第27話 志姫、魔王にメイド教育を施す
今、私達の目の前には魔王がいる。
腰まで伸びた艶のある黒髪にカチューシャを装着、メイド服には大きなポケット付きのエプロンが追加で装備されており、魔王の証である呪われた鎧が・・・
「あれ、魔王の証の鎧は? まさかそのメイド服がそうなのかい?」
「そんなわけないでしょうが! メイド服着た男の魔王とかがいたとしたらどうすんのよ、想像しちゃったじゃない!!」
「そうですよ。きっとあのメイド服の下に着込んでるんですよね?」
「いや、セティもおかしいから。あの下に鎧着てるとかどれだけ着やせしてるのよ、脱いだら凄いとか言っても限度があるでしょ!」
みんな微妙に混乱しているようだ。いきなり自分が魔王ですとか言われてもどうしたらいいのか分からない。
「あの鎧はこのエプロンのポケットの中です。ダンジョン中のゴミを収納したりしてますので、その辺のアイテム袋よりよっぽど多く入ります。」
カオスになりつつあるこの状況に動じることもなく、エリザベスさんが説明を始めてきた。
エリザベスさんはそもそも魔王を倒したわけではなく、ここの掃除に訪れたときに魔王の死体を発見したそうだ。
彼女は普通にゴミとしてエプロンの中に収納をしたが、鎧の呪いが発動してエプロンと一体化して取り出せなくなってしまったらしい。それで鎧が捨てることが出来ないため、魔王の名を受け継ぐ羽目になったとか。
「いやいやいや、そもそもなんで魔王の死体なんかが転がってたのよ。誰かが倒したのなら鎧の呪いでその人が魔王になってたはずでしょうが。」
「いえ、見たところ老衰のようでした。」
『天寿を全うした魔王!?』
なるほど、魔王になったら歳を取らなくなるとは聞かなかったし、あり得るのかな。そもそも、魔王になったら魔物に襲われることもない上に、こんな場所に人が来ることもない。寿命が来るまで生きていたとしてもおかしくはない、おかしくはないけど、先代の魔王は誰かが来るまでずっとここで待っていたんだろうか。何故か泣けてくる。
「ま、まあ、とりあえずエリザベスさんが魔王なのは了解した。その割には魔王っぽさが欠片も感じられないんだけど、呪いの影響は受けてないのかい?」
「鎧はエプロンに呪いを掛けてるように見えますね。そうなると、正確にはエプロンが魔王なんでしょうか・・・」
「そこは混乱しちゃうからエリザベスさんが魔王でいいとおもう。」
「そうですね、これ以上考えるのはやめましょう。エリザベスさんが鎧からの悪影響がないのなら付いてきても問題ないでしょうし。」
「そもそも志姫に比べたら魔王程度じゃ問題にならないでしょ。エリザベスさんが誰かに倒されたりでもしない限り。」
ゲームの時はエリザベスさんって倒せなかったんだけど、この世界だとどうなんだろう? 少なくとも千年生きている時点で相応の強さと、とてつもない寿命を持ってそうだ。最強の聖女と不滅の魔王のコンビ、素晴らしい。
たまり場に帰宅してからは、時間も遅いと言うことで適当に軽い物で食事を済ませた後早々に眠りにつくことにした。エリザベスさんは食事を作ったことがないらしいので、そのうち料理を覚えてもらおう・・・
部屋に関してはまだ2部屋空きがあったので、そのうちの一つを割り当てることになった。自室を持つという感覚がよく分かっていなかったようだけど、使っていれば理解してくれるはず、だと思いたい。
「ふぁあ~、おひゃよ~。」
「ティアミーまだ眠そうだね、顔洗ってきなさい。」
「ひゃ~い。」
翌日、いつもの時間になってもみんなはまだ起きてきていなかった。慣れないダンジョンアタックで疲労しているようだ。エリザベスさんは基本的に寝ることはないそうなのでこの場にいる。
みんなが揃うのを待つのもいつまでかかるか分からないので、エリザベスさんに料理を教えることにした。
「ところで、エリザベスさんは料理をしたことがないと言っていたけど、食事はどうしていたんだい? 無生物ではないから栄養は必要だと思うんだけど。」
「私の場合は、掃除をしてゴミをエプロンの中に入れると中で分解した後、そこから魔素を吸収しています。それでたまにあお鎧のように分解出来ない物がある程度たまったら粗大ゴミに出してましたね。」
「ううん、無駄なく栄養を吸収してるのか、エコというやつだね。素晴らしい。」
「お褒めにあずかり恐悦至極。とはいえ、普通に食事や睡眠を取ることも出来ます。そのような機会は今までありませんでしたが。」
食事が取れるのであれば、味見は可能というわけだ。これからは食事を一緒にとって味という物を覚えてもらう必要がありそうだ。さすがに味覚がないと料理を覚えるのは難しい。
本格的な料理は後日と言うことにして、今日はサラダの盛りつけや食器の洗い方等を説明するにとどめた。
みんなが起きてきた後食事を済ませて、これからの予定を立てることになった。
「エリザベスさんがいるから道に迷わないとはいえ、他の転職石まで行くのは体力的にも精神的にもきついと思う。なのでユーデンに行くまで残りは休暇にしようと思うけどどうだい?」
『さんせ~い!』
「志姫が来てから予定が目白押しでしたし、小休止というのは良いと思います。」
「強くなるのは良いですけど、回復役がいるとはいえハイペースすぎましたね。」
「ただ、あんまりライテックの中で目立つような真似はしないようにね、バカ貴公子の一味に気づかれたら面倒だ。」
各自で自由行動をすることになったけど、私はエリザベスさんに日常生活をいろいろと教える必要があるのであまり休みとは言えない。とりあえず町に出ることにした。
「今日のスープはなかなかじゃないか。ちゃんと骨を砕いてから出汁をしっかり取ってるね。」
「へい、姐さんのおっしゃるとおりでした。他に注意するところとかありやすかい?」
「注文の仕方に通だけが分かるようなバリエーションをつけると良いよ。簡単なところで言えば、まずはゆであがった麺の堅さを指定できるように。通常の注文方法で柔い、普通、堅い、超堅いの4種類。常連になってきた人がいたら更に上の堅さを注文できるようにするんだ。人にも寄るけど、この方法が浸透すると堅めを頼む人が割合増えるのでゆで時間の短縮になる。」
「なるほど。自分の好みが多少反映されるということでっさね。若干でも回転率が上がるのも素晴らしい。それで、上の堅さだとどのような言い方をすればいいんで?」
「まるで金属のような堅さという意味の”針金”、お湯の中で麺に付着している粉を落とすだけという意味の”粉落とし”、お湯にささっとくぐらせただけの”湯通し”あたりだね。ただ、この辺まで来ると、麺が胃にたまってしまって替え玉をあまりしてもらえないというリスクもある。なのでこれは一般には普及させずにおくといいよ。そうすれば常連は常連で「自分たちだけが知っている特別な注文方法」というエリート意識みたいな物が芽生えて常連の地位が更に確保されるからね。」
「よくわかりやした。さっそくメニューの方から4種類の堅さを調節できるようアピールしやす!」
「うむ、期待しているよ、頑張ってくれたまえ。」
今日もオーク骨ラーメンでラーメン談義をしながら注文を済ませて、非常に満足な気分である。食に慣れていないエリザベスさんには私の好みを仕込んで味付けをこっちよりにさせることも出来るし一石二鳥である。
どうせ旅が多くてそれに付いてくるとしたら、日常生活での常識は最低限仕込みながらその都度説明をして、食の方面から極めてもらう方がいい。何かあっても、ずっとメイドをしていて常識に疎かった人ということでごまかそう。
「あの店のスープ、独特の臭みがありましたが人によっては中毒性がありそうでしたね。」
エリザベスさんが歩きながら話を切りだしてきた。単に口にしただけではなくて興味を示している、良い傾向だ、
「あそこのラーメン屋は私の好みを徹底的に反映させてるからね。きっとこれからも繁盛するさ。エリザベスさんにも私の好みをいろいろ知ってもらうつもりだから、今日は食べ歩きをするよ、次はクレープだ。」
「かしこまりました、志姫様。お供します。」
私によるメイド教育の一日は食べ歩きで終わってしまった。




