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第31話 志姫、ユーデンの砂漠化に待ったをかける

 今、砂漠のただ中にいる私の眼前には、巨大な穴が出来ている。


 吸い込まれている範囲で見れば直径100Mを越える程になるかもしれない。私以外には見えないであろう歪みではあるが、実際に砂が吸い込まれていく様を見ればそこに何かがあるのは分かるであろう。


「あ、あれが・・・話に聞いていた歪みってやつなわけ?」


 ユミールがごくりと生唾を飲んでいる。他の皆もその光景に言葉も出ないようだ。


「ああ、ユリアが千年の間気絶していた間にあちこちに出来てしまったようでね、そのおかげで人やら物やらがあの穴を通して他の世界から流れてきてるというわけさ。」


「あの穴をほんとに志姫が消せるの? なんかみただけでものすごいんだけど。」


「まあね、消すだけならすぐにでも可能なんだけど、今回は歪みの影響で出来てしまったこの砂漠を何とかしないといけないから、手間ではあるね。」


 ユーデンのオートマタであるみやびの話によれば、この歪み自体は大戦前から発生していたとのことだったので、これだけ広範囲に砂漠が広がってしまっている。この砂漠を歪みを通して送り返さなければいけないわけだ。


 とはいえ、ここの砂を一気に送り込んだりすれば海水が一気に押し寄せて周囲に被害が発生してしまうので、方法は限られてくる。


「今日から数えて10日の間、この歪みは砂漠を飲み込んでいくわけだ。だからやるべき事はその10日の間に段階的に砂をどんどん穴から元の世界に送り返さないといけない。」


「どのようにして砂をここまで集めるんでしょう? いくら志姫さんとは言え、さすがに人の手に余りそうですが。」


 勿論、人海戦術や人のスキル程度でどうこうできる話ではない。現在就いている3次職のスキルを持ってしても有用そうなスキルはないので、普通の人では無理だ。


「みんなにはあの穴はただの黒い空間にしか見えていないだろうけど、私には空間の揺らぎ、歪みが見えているんだ。ユリアが言うには歪みが見えていると言うことは世界に対して干渉することの出来る能力があると言うことらしくてね、その力を使用して砂漠を無くすんだ。」


「あんたって、人格的には人をおちょくったりろくでもないくせに、能力だけは神様みたいなやつね。」


「でも、性格まで神様みたいでしたら私達がパーティを組む事なんて無かったと思いますよ。」


「言えてる言えてる、志姫はこのままでいいよ~。被害者はほとんどユミールだしね!」


「それが良くないっていってんのよ! ああもう、志姫と組むようになってからみんなにあんたの悪癖が移ってきたじゃないの!!」


 ユミールが怒りのままに地団駄を踏んで周囲に笑いを誘った。なんだかんだあったけど、そのまま受け入れてもらえたのは内心ではかなり嬉しかった。直接口にするのは野暮だから言わないけどね。



 その後、地団駄を踏みすぎて陥没した砂に足を取られて転んだユミールに対して、笑いから爆笑に変わってユミールがマジ切れしたのをなだめたりしてようやく落ち着いてきた。


「さて、それではそろそろ始めようか。私がこれから異世界から流れ着いた物を元の世界に送り返すという”異界送りの儀”というのを行う。


 本来なら一瞬で全てを送ることも出来るけど、先程も言ったように一度に全部送るのは周囲の被害が大きいので、10日間儀式を続ける。その間私は全く動けないので、君達には周囲の警戒と私の護衛をよろしく頼むよ。」


「剣士訓練場の時と同じやりかたなわけね。でも、10日の間志姫は寝ないで儀式を続けるの?」


 ユミールが話を聞いて、さすがに心配そうな声で確認してきた。心配は分かるけど、誰かに変わってもらうわけにもいかないので安心するような言葉をかけるか。


「その通り。位階を重ねている私なら10日程度不眠不休でも大丈夫さ。ポーション類も用意してあるから万が一の場合の備えもある。キャンプ用品を用意してあるから、ユミール達は交代で休憩していると良いよ。基本は警戒だけだろうしね。」


「志姫さんに任せきりなのは心苦しいですが、こればっかりは手伝いようがありませんしね。私達は私達で出来ることを確実に遂行しましょう。」


 校長の言葉に他の皆も頷いている。これなら後のことは任せても大丈夫そうだ。


「それでは”異界送りの儀”を開始するよ。後のことは任せるので、フィシスも加えての戦闘訓練とでも思って頑張って欲しい。」


『了解!』


 まずは、場所が砂地のため、火炎魔法を調節して20M四方ほどの足場を固める。そして神器であり、聖水でもあるBitchを円形に振りまいて更に細かく模様を造ってゆき、儀式用の魔法陣を完成させる。と、そこに


「なんでそこでBitchがでてくんのよ!! あんたふざけてないでまじめにやらんか!!!」


 ユミールが鋭くつっこんできた。うう・・・緊迫した場面でユミールのツッコミが来てゾクゾクしてしまった。


「みんなには言ってなかったけど、このみんなにも飲ませたBitchは最上位の女神であるユリアリスから授かった神器であり聖水なんだよ。私はそれで魔法陣を描いていたわけだ。」


『Bitchが神器!? そして聖水!?!?』


「あらあらまあまあ、そのようなご大層な代物をみなさん飲まれたのですか? 今度私にもご相伴に預からせてくださいな。」


「校長、Bitchを飲めるんですか!?」


「フィシスですよ、セティリアさん。神器であれば問題ありませんわ、それもユリアリス様からの授かり物だなんて・・・」


 うっとりとしながら私の手に持つBitchを眺めている。今までにない反応で背筋が凍るような思いをしつつ、気を取り直して儀式の続きをする。


 魔法陣に向かって魔力とは異なる、自身の力を流し込んでいく。ここで一度に力を流しすぎてはいけないので調節が面倒だ。位階を重ねすぎた弊害がここに来て発生するとは・・・、かなりの集中が必要のようだ。周りの景色が目に入らないほど、深く集中することにした。



「完全に集中しちゃってるようね。後はここでキャンプ張りながら護衛するわけかあ。まあ、がんばしましょう。」


「うふふふ、ユミールさんったら口では軽く言ってますが、目が真剣そのものですよ。ツンデレさんですね。」


「ツンデレじゃない! 私は根が真面目だから真剣に見えてるだけよ!!」


『ギルティー(有罪)』


 

 儀式は予定通り10日間続いた。


 当初、ユミール達は砂漠の表層が少しずつ歪みに向かって流れていく様を眺めながら散発的に戦闘を行っていたが、やっていることは砂漠を狭めていって最終的に消滅させることだ。だんだん砂漠が狭まるために砂漠に住む魔物も歪みに向かって流れてきた。


 そのため、日数が立つに連れて魔物の襲撃が激しくなり、最後の三日間はろくに休息も取ることも出来ずに戦闘を続けていたらしい。あらかじめ大量に作り置きをしていたポーション類を渡していなかったら確実に全滅したであろう。


 最後の方は直接の戦闘をさけて、歪みに向かって魔物を誘導する作戦で難を逃れていたそうだ。



 そして最終日。


「よし、多少砂漠が残ってるけど、ユーデンとここをつなぐ程度の地面は残して置かないと帰り道が無くなってしまう。このくらいにして歪みを消滅させるよ。」


「・・・・もう、早く終わらせてかえりましょ。私疲れちゃった・・・・」


 パーティー内で2人しかいない冒険者であるティアミーは特にきつかったのだろう。既に死んだような目をしている。もう片方の校長は高レベルなこともあり、ユミール達よりもぴんぴんしている。


「ポータルで逃げ帰ればいいのでは?」


 用事を済ませたらポータルで帰還というのは今までの私達のパーティーでのお約束になりつつあったが、今はそれが出来ない。


「歪みのそばだと変な影響が出てどこか別の場所に飛ばされかねないからね。万が一を考えて徒歩でユーデンに行った方がいいよ。」


「あんたのヒールで体力を回復させたとは言っても、これ以上砂漠を歩きたくないわ。さっさと終わらせてかえりましょ。」


「そうだね、私もさすがに睡眠を取りたい・・・・。ん? あれはなんだ?」


 まだ砂を吸い込み続けている歪みから何かが出てこようとしている。今の段階では、歪みはこちらから別の世界へ送っていってるので、その流れに逆流してルイスガルドに現れようとしているということだ。しかも、この気配は・・・


「この気配は神、もしくはそれに類する何かのようだ。ひょっとして、ここの砂漠化は単に歪みによる事故ではなくて人為的な現象だったのか!?」


「か、神って・・・歪みとか言うのから現れてくるって事は他の世界の神様!?」


「他の世界の神様がこっちから海を持っていって代わりに砂漠を送り込んできたというわけですか・・・、なんて迷惑な。」


 一度本物の神様にあったおかげである程度は慣れてしまったのだろう。みんなそれぞれ文句を口にしつつも迎撃の準備を始める。


「みんなには悪いけど、ここは私一人に任せてはもらえないかい? 死亡しても蘇生スキルで復活させられるとはいえ、神級の相手だとみんなの肉体が無事に残る保証がない。」


 この世界のユリア以外の神クラスならなんとか渡り合えるだろう。だけど、歪みを利用していると言うことは、相手も世界に干渉できる能力があるはずだ。最悪の場合、ユリアクラスを相手にすると思った方がいいだろう。


「ばっかじゃないの!? 相手の実力も分からないのに一人にしておけるわけないでしょうが!!」


「そうです、仲間を見捨てるようなことは出来ません。」


「聖女である志姫さんを置いていくなんてとんでもない! どこまでもお供しますわよ。」


 私でさえも危険だというのに、それでも残ってくれるという。神さえも上回るほどの力を手に入れつつあるのに孤独にならずに済んでいると実感が出来て、感激の震えが止まらない。


「・・・・ありがとう。それじゃあ、ユーデンでの最後の仕事だ。あいつを追い返すぞ!!」


『応っ!!』



 私達パーティー一丸による、ユーデン最後の大勝負が始まった。





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