだと予想がついたとき、道の先の方から戦闘音が聞こえてきた。人の叫び声らしきものも聞こえてくる。人類との初の遭遇だ! ウィンドウォークをかけなおし、ハルバードを構えなおして突撃を開始した。


 1分ほど走った先では、5人の皮鎧に身を包み、さまざまな武器を持った冒険者か、あるいは山賊にも見えなくもないむさいおっさんの集団が鬼のような容貌のゾンビ相手に奮戦をしていた。


 あれはオーガゾンビだろうか。 私は走る勢いを殺すことなくそのままオーガゾンビに向けて突撃した。


 こちらに気づいたおっさんの集団は援軍が来たのかと喜色を浮かべたが、私の表情と肉片で汚れた僧服、金属部分が燃えているハルバードを見て「バーサーカーだ、逃げろ!!」と叫びながら私と入れ替わりに森の中に逃走していった。


 助けに来たのに失礼極まりない反応に対して気が立ったが、今はまず目の前の敵に集中である。


 勢いのままにオーガゾンビに一撃を当てたが、ダメージは通ったものの、致命傷にはほど遠いようだった。命中したらかなり痛そうな豪腕を必死に避けながら、懐ではハルバードを使えないためヒールでダメージを与えてみる。


 ハルバードよりもダメージは出ているようだが、倒す前にMPが尽きるかもしれない。


「ひ、ヒールだと!? おおい、スキル使ってる、バーサーカーじゃないぞ、戻って加勢するんだ!」


 ふと、おっさんの中に逃げずに離れていたところから偵察をしていた人がいたようで、私がヒールを使っている様子を見て叫び声をあげてこちらの戦闘に戻ってきた。間を置いて残りの4人も戦闘に加わったところで、勝負に出ることにした。


「今から大技を出すから合図をしたら一斉に離れるんだ!」


『へい、バーサーカーの姐さん、がってんだ!!』


 バーサーカーではない、聖女だ。と内心で反論しつつも射線の確保を取り、準備が整ったところで「今だ、散開!」と合図を出すと、見事な連携で一撃を与えてオーガゾンビの足を止め、散開してゆく。最高のタイミングである。


「受けろ、腐女子ビーム!」


 双眸から放たれた腐女子ビームは見事にオーガゾンビに直撃し、一瞬で浄化してしまった。 さすが私専用固有スキル、威力が半端じゃない。


 とはいえ、一発でMPを500も消費したため戦闘の疲労もあって心身共に力つき、その場に座り込んでしまった。と、浄化されたオーガゾンビの跡地に近寄っていたおっさんの一人が何かを見つけたようだ。


「おおおおおおお、カードが、カードがでたぞ!!」


「すげえ、カードなんて滅多に見たことがないのにしかもオーガゾンビカードか!?」


「さすが姐さん、おみそれしやした!」


『あっしらにもおこぼれを下さい!』


 みんなが口々に騒ぎ出す。さすがにいい歳をしたおっさんたちのあまりのはしゃぎっぷりに若干ひきつつも、見栄を張った私は立ち上がり、聖女らしく威風堂々とハルバードを地面に突き刺し、宣言する。


「私は君たちの戦闘に勝手に介入したにすぎない。もちろん、そのカードは君たちのものだ。私のことは気にする必要など無い。」


『あああ、貴方が神か!』


 おっさん達は放心状態で私を見つめ、次第に各々と跪いてゆき、私を見上げて感謝の言葉を口にする。


「私はただのせ、ごほん、旅の神官だ。冒険者だけあって無欲とはいかないが人の道理をはずれることはないさ。」


 その言葉に沸き立つ様子を慈悲深き表情で眺めながら、倉庫の中身を確認してみる。



 倉庫にはゲーム時代に狩りまくったオーガゾンビカードが32枚入っていた。



※オーガゾンビカード

装備ヶ所:鎧

効果:HP+1000、アイテムによるHP回復量10%UP


 

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