第26話 志姫、魔王をテイムする
『ほんっとうにごめんなさい!』
魔王の本拠地とされる大戦前の首都アセトアの遺跡の中で、私達5人は一人の魔物の前で土下座をしていた。
彼女の名はエリザベスさんといい、各地のダンジョンで神出鬼没に現れるお掃除メイドである。レアモンスターではあるが、出会っても倒せた者はいないと言われている。HPが無限との噂もあるけど、真偽のほどは定かではない。終末郷オンラインをプレイしたとき、古参の私でも出会った回数は片手で数えるほどで、ワールド内に一人しか存在しない上にどこにでも現れるので探し出すのはほぼ不可能だったからだ。
ゲーム中に置いては、彼女の前でドロップ品等のゴミを視界内にばらまくと全て拾われてしまい、説教という名の個人チャットが30分に渡って延々と流れるというろくでもない仕様になっていた。まさか、この世界において彼女の説教を初体験することになるとは思わなかった・・・・
一通り説教が終わってようやく許しを得たので、正座のしびれを抑えながらみんなが立ち上がってくる。まあ、私は日本人だし立場が立場なので正座は慣れたものだが、痺れはしないものの石畳の上はつらかった。
隣にいたユミールの足をつんつんとしてみたらものすごく怒られたけど、あのぷるぷる震えながら立つ姿を見せられたら仕方がないと思う。
「エリザベスさん、貴方に聞きたいことがあるのだが、教えてもらえるだろうか?」
「なんでしょう、千年メイドの私に答えられることでしたらどうぞ。」
千年メイドと言うことは、エリザベスさんはゲームの時代に生まれてきたと言うことなのだろうか。まあ、聞きたいのはそこではない。
「各地のダンジョンを掃除して回っている貴方だったらここのダンジョンの道筋が分かるのではないかと思ってね。行きたい場所があるんだけど、案内とかしてはもらえないだろうか?」
「・・・人族が魔物に道案内を頼むとは珍しいですね。この迷宮内で案内できないところはありませんが、私が案内をしても何の得にもならないんですけど。」
尤もである。お掃除メイドと呼ばれていても、別に私達が歓迎されているわけではないししょうがない。とはいえ、この迷宮の案内が出来るというのであれば、なんらかのアイテムでも渡せばお願いを聞いてもらえるかもしれない。
アイテムボックスを広げて中を漁っていたら目にとまった物があった。アコライトへの転職の際に掃除に使ったテイム用アイテムであるこのほうき、これって確か期間限定イベントで1位を取ったときの報酬であるエリザベスさん専用のテイムアイテムだったはずだ。これを渡せばお願いを聞いてもらえるかもしれない。
「そうだね、それではこの箒を差し上げるからお願いを聞いてはもらえないだろうか?」
「・・・・!? そ、その箒は!!」
箒を見たエリザベスさんはものすごい勢いで奪い取るようにして手に持ち、そのまま動かなくなった。いや、動いてはいないんだけど、頭上にスロットのような物が現れて激しく回転をしている。・・・これってテイム判定じゃないのかな?
回転していたスロットが止まると7の数字が三つ揃い、そのままスロットが消滅してしまった。
「ご主人様、貴方のお名前をお教え下さい。」
『ご主人様!?』
エリザベスが動き出すと同時にとんでもないことを言い始めた。もちろんみんなは驚いている。ああ、やっぱりテイムに成功してしまったようだ。本来エリザベスさんのテイムはLUC依存のせいぜい良くて5%程度のものだったはずだけど、位階を重ねてLUCが人外に高かったから、そのせいと思われる。
ともあれ、テイムに成功したのなら道案内を任せることも出来るだろうし結果オーライである。
「私の名前は志姫で、彼女たちは右から順にユミール、ティアミー、セティリア、エリシアだ。よろしくしてやって欲しい。ちなみに、ご主人様ではなくて名前で呼んでもらえると助かるかな。」
「かしこまりました、志姫様。それで、道案内を希望とのことでしたが、どちらへ向かわれますか?」
「まずは大聖堂へ行きたいんだけど、ダンジョン内部を普通に移動してどれくらいかかるかい?」
「ただ移動するだけでしたら5~6時間といったところですが、途中でモンスターも数多くいますので倍はかかると思っていただければよろしいかと思います。」
話を聞いたみんなはいやそうな目をしている。ダンジョン突入自体が突発的な物である上に、探索で半日かかると言われればしょうがないのかもしれないけど。
「こらこら、みんなそんなにいやそうな顔をするもんじゃない。道案内付きでダンジョンの探索が出来るなんて楽な方じゃないか。年少組はダンジョンの探索なんて初めてだろう? 今のうちに経験を積んでおくといいよ。」
「いえ、私達はアカデミーの研修で初心者向けのダンジョンを踏破したことはあります。まあ、ちゃんとしたダンジョンはこれが初めてですが。」
「経験を積むという話なら確かに悪いことではありませんね。私はやります!」
年少組はそこそこやる気を取り戻したようだが、ユミールの方が反対に気まずそうな顔をしている。
「ユミール、どうしたんだい? 何か問題でもあったのだろうか。」
「・・・・わたしはダンジョン行くのはじめてなのよ。アカデミーも通ってなかったし。」
「なるほど、とはいえ、ユミールだったらそれほど気にする必要はないと思うよ。これだけ通路が広ければ使用する魔法の種類も多く選べるし、探索の際に前に出ることもない。昨日視界が悪い中でゴブリンの集落を避けて回って他のに比べたらよっぽど楽だと思うね。
というわけで、ユミールの初体験に出発だ!」
『おーーーー!!』
「その言い方はやめんか!」
頭を殴打されてしまった。
ダンジョンの探索は思ったよりも大変だった。
通路が開けているおかげで裏道以外での不意打ちには対処できた為、戦闘面ではさほど苦労することはなかったけど、問題は仕掛けられた罠だった。
ダンジョン化したといっても都市内ならば、建物に入らなければ罠などは無いと思っていたのだったが、しっかりと張り巡らされていた。即死するような物は今のところ見つかってはいないが粘着地帯にモンスター召還の警報のコンボとか、いやらしいものが結構あった。
最初はティアミーに罠の発見を頼っていたが、ここの罠の対処は仮にシーフに転職をしても厳しく、上位職の一つの探索者レベルでないと解除が不可能といった物が多かったため、私の肉壁による強制罠発動・力づくで罠をつぶすという漢解除、この場合は漢女解除をする羽目になった。・・・パーティー内の私の立場がだんだんひどくなってきている気がする。
言いたいことはたくさんあったが、実際問題、私が漢女解除を始めたら探索のペースが上がったため、あまり文句を言うことも出来なくなってしまった。とはいえ、人にやらせておきながら私の様子を見て皆がドン引きしていたのは許せない。後でお仕置き確定である。
「ようやくたどりついた・・・・」
肉体的な疲労こそ無いものの、精神的にはげっそりとやられてしまった。ストレス解消で魔物を全て私が倒してしまいたい気持ちを抑えながら皆に倒させていたので欲求不満度が半端ない。
まあ、ここに来たいと提案したのは私なので今更文句を言っても仕方がない。ようやく大聖堂にたどり着いたのでさっさと転職を済ませよう。
ダンジョンの中に大聖堂があるという構図はシュールではあるが、大聖堂の中の結界石は現役で起動しているようで、魔物の気配もなく清浄な空気で満たされていた。
プリライトにあった神殿と比べても、元々の造りが違うため建物の損傷は少ないように見受けられる。一応大聖堂全体に対して修復用の小ヒールをかけようとしたが、大聖堂が大きすぎるためうまくいかなかった。結界石は数が少ないため無駄には出来ない。とりあえず転職を済ませよう。
「ほぇ~、大聖堂ってなんか遺跡の割にものすごく厳かな雰囲気あるね~。」
内部に入ってすぐ、ティアミーがつぶやいた。大理石の通路、神殿を支える柱に高い天井、ステンドグラスから差し込む夕暮れ時の光は遺跡という存在を更に際だたせるように雰囲気を醸し出していた。
「苦労しましたけど、ここの観光だけでも訪れた甲斐がありますね・・・。聖騎士を目指す私にとってはここは聖地と呼ぶに相応しいところです。」
「一番苦労したのは私だけどね。とりあえず私は転職を済ませてくるから皆は見物していると良いよ。さすがに倒壊することはないと思うけど壁とか触らないようにお願いするよ。エリザベスさんは手が空いてたらここの掃除をしておいてもらえるかい?」
「かしこまりました。お掃除メイドとして立派に仕上げて見せます。」
後の事をエリザベスさんに任せた私はその足でプリーストの転職石のもとにやってきた。聖女という立場ではとても意味がある場所だ。
全アカウントの中でプリーストが一番数多く育てていたので個人的にも思い入れがある。感慨深く撫でるように転職石に触れた。すると、この室内だけでなく大神殿全体が輝くほどの白い光が吹き上がった。アコライトの時の比ではない・・・!
「ちょっと志姫、起きなさい、おきろってば、ねえ!」
体を揺さぶられるような感覚があり、意識が浮上してきた。どうやら気絶をしていたようだ。
「ああ、目を覚ましましたね。心配させないでください。ものすごい光でしたけど、いったい何があったんですか?」
「・・・私の本来の職の位階だったからね。位階を重ねた際にとてつもない力が流れてきてしまった。気絶をしたのは急激なレベルアップで意識を保てなかったためだね。」
「心配させるんじゃないわよ、まったくもう。倒れてるあんた見たとき心臓が止まるかと思ったわよ。」
プリーストの前に剣士や商人等の位階を重ねて自らの存在力を高めていた甲斐があったのだろう。これだけの力を一度に受け入れても長時間の昏睡状態に陥ることはなかったようだ。そうでなければ揺さぶられた程度で私が起きることはなかったはずだから。
ステータスを確認してみると、アコライトで表記されていた位階がアークプリーストになっている。これで今までとは比べ物にならないくらい支援魔法は充実されたかな。とりあえず上昇したHPの分を覚えたてのハイヒールで回復させた。マジカルステッキオブラブリーでもHPは完全に回復できた。さすがはハイヒール、私のHPでも一度に回復できるなら癒せない存在はもうないのではなかろうか。
「気絶するというアクシデントはあったけど、無事にアークプリーストになることが出来たよ。」
「・・・・は? プリーストじゃないの!?」
「2次と3次は同じ転職石で転職できるんだよ。これで支援魔法の全てを極めることが出来たから世界最高の聖職者と言えるだろうね。」
「こんな人をおちょくるのを生き甲斐にするような人を世界最高とか認めたくはないですね・・・」
エリシアの言葉にみんな同意して好き勝手言ってくるけど、内心ではほっとしていた。いくらステータスやスキルで強くなっても仲間内で壁を作られるのだけは耐えられそうもない。
アークプリーストになった今ならこの大神殿を完全に修復することは出来ると思うけど、倒壊の恐れはなさそうだし、文化遺産的な感じでいい雰囲気を出しているのでとりあえずこのままにすることにした。
時間も夜に差し掛かりそうだったのでそろそろ帰還をしようと思ったが、大事な問題を忘れていた。
「我々はそろそろ帰還しようと思うんだが、エリザベスさんはどうするんだい?」
「はい、もちろん志姫様についていかせていただきます。」
「ダンジョンの掃除とかはしなくていいの? 志姫が次にダンジョンいくのいつになるかわかんないわよ。」
「構いません。志姫様にテイムされましたので、これからは志姫様の身の回りのお掃除メイドとして頑張らせていただきます。ゴミを散らかしたりしたら志姫様だけでなく、全員お説教が待っておりますので注意してくださいね。」
エリザベスさんの言葉にみんなの顔が引きつった。メイドと言うよりお母さんみたいな感じがする・・・。
「そ、そう言えば、エリザベスさんってこのダンジョンの掃除をしてたけど、魔王って会ったことあるの?」
話の流れをそらすようにティアミーが違う話題を繰り出した。確かにそれは少々気になるかな、出会いたくないし。
「魔王ですか。現在のあの鎧の継承者という意味での魔王でしたら、この私がそうです。」
『・・・・・・・』
みんなの動きがビシッとフリーズしてしまった。
しきは まおうを ていむに せいこうした。




