第25話 志姫、潜入! 魔王の本拠地
「ここが魔王城ですか・・・」
旧首都アセトア、現魔王城となっている場所を囲む大きな城壁を見上げて若干汗をにじませながらエリシアがぼそりとつぶやいた。
遠目から見たら確かに城は健在だったようだが、首都だけあって城の周りにある都市はその何倍も大きい。
「ここはまだ所謂城下町といったところなんだが、ここも含めて魔王城なんだろうか?」
「どうでもいいしょそんなの。魔王の本拠地とでも思っときなさい。」
ユミールがおざなりにつっこんできた。まあ、たしかにどうでもいいんだけど。
ユーデン一定周期で変化している歪みのスポットが正常な状態に戻すのに最適な状態になる日まで後5日という状況で、念を入れてプリーストの位階を重ねることにした私達は、そこから2日かけてここにたどり着いた。
当時は遠目から見てもはっきりと分かるほど荘厳だった雰囲気は、過去の戦争での爪痕だろうか、1000年経過した今でも周囲は荒れ地となっており、多少の瘴気を吹き出し続けている。
瘴気が薄くとはいえ湧き出ているせいで遠くからでは都市の全貌は確認できず、瘴気があると言うことは魔物も存在して不意打ち等を警戒しながら進む羽目になっていた。
まあ、そこはみんなの良い訓練にはなるし、夜はポータルで帰還していたので問題はないが、裏を返せばMPの都合上連戦が厳しい冒険者だとこの地に訪れるのは絶望的と言ったところだろう。
この地の情報がほとんど無かったのは、調査をする事が出来なかったという理由で間違いなさそうだ。
さて、調査をするにあたって魔王が都市中央部の城にいるとして、東に行けばプリーストの転職石がある大聖堂、西に行けば騎士の転職石がある騎士ギルドがある。聖騎士の転職石は城内にあるので後回しかな。
「アセトアは東西南北にそれぞれ入り口を構えているが現在地は南門、中の様子がはっきりと分かっていない以上、調査のために南門から入って都市内を移動しつつ転職石を目指すか、目的地の近くの入り口から入り転職石へのショートカットを行うかだが、みんなはどうした方がいいと思うかい?」
「人がほとんど来たことのない遺跡なんだよね。お金になりそうな気がする!」
ティアミーは町中の調査に乗り気のようだ。
「私は反対ですね。確かにお宝はありそうな気がしますが、これだけの大きな都市ですと調査にかかる手間はものすごくかかると思います。次に控えているユーデンでの予定を考えましたら、真っ先に転職石の調査を済ませるべきだと思います。」
「私もセティの意見に同意ですね。ポータルでいつでもこれますし後から来たとしても他にここを探索するようなライバルなんてまず出ないでしょうから。」
「わたしも右に同じ。今の私達じゃ高価なマナポーションでもがぶ飲みしながらごり押ししないと連戦なんてできないわよ。それにこういった危険な場所でこそ蘇生魔法必要だし、転職石さきにいくべきね。」
ティアミー以外は目的地優先か。理由をそれぞれ聞いても転職石に先に行く方が堅実と思える。私もほぼ同意見だ。
「そうだね、それじゃあ都市内部の詳しい調査はユーデンでの予定の後、ティアミーの転職まで済ませてから来ようか。じっくり調査つつレベル上げをすればみんな上位職にもなれそうだし。」
『賛成!』
唯一反対の意見を出していたティアミーも、これ以上転職を後回しにはされたくないようなので、すぐこちらの意見に賛同してきた。・・・チョロい。
まずは東門に移動することにした私達は、大きく迂回をさせられることになった。
というのも、城壁沿いに迂回中、ゴブリンの住処を発見してしまったからだ。この世界のゴブリンは130~140cm程度の大きさしかなく、通常のタイプなら私達なら十分に戦えるが駆け出しだとまず勝てないレベルで、周囲の状況が分からない以上無理できないと言う判断でゴブリンの巣は立ち寄らないことにした。
「しかし、これだけ大きな都市があるのにもかかわらずゴブリンは都市の外で巣を張っている。良く言えば周囲の警戒要因、悪く言えばハブられているんじゃないだろうか。」
「ぶふっ、いじめられっ子なゴブリンってこと? なんかウケるわね、それ。」
「あんまり笑い事じゃないですよ。私達でもそれなりに手こずりそうなゴブリンたちでさえハブられるほどに中は危険って事なんですから。」
セティリアの意見はもっともだ。他の理由であるなら良いんだけど、油断できる状況ではなさそうだ。外壁の外側を移動しているとはいえ、油断せずにもう少し注意を払っておくとしよう。視界が良好とは言えないので不意打ちも怖いし。
迂回だけで丸一日かかってしまった。いくら何でもゴブリンの数が多すぎるだろう、最早ここがゴブリンの王国だと言われても納得してしまいそうだ。とはいえ、仮にゴブリンキングがいたとするなら、さすがに都市の外に居を構えているとは思えないので、いないと思いたい。
昨夜は東門にたどり着いた時点でポータルを取って置いたので、今朝から都市の内部に突入である。昨日のゴブリンの多さでみんなはかなり緊張しているようで物静かだ。
崩れかけている外壁はその隙間に見たことのない謎の植物が生えて強度を補っているように見える。この植物は知らないなあ、薬剤師の植物学スキルでも分からないとなると、1000年の間に何かが進化したのか瘴気で変質したのか、それとも歪みを通して他の世界から持ち込まれた物なのか。
とりあえず調査の一環としてその植物を少量確保してアイテムボックスに入れて置いた。これで状態は維持されるし、なんらかの錬金素材になるかもしれない。
気を取り直して門をくぐったら、そこには驚くべき光景が待っていた。
「これってどう見てもダンジョンよね。」
「空は見えますけど、ダンジョンとしか思えないですね・・・」
外壁にまとわりついていた植物が都市の内部で建物の補強だけでなく、通路の壁まで形成をして迷宮の様相を成していた。門から入って大通りを進んでいれば大神殿にたどり着けるはずだったのに、進路上には壁が出来ていた。
「むう、これは少々手間がかかりそうだ。いっそのこと壁を破壊して進めないかな?」
植物で出来た壁を触りながら思わずつぶやいた。物騒な言葉にユミールが止めようとしたが、「まだ入り口だし物は試しでやってみないかい?」となんとか説得してセティリアから火ハルバードを借り、壁を一撃で粉砕した。
奥には通路が開けていたので一安心だ。
「どうやら私なら壁を粉砕して進むのは可能みたいだね。とはいえ、結構派手に音を立てるから多用は難しそうだ。」
「モンスターおびき寄せることにはなりそうだけど、ダンジョンになってるなら魔物が集まる前に壁破壊しながら進めば逃げ切れるんじゃない?」
「地の利は向こうにあるからね。それに、周囲を見てみれば分かるけど、大通りだけでなく、他の通路も植物で出来ている部分の壁は広めに取ってある。単体の魔物のサイズが大きいものがいる可能性があるよ。」
「下手をしたら私達だと一撃で死にかねない魔物がいる可能性もありますね・・・」
「ちょっと志姫、なにか来るわよ!」
ユミールの声を聞き同じ方向を向いてみると、確かに開けた通路の奥から何か人型の者がやってきている。
十中八九戦闘になると予想している私達は、既にこちらの存在には気づかれているようなので戦闘態勢で警戒していると、その浮かび上がってきたシルエットに動きを止めてしまった。
「あ、あれってみやびさん!?・・・・じゃないか、ちょっと違うかな。」
メイド服に大きなポケット付きのエプロンを装備した女性が真っ直ぐこちらに向かってきていた。確かにオートマタのみやびやかえでに似ているが、その本質は違う者だ。というか、こんなところにまで現れるのか・・・
「みんな武器を下げるんだ、あの人は敵ではない。一応は魔物と言えなくもないんだが、各地のダンジョンなどに神出鬼没で現れるお掃除メイドのエリザベスさんだ。」
「エリザベスさん!? あの都市伝説の? ダンジョン探索中に人の気配を感じて、振り向いたら掃除していたとかのあれ?」
「エリザベスさんはこちらから手を出さない限り無害らしいですね。ダンジョンを汚したりしたら説教をしてくるそうですけど。」
そんな風に話をしていたら、ティアミーに服を引っ張られた。彼女が指さす方向を見てみると、吹っ飛ばした壁の瓦礫があった。
『あっ・・・・』
エリザベスさんは私達を無視して瓦礫の撤去を住ませると、無言で床を指さしてきた。座りなさいと言う指示である。
正座をした私達はそのまま2時間に渡って説教をされることになった・・・
ちなみにエリザベスさんは、さんまでが名前です。
エリザベスと呼び捨てると本性を現して暴れてきます。




