第35話 志姫、乙女津波でメッタ刺しされる
翌日、男津波の祭典を終えた後、疲労で突っ伏してしまった。
明日行われるであろう乙女津波に比べたらやはり空気というか、勝手が違うので精神的なプレッシャーが強かった。
もう少し地球のコミケの方でも男性向けイベントに参加して慣れておくべきだっただろうかとも思ったが、今のこの状況になることなんて予想が付くはずもなかったので詮無きことかと早々に割り切った。
「お疲れの所を失礼します。本日のイベントの件でご報告に参りましたが今よろしいでしょうか?」
ヴィエル教団内部では貴重なプリーストの一人であるウズメと言う少女がやってきた。年の頃は私と同じくらいだろうか。恐らくは会話が行いやすいように、私と同じくらいの年齢の少女を応対させているのだろう。
ユミール達パーティーメンバーを除けば、一番会話をしているのはライテックにあるラーメン屋のおっちゃんなんだけど・・・、まあいいか。
「君の方こそお疲れさま。それで、報告とはなんだい?」
「はい、今日のイベントに尽きましては、教団の被害は負傷者53でお客様方の被害者は負傷者282に誘導を行っていたコスプレイヤーや救護室控えの幼女の信者への誘拐未遂で逮捕された者13名の、こちら側の圧倒的な勝利となりました。なお、死者は双方共に0です。」
「ふむ、まずまずの戦果だね。それにしても、誘拐未遂の人数が予想していたよりも数が少ないようだけど、例年こんなものなのかい?」
てっきり正気を失って暴挙に走る者が多く出てくると思っていたのに若干拍子抜けしてしまった。
「イベントに参加をされる外来者の中には貴族の子女の割合が多く、後々で正式に本人に対して交渉を行うことが多いですね。
それと、誘拐などで女性を手に入れようとするなど、ヴィエル神の教義を真っ向から敵にするようなまねです。毎年徹底的に制裁を行っておりますので犯罪率は低下しました。」
あのお客様の中には貴族が数多くいたのか。ウズメに詳しく話を聞いてみると、この世界の貴族は倒錯した趣味を持つ者が多いようで、そっち系の薄い本がよく売れるそうな。
このコミケに関してはヴィエル神のお膝元に於ける神事として行われているため、階級などの差別は一切関知せずに治外法権として好きかってやっているらしい。
今度は貴族の子女の方を誘拐するような悪党が現れるのではないかというと、ヴィエル神のお膝元の中ではそのような悪党は即座に悪意を感知されて捕縛される上に各都市への送迎用のポータルが用意されているため安全のようだ。
ただし、貴族を主に相手にしたポータルの費用はかなり高額なようで、その他の接待費用も併せて教団の主な収入源になっている。薄い本自体は庶民の収入でも購入できるような良心的な価格のため、この祭典のためにお金を貯めて長旅をしてくる者も多いそうな。
「なるほどね。しかし、貴族で死者が出た時は面倒なことにはならなかったのかい?」
「祭典の最中は、蘇生魔法がいつでも使用できるよう待機してありますので問題ありません。ちなみに、貴族の場合は蘇生費用の使用にも料金がかかります。」
貴族からはとことん絞り尽くしているようだ。この話をユミール達が聞いたらどんな顔をするだろうか。彼女たちはあれでも全員貴族の子女や大商人の娘だからな・・・。
「ちなみに、ギルドカードを所持している冒険者に関しては便宜を図っております。その後の各都市への帰還の際にも護衛依頼の斡旋等も行っておりますので、そこは良好な関係を築けております。」
「なるほど、話は理解した。ところで、話は聞いていると思うが教団の引っ越しが行われた後での祭典はどちらで行う予定だい?」
「最初の数年はこちらの山で行う予定ですが、引っ越し先の地理を考えましたら、港町として機能さえすれば格段にユーデンの方が交通の便はよさそうですね。」
ユーデンでの産業自体は明確には決まっていない。
まずは信者のやる気という点では、コミケ会場を運営する上での通販や製本などの業種はまずはずせない。
土地は広いため、できれば造船業もこなせればよいのだが、さすがにこれは一朝一夕ではどうこうできそうにないかな。
「そこは同感だね。いずれはこの山は製紙のための資源地として利用しつつ、他の全てをユーデンに持っていくのが理想かな。」
「はい、ヴィエル神様も教団の引っ越しは賛成しておりますので、反対など出来るはずがございません。」
大体の話が終わったところで、今度は別のことで気になっていることをウズメに話すことにした。
彼女と初めてであった時から感じているこの違和感。そう、これでは彼女は真の姿をとっているとは言えない。
私は聖女である。迷える信者を導かなくては・・・!
「ところで、ウズメと初めてあった時から気になっていたのだが、君はイメージチェンジするつもりはないかい?」
「は・・・? い、いえ、失礼しました。唐突にどうされたのでしょう?」
「君からは素晴らしい才能の片鱗を感じるんだ。どうだろう、私に任せてはもらえまいか。」
「あの、聖女様からそうおっしゃっていただけるのは光栄です。是非、お願いします!」
彼女はやや堅物な印象を持ち、長めの前髪で隠しているようだがおでこが広そうな感じがする。
それを かくすなんて とんでもない
後ろ髪は三つ編みにして、ハサミを使って前髪を整えておでこの所を強調するようにヘアピンで留める。最後は虎の子の伊達眼鏡を装着すれば・・・完璧だ!
「完成だ・・・、素晴らしい。君にはこれから委員長という役職を与えよう。」
「委員長ですか? それってどのような役職なのでしょうか。」
委員長という役職はこの世界にはアカデミーにさえ無いようで、不思議そうな顔で質問をしてきた。
ヤック・デカルチャ! あとでフィシスにも言い含めてアカデミーに委員長をつくらせよう。生徒会や風紀委員はあるんだろうか・・・?
「委員長とは、生真面目な人がなれる選ばれし役職で、己が所属する場所をまとめ上げ、時には奮起させ、道を踏み外しそうな者には叱責を行うリーダー的存在だ。」
「そ・・・そのような大役がこの私に!?」
感激のあまり目を潤ませている。そ、それほど喜ぶほどのものでもないんだが・・・まあ、いいか。
「そう、君なら出来る、いや、君にしかできない。君は今日から委員長だ!!」
「ありがとうございます。私ウズメは委員長として精一杯頑張らせていただきます!!」
いきなり敬礼をしてきたので、何となくノリで敬礼を返してみた。ウズメは一瞬驚いたが、私の返しに嬉しそうにしている。
真面目で堅物というだけでもなさそうだ、ユミール達とも年の頃は同じだし、神殿との橋渡し要因にでもなってもらおうかな。
「それと、私は君のことをすっかり気に入ってしまったので、これからは聖女担当の窓口としても採用しよう。お願いできるかい?」
「光栄です! 聖女様とお役に立てるよう鋭意努力します!!」
顔を紅潮させてに告げてきた。少し興奮しすぎではないだろうか?
若干ウズメの様子がおかしい気もするけど、話はまとまったので次はいよいよ明日行われる第二の聖戦だ。
今日の敵の攻撃はタックルと打撃主体だったが、乙女津波はもっと陰惨らしい。
中にはヤンデレ的な人もいるらしく、お気に入りの作家やコスプレヤーに向かって刃物を持って突撃してくる人もいるようなので、細かい負傷者の手当は後回しにして重症患者の即時回収・救護を優先するように手配した。
ふと思ったけど、ウズメに感じている違和感はヤンデレの前兆ではないのだろうか・・・? ま、まあ、深くは考えないで置こう。
私は聖女だ。ヤンデレごとき、この鍛え上げた肉体ではじき返してくれるわ。フハハハハ!
「いたわ、聖女様よ! 総員、突撃いいいいいいいぃ!!!」
ナイフだけではなく、短剣や斧、それに長槍まで持ち出して次々に信者達が突撃してくる。
どうしてこうなった?
「昨日、志姫様が今日のための準備の最中、高笑いしながら『ヤンデレの攻撃など全てはじいてくれるわ』などと言われていたのを他の信者が耳にして、伝言ゲームの末にヤンデレの自覚がある者は聖女様が全て受け止めてくださるという話になったらしく・・・」
「なるほど、考えていたことをつい口に出してしまっていたのか。身から出た錆とは言え、ここまで来ると猟奇的と言うより狂気的だね。はっはっはっ。」
もちろんこのような状況下でも私は逃げ出すことはなく、堂々と迎え撃っている。魔法でも打撃でもどんとこいだ。
「あの・・・、本当に大丈夫なのでしょうか? いくら聖女様とは言えさすがにあれだけの刃物の前にさらされては・・・。ひょっとして、聖女様は不老不死とかなのでしょうか!?」
「いやまさか、普通に死ぬと思うよ。単純にそこらの冒険者よりも強いだけさ。」
心配そうな顔をされてはいるが、レディアタンの突進を受け止めたりユミールからの防御力無視の鈍器で殴打されるのに比べたら大したことはないからね。
ただ、信者達がなるべく怪我を負わないように素手での攻撃はNGと言い含めて置いた。
その際、「普通、武器の方をNGにするのでは・・・」とウズメがつぶやいていたけど、素手だと相手が大けがを負ってしまう恐れがあるのでしょうがない。
ただ、武器が効かないとはいえ、この武器を持って恐ろしい形相で突撃をしてくるトラウマものの光景はさすがに尻込みしそうではあるけど・・・。
しかし、撤退は許されない。私は聖女だから・・・!
・・・・聖女だから? 聖女ってこんなんだっけ?
自問自答を繰り返しながら、乙女津波・猟奇部隊の攻撃を次々に受け止めていった。




