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第29話 志姫、ヴィエル神を召還する

「聖女・・・だと? お前は一体何を言ってるんだ。」


 惨劇、そして沈黙の中で絞り出すような声でギルド長がようやく声を発してきた。その目には、最早どうにもならないであろうという悟ってか、恐怖が浮かんでいる。まあ、その通りなんだが。


「知りたいのか? そうだな・・・、本人が勝手に名乗っている、その宗派の本殿が偶像として祭り上げる、そして神がなんらかの使命を持たせて聖女としての力を与える。さあ、私はどちらだと思う?」


 私の言葉がすぐには飲み込めないのだろう。だが私が言葉を発するたびに周囲は恐怖で動きを止めて、感じられるようになってきたであろうプレッシャーで震えだしている。


「どうした? 分からないのか? ・・・・それとも、答えを知るのが怖いのか?」


「ひっ・・・ひぃっ、た、たすけぎゃああっ!!」


 私と目があった兵士の一人が突然血を吹き出して倒れた。何があったのか理解できないのであろう。私はその場から一歩も動いてないし武器を投擲したような形跡もない。魔法の詠唱も行っていないので、周囲からは恐怖と混乱がさらに煽られていく。


 もちろん、攻撃を行ったのは私だ。使用したのは詠唱妨害を目的とした念動魔法で、本来は微量のダメージで牽制するための物だが、私の魔力ならば兵士程度牽制の一撃で葬ることが出来る。


 私が目を向けた相手が次々に血を吹き出して死んでいくのを見て、領主とギルド長は観客席から逃げ出そうとしていた。しかし、腰を抜かせているようで這い蹲るように移動している。逃がすわけがない、逃げられるわけがない。場内の兵士をことごとく念動魔法で殲滅しながら、エリザベスさんに二人をここに連れてきてもらうよう頼んだ。




 現在、訓練場内には11人残されている。私とユミール達にエリザベスさん、アカデミー長と副ギルド長と気絶したままのマッシュ、そして領主とギルド長だ。


 白い炎を燃え広がらせていた火壁は既に消えており、100人を越える兵士達の死体は、エリザベスさんがことごとくエプロンに放り込んで処分してしまった。その光景を目にして領主が気が触れたかのように奇声を上げていたが、精神安定の魔法で無理矢理正気を保たせてある。ギルド長はかろうじて魔法は必要なさそうなので、そのままぎりぎりの状態でプレッシャーを与え続けている。


「さて、お前達、死ぬ前に言い残すことがあるか?」


「ふざけるな! 私は領主だぞ、こんな事をしてただで済むと思っているのか!?」


 正気を持たせているからか、領主はこの期に及んでも反抗的な態度で命令するかのような口調でしゃべってくる。


「貴様こそ、私に敵対行動を示して置いて無事で済むと思っているのか? それとも、今、この場に置いて誰かお前を助けてくれる者でもいるのか?」


 完全に切れてしまっているため、自分の口調も行動も過激な物になっているという自覚はある。だからといって、この感情を抑え込むつもりもない。


「少なくとも、ギルド長には一度は警告したはずだ。あれを見ても懲りるどころか行動をエスカレートさせていった。つまりは、自重するどころか私の能力を見てさらに欲望を募らせたわけだ。」


「・・・・ワシの目が曇っていたことは認めよう、化け物め。じゃがしかし、神の威を借りるどころか聖女などと名乗りここまで好き放題にした愚行、ワシらを葬ってもこれだけの証人がいるんじゃぞ。それ相応の覚悟があるんじゃろうな?」


 この期に及んでも生き延びようとする下心が丸見えである、本当に救いようがない。


「自分の悪行を棚に上げて好き放題言う物だな。」


「ふん、神の代弁者などと名乗り好き放題暴れるような聖職者なぞ、この程度で十分じゃわい。」


「あんた・・・ねえ、人を誘拐、脅迫をしておきながらよくもそこまで好き放題いえるわね!!」


「ユミール、こいつは自分の計画がことごとく失敗しているにもかかわらずそれを運が悪かっただけ等と勘違いしているような小男だ。知能からして私達とは別物なんだから気にすることはない。」


「貴様! 何を根拠にそんなことをいいだすんじゃ!!」


「そうだな、最初に私のことを詮索しないと言う約束を都合良く解釈して私の周囲をかぎ回っていたこと。トロールを焼き尽くした後私の杖を見て「これなら大丈夫」などと私の目の前で言い放つ迂闊さ。砂漠まで後をつけていた配下の者達が私が施したいたずらに気を引かれてそれを私の力の秘密と勘違いして本格的な調査をさせていたこと。あれを儀式用の魔法陣か何かとでも勘違いしてたんじゃないのか?」


「うがああああああ、だまれだまれえええええええ!!」


 私の言葉の一つ一つに羞恥と怒りで顔を赤くしていく。とどめは砂漠に残した、暇つぶしで作った地上絵の件でとことん虚仮にされていたということが分かって、自分がまるで相手にされていなかったという事実に錯乱して襲いかかってきた。もちろん、ギルド長ごときの攻撃など私には効くはずがない。鬱陶しいので蹴りを一発放つと数Mは転がっていった。まだ気絶まではしていないようだ。痛みで動けないままにこちらを睨んでくる。


「神の名を語る悪魔め、呪われるがよいわ!!」


 どこまでも自分勝手な発言で周囲から冷めた目で見られているが、暴言は止まらない。何をもって私を偽物だと言ってるんだろうか? いい加減黙らせてやろう。


「私は自分の行動を神のせいになどしていないぞ。私の行動、発言、それによる結果・・・全て私の物だ。神の名の下になどと言いながら好き放題するような輩と一緒にされては困るな。お前がどこまでも私が聖女であることを否定するというのなら、その目で確かめるが良い。”コーリングゴッド”」


 スキルの発動と共に空間に発生した切れ目に手を差し込む。召還対象の腕を掴んだ感触を確認して、引っ張り上げた。


 そこに現れたのは腰の辺りまで伸びた蒼い髪、そして穏やかな蒼い目をした長身の男性。私に引っ張り出されて多少は驚いた表情を見せているが、召還者である私の姿を見て納得したのか、嬉しそうな表情に変わる。


「ユリアリス様から伺ってはおりましたが、こんなに早く逢えるとは思いませんでしたよ、志姫。」


「私もこんな形で会いたくはなかったんだけどね。B・・・いや、こっちの世界ではヴィエル神だったね。」


『ヴィエル神!?』


 私達のやりとりを見てこの場にいる全ての者が驚愕する。まあ、目に前にいきなり神が現れれば驚きもするか。


「それにしても、ここまで貴方が怒りを露わにするのは初めてではないですか? 少しは落ち着いてください。」


「それは無理だね。何せこの二人は、私の大切な仲間達を陥れて危害を加えた上、あまつさえユリアに託された私の聖女という立場を否定してきたんだ。君はそれを許せるのかい?」


 ヴィエル神にとって自分の聖女を否定されたと言う事実を知り、穏やかな眼差しから表情が抜け落ちていく。その目で見つめられて、ギルド長と領主は「あ・・・あっ・・・」とろくに声も出せないまま震えだした。


「お前達は私が千年待ち望んだ聖女である志姫を否定するのか。彼女は私という神を生み出した親にも等しい存在。そして、私よりも上位の神であるユリアリス様より使命を授けられた本物の聖女であるぞ。何より、その力は既に我らよりも上である。お前達のような下劣な人間が手を出して良い存在ではない。」


「あ・・・あんたって規格外だとはおもってたけど、神様よりも上なわけ!?」


「単純な能力で言えばそうだけど、私は彼らのように神のつとめを果たしているわけではないしね。力が強いだけのただの人さ。」


「謙遜する必要はないよ。それに君は聖女としてユリアリス様に変わって世界の歪みを正す使命を帯びている。それに聞いているよ、失われた技術を世界に取り戻すために旅をしているそうじゃないか。」


「元々目的があったわけでもないしね。人々のためになるのなら私の力を貸すくらいはするさ。・・・でも、こいつらは私の目的を邪魔して、なおかつその技術を自分の物にしようとしていたわけだが。」


 ヴィエル神に褒められて若干照れつつも、肩をすくめて這い蹲っている二人に目をやる。元々、本物の聖女かもしれないと思いつつも恐怖から否定していたのに、神が降臨したのを目の当たりにして言葉を発することが出来なくなっていた。


「志姫、貴方には悪いがこの者達の処遇は私に任せてはもらえないだろうか? この者達は既に神敵となっているから貴方だけの問題で済ませるわけにもいかないのでね。」


「・・・私はそれでも構わないけど、他のみんなはそれでも納得してもらえるかい? 君達は被害者なのだし。」


 私に話を振られた他の皆は、一様に激しく頷いていた。頭を振りすぎだと思うけど。


「それでは、私はこの者達を連れて失礼するよ。ゆっくり語り合いたかったけど、それは今度にしよう。近いうちにヴィエル教の総本山に来てもらえるかな? 他の信者もきっと会いたがるはずだから。」


「ああ、一段落したら寄らせてもらうよ。それではまた!」


 私が手を振るとヴィエル神も手を振り返し、領主とギルド長を伴って消えていった。



「さて、君達怪我はないかい? 私の都合で振り回してしまったようで申し訳ない。」


 深く頭を下げる。そもそも私がいなければ発生しなかった問題だ、私に非があるとは思っていないが、巻き込む形で迷惑をかけてしまったので深く謝罪した。


 マッシュが大けがを負っていたので先に治癒をして、拘束されて痕が出来ているユミール達やアカデミー長にもヒールをかけていく。


「あの・・・ありがとうございました。その、志姫様。」


「アカデミー長、様付けはやめてもらえないだろうか? 私はこの世界で何か事を成したわけでもなければ神でもない、ただの志姫でいいよ。副ギルド長も手間をかけさせて悪かったね。」


「・・・・正直な話、私が手に負えるような事ではないので何も見なかったことにしてしまいたいんですけどね。」


「驚きの連続で動揺しているのは分かるけど、眼鏡がずれているよ。」


 あの中指でくいっとする動作さえも忘れるほどに呆然としていた副ギルド長。彼にとっては神様がどうのというより、ギルド長の犯罪とその後の対応で頭が一杯なのかもしれない。


「ねえ、ヴィエル神様があの二人連れて行ったけど、犯罪の証明ってどうするんだろう?」


「アカデミー長や副ギルド長、それに捕らえられていた貴族の子女である君達の証言でどうとでもなりそうではあるけど、放って置いてもそれはそれで構わない気がするね。」


「いやいや、あんたが逆に犯罪者扱いされるんじゃないわけ!?」


「自分たちの悪行が市民にばれないようにわざわざこんな所までおびき寄せたんだ、誰にも分からないさ。逃げた兵士も今回の件を誰かに報告すればアカデミー長やユミール達の誘拐の件で自分たちがお縄になることも分かってるだろうしね。」


「いや、そう言うわけにもまいりませんな。貴方に関しては聖女の件もありあまり公には出来そうにありませんが、誘拐に関しては犯罪として処理をしておきましょう。校長もそれでよろしいですね?」


「ええ、勿論です。志姫さんに禍根を残させるような真似をするわけには行きません。・・・後の問題は、彼ですが。」


 アカデミー長の視線の先にはバカ貴公子ことマッシュが倒れている。怪我は治療済みではあるけど、ユミールに対する天罰の効果が発生してしまうので起こしてはいない。


「彼は少なくとも今回は悪事を働いたわけではないしね。それに天罰を受けながらでもユミールを助けようとしていた。だから無碍には出来ないね。」


 ユミールが思いっきり顔をゆがめている。助けようとしてくれた感謝の気持ちより、これまでの積み重ねの方が悪印象が強すぎるのだろう。これでだめならフラグが立つことは一生なさそうだ。


「マッシュ様に関しては一度ギルドの方で預からせていただきます。事件の調査を行う際の参考人にもなりますので。」


「了解した、お願いするよ。それでは、そろそろ帰還しようか。」


 うっすらと夜が明け始めてくる様子を背後に向けて、ポータルを出しみんなで帰還した。



 明日はユーデンでの大仕事が待っている。今日はそのまま爆睡させてもらおう・・・ 





ギルド長がなんか邪魔に感じてきたのでこの話を考えたんですが、なかなか筆が進みませんでした。

志姫はやっぱりバカやってないといけないと実感しました。

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