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第34話 第3章 志姫、ヴィエル教総本山に現れる

第三章開始に会わせてタイトルを変更しました。


今後とも宜しくお願いします。

「諸君、これは我らの戦場だ。


 本日は男津波、そして明日には乙女津波が来襲するであろう。


 我らに撤退は許されない。


 それでは開門するぞ、総員、迎え撃て!!」


『うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』


 開門と同時に死にものぐるいの形相をした男達が押し寄せてくる。


 この時のために鍛え上げてきたという警備兵をものともせずにタックルではじき飛ばし、足止めのための泥沼を使用できる用心棒の冒険者を連携して追い込み、津波の第二派でその姿がかき消されてゆく。


「怯むな、各自持ち場を死守せよ!!


 我らが敵はお客様だ。だが、私達は何者だ? そう、偉大なるヴィエル教の聖職者ではないか。怪我を負わせても回復してやればいい。


 重歩兵部隊は足止め、その後コスプレ部隊は各自散開して目標を誘導せよ。怪我人がごねていたら癒し系幼女が待っていますと言って救護室へご案内だ!!」


『サー、イエッサー!』


「私は聖女だ!!」


『イエス、マム!』




 事の始まりはヴィエル神と共にヴィエル教の総本山へ向かった後のことだった。


 聖女志姫という存在は、ヴィエル神によっていずれ降臨する伝説の存在として半ば神格されていた為、熱烈に歓迎されてしまった。


「聖女様、我々に聖女の光の加護をお与え下さい!」


 信者の一人が、私に向かって懇願してきた。腐女子ビームは加護ではないんだが・・・


「聖女の光は神敵を討ち滅ぼしたりこの世界に発生している異常を正すためのもので、加護を授けたりする物ではないよ。」


「それは聞き及んでおります! ・・・お願いしたいことは、我らが薄い本を作成するために森を切り崩している場所がある山に、黒竜が住み着いてしまったのです。友好的に交渉を行おうとしましたが、交渉に当たった信者はそのまま犠牲に・・・。」


 周囲をよく見てみると、他の信者達も悔し涙を流していた。これから引っ越しを行うためその森自体はもう必要はなくなるかとも思ったが、ユーデン周辺は砂漠化していたために森が無く、当面はポータルを駆使してこの土地から資源を回収する必要がある。何より、善良な我らがヴィエル教の同胞を一方的に危害を加えたというのは許せる物ではない。


「・・・・黒竜の住むという山はどこだい?」


「ここから東に見えるあの山、そこの頂上付近に巣を張っております。普段はそこを動かないのですが、ひとたび山へ立ち入れば即座に襲われてしまうのです。」


「ふむ、ヴィエル神は手を貸してあげなかったのかい?」


 隣に佇むヴィエル神に向かって訪ねてみる。黒竜くらいならさほど苦労せずとも倒せると思うのだが。


「あれほどの力を持つ魔物だと、私が手を出すにはこちらもそれなりに本気を出さなくては行けなくてね。そうすると、他の神々を刺激してしまうかもしれないんですよ。」


 そういえば、ゲームの時でも基本的に動くのは人間や魔物だけで、神々や魔王は最終局面でしか姿を現さないとかだったはずだ。


「了解した。聖女の光をもって君達に希望をもたらそうではないか。そこでみているがいい!!」


『うおおおおおおおおおおお!!』



 溢れ上がる歓声の中、壇上から山の頂上に向かってまずは一撃を与えてみることにした。正確な場所が分からないため、最初は攻撃範囲がそこそこある火球を打ち込んでみよう。・・・射程は大丈夫だろうか?


 これだけ距離が離れていれば狙いもつけにくいはずだが、さすがに神をも越えると言われるだけの能力を持つだけあって、頂上付近に見事着弾した。


 魔法による炎のため延焼することはなかったが、位階を重ねている事による効果範囲の増大により、結構な広範囲を焼き尽くしていた。


 すると、山から黒い影が飛び上がってきた。あのシルエットは確かに黒竜のようである。


 魔法を撃ち込まれた方角から私の居場所を探り当てたようで、こちらに向かって真っ直ぐと飛んでくる。かなりの飛行速度を持つようで、みるみると迫っていき、信者達が怯えだしてきた。そこでヴィエル神が信者をなだめていった。


「皆、恐れることはありませんよ。理由は分かりませんが、志姫はわざとこちらへと黒竜をおびき寄せて、そこで迎え撃とうとしています。我らの聖女を信じましょう。」


 さすがに信奉している神の言葉の効果は絶対的で、すぐにざわめきは収まり、その表情は私に対する期待で満ちあふれてきた。


 そろそろ我らがヴィエル教団の総本山の麓付近まで迫ってきたところで、皆に声をかけることにした。


「この光は我らの希望の光、我らに薄い本をもたらせるための創世の光となるであろう。”腐女子ビーム”」


 放たれた腐女子ビームは、本来は全身を消滅させることも可能であったが、うまく調節して頭と胴体の間、首元をうまく突き抜けることに成功した。頭と胴体を切り離されては生きていられるはずもなく、その巨体は地面へ向かって墜落していった。


「い、一撃で黒竜を倒したぞ!?」


「まばゆい光・・・これが創世の光・・・!」


『聖女様、万歳!!』


 歓声の中、その手をゆっくりとあげて、その声を鎮めてゆく。落ち着いたところで


「喜ぶのは分かるが、まずは討伐した黒竜を回収しようではないか。運搬の手間を省くためにわざわざこちらまで引っ張ってきたんだからね。」


 私の言葉を聞いて、黒竜程度の討伐程度は余裕であると思ったのであろう。完全に英雄でも見ているような目をしている。だが、私の目的は別にある。


「さあ、皆で黒竜を回収だ!」


『応っ!』



「ぜぇ、はぁ・・・ぐぅ・・・お、重い・・・・。」


「ほらほら、みんなもっと気合いを入れないか。普段体を動かしていないからそこまで苦労しているんだぞ。」


 必死の形相で黒竜を運搬する信者達に発破をかける。


 信者達に交代で黒竜を運搬させることで、現状でのみんなの根性を試しているというわけだ。製紙のための伐採を行っているくらいだからある程度は様にはなっているが、全員が体を動かすことになれているわけではないので死相が見えている人も結構いる。


「せ、聖女様、これだけの巨体を10人で運ぶのは無理があります。せめて・・倍くらいは・・・ぜぇはぁ。」


「君は何を言ってるんだい? 鍛えればこれくらい一人で運ぶこともできるよ。ほら。」


 そう言って黒竜の下に潜り込み、その巨体を持ち上げて見せた。信者達は驚愕であごがはずれそうになっている。


「君達はどうやら一度鍛え直す必要がありそうだね。そんなことで明日の聖戦を生き残ることが出来ると思っているのかい?」


 その言葉を聞いて、皆の目に火がともっていく。やはりヴィエル教団にとっては聖戦は特別な意味があるようだ。 


「発想を変えるんだ。普段行っている仕事は全て聖戦のための鍛錬だと。ヴィエル神の使徒達よ、己の本分を思い出せ!!」


『うおおおおおおおおおおおお!!』


 闘志を燃やした信者達により、その後は怒濤の勢いで運搬を終えた。



「それにしても、まさかルイスガルドでコミケが出来ているとか思いもよらなかったよ。」


 黒竜の運搬を終えた後、解体を信者達に任せてヴィエル神と本殿でBitchを飲みながら談笑していた。


「ユリアリス様から地球とは違う役割を与えられたとは言っても、知識としては色々持ってますからね。あの人からの呼びかけが無くなってから1000年の間にいろいろと普及させてみました。」


 ヴィエル神はどことなく自慢げに話している。管理者の目の届かないところで好き勝手やっていたわけか。勿論、私からすればファインプレーである。


「素晴らしいね。とはいえ、その課程で生み出されたここの製紙技術、これを普及させていればヴィエル教団の地位はもっと上がっていたと思うんだが。」


「いえ、私達は信者という形式を取っておりますが、その本質は同志ですからね。欲におぼれて群がってくるにわか信者など私には必要ありませんよ。分かっていて聞いたのでしょう?」


「いやすまないね、試すような発言をして。それにしても素晴らしい。ライテックなんかでは他の教団が金の亡者と化して住人の生活を圧迫させてたからね。・・・そういえば、ギルド長と領主はあれからどうなったんだい?」


 すっかり存在を忘れていたあの二人のことを聞いてみた。またユミール達に危害を与えるようなら今度こそ息の根を止めないと行けない。


「彼らなら、志姫達がライテックを離れている間に私の結界で閉じこめて罪状を公開した上で住人のさらし者にしていますよ。その後はギルドの本部と王都にそれぞれ送りつけて、私に敵対するつもりなのかと上層部に問いつめる予定です。」


「なるほど、自業自得とは言え彼らも災難だね。元々上に立つような器でなかったのがそもそもの間違いだったのかな。」


「ははは、違いないですね。」


 ヴィエル神とBitchを飲みながら優雅な午後を過ごしていった。





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