第22話 志姫、アトラクションへ誘う。
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剣士訓練場
剣士から派生する上位職の騎士や聖騎士を目指す冒険者達が集う場所である。
訓練場とは言っても、実際にはちょっとした村程度の規模があり、周辺には弱めの魔物や売ればそこそこのお金になる薬草類が入手できる森と、少し離れた場所には各地方への定期便が出る船着き場転職直後の冒険者達があり、出発地点として集う場所でもあった。
とはいえ、1000年たった今では戦争時に一度焼き払われたのであろう森は瘴気を発生させる薄暗い大森林になっており、大海原は砂漠に沈み中心地である剣士訓練場も崩壊していた。
結界は低級の魔物は通さないため、上級の魔物が押し寄せ一気に殲滅したのであろう。冒険者育成のための重要拠点であるこの地の防備が薄いのは、周辺が中~高レベルの冒険者達の拠点とする都市に囲まれており、海以外からの進入ルートがなかったはずだからである。
そして、海にはボスモンスターのリヴァイアサンがおり、この魔物は他の魔物にも攻撃を加えるため、実質安全なはずであった。人族の定期便がリヴァイアサンに襲われなかったのは、何らかのお供え物を提供し続けることにより安全を確保しているという情報がクエストであったそうだが、私はそのクエストを行っていないため詳細は分からない。
訓練場跡地を修復して結界の中にはいると、ゲーム時代の景観がそのままの状態であった。人がいないのは寂しいが、ここの施設は十分に役立つ物であるから、周辺の地域の安全さえ確保できれば、アカデミー生にも有用な物になりそうだ。
剣士訓練場という名の通り、ここの施設は対人訓練施設に、周辺の低級の魔物を1~5体まで召還して戦うことの出来る対魔物用訓練場などもある。冒険者ギルドもあるので、そのまま拠点として使える。
施設の点検をしていたら、どうにも我慢が出来そうにない二人が目に入ってきた。
「トイレかい? そこの冒険者ギルドの中で済ませてくるといいよ。」
「違います! 早く転職をしたくてうずうずしてたんですよ!!」
「セティだめですよ、この人分かっていてわざと言ってますから。反応したらますます調子に乗ります。」
エリシアの読みはなかなかだ。我、何時いかなる時でも人をおちょくるチャンスを逃すこと能わず。些細なことにでも気を抜く事なかれ。
「まあまあ、施設の点検をしながら進んでいたのは、転職後にすぐ使うかもしれなかったからだよ。そこまで楽しみにしているのなら早速行こうじゃないか。」
結界の中は修復したばかりで安全が確保されているとはいえ、外はどうなっているか分からない。先に強化を済ませてトラブルが起きたらポータルで戻る方針で良いか。
転職石があるのは剣士ギルドであり、早速そこへ向かう。ギルド内部は当時の状態を復元されているかと思っていたら、どうやら完全とは行かなかったようだ。
「残念ながら、転職石へ向かう正規のルートは施設の機能が働いていないようだな。」
私の調査結果にセティリアとエリシアが騒ぎ出す。
「ええ!? それって志姫が直せないんですか?」
「ああ、壊れている訳じゃなくて、魔法の仕掛けの動力源の魔石がどうやら消耗しきっているんだろうね。こちらにある扉からはいると特に危険はない簡単なアトラクションがあって、そこを突破したら転職石にたどり着けるようになっているんだ。」
「えええ、なんで私達だけそんなことに・・・」
「初心者の冒険者でも出来る程度の物だよ。これから魔石を補充して施設の機能を立ち上げてみるから頑張ってくるといいさ。」
ブーたれている二人を放置して作動室にある魔道機器の魔石収入口へ手持ちの魔石を入れていく。ゲーム時市販品だった小型の物を100個程度入れたところで、うまく起動した。
「よし、起動したぞ。それでは健闘を祈る!」
気を取り直した二人はやる気を出して扉の中に入っていった。
「さて、ユミールとティアミーはこっちだ。観戦室から二人の様子が見えるよ。」
「へえ、どんなことをするのか興味あるわね。」
「体を使ったアトラクションなら私もやってみたかったなあ。」
好き勝手言っている私達に気づくことなく、エリシアとセティリアが扉を開けてアトラクション場に入ってきた。が、二人とも入った途端に扉が閉まり、同時に滑って転んで後頭部をぶつけていた。
「ぶわははははっ、なにやってるのよ二人とも。」
「あれは、全員が中にはいると足下の摩擦が無くなりすべっすべになるスケートの間だね。初見の人は皆、ああなるよ。」
「う~ん、立てなくなると言うことは、寝転がって壁を蹴って進む感じ?」
「そうそう、部屋の所々に岩があるのが見えると思うが、あれをうまく掴んだり蹴ったりして次の入り口へ向かうんだよ。」
「でもさ、入ってきたところと次の通路って直線で開けてない? 最初の扉蹴って真っ直ぐ進めばそれで済みそうなんだけど。」
ユミールの質問に対して説明を行おうとしたところ、どうやらセティリアが同じ事に気づいたようで、早速試そうとしていた。ユミールに「セティリアがちょうど試すところだから見ていると良いよ。」と言うと、再び観戦モードに入った。
扉をうまく蹴って次の部屋の入り口へと真っ直ぐ進むが、ちょうど半ばにたどり着いたとき、床が開いて落ちていった。
「ああやって楽な道を進もうとしたら思わぬところに落とし穴がある、ということだね。下は水場だから安心して良いよ。」
ユミールとティアミーは爆笑して転げ回っている。エリシアが助けに行こうとして同じように落とし穴にはまり、さらに悶えていた。
「ぶふっ、くくく・・・・、このアトラクション最高じゃない。」
「あの二人には悪いけど、やみつきになっちゃうね!」
この二人もだんだん私の悪癖が移ってきた気がする。良い傾向なんだか悪いのか、私は関与しないで置こう。
落とし穴の先の水場からはすぐこの部屋へと出てくることが出来る。びしょぬれになりながらも、悪戦苦闘して次の部屋に向かう通路へとたどり着いた。
「さて、次の部屋を突破したらいよいよ転職石だ。次のアトラクションの説明を聞くかい?」
『聞きたい!』
「次は単純で、細長い橋の上を落ちないように渡って行くんだけど、橋は揺れる上に邪魔が入る。見てると良いよ。」
今回は挑戦者の二人は警戒をしているようで、橋に軽く足を踏み入れて揺れる状態に驚き、慎重に進むことにしたようだ。お互いがすぐにフォローできるように離れずに進んでいると、橋が重さに耐えきれずに壊れて二人とも真っ逆様に落ちていった。
「ああいう風に、2人以上で橋を渡ると重量に関係なく落ちてしまう。実は、この部屋に入ってすぐ後ろを見ると、一人用と書かれたプレートがあるんだけど、それに気づかないとこうなるんだよね。」
「こっ、これってここまで見事に罠にかかれば作った人も本望でしょうね。ぷっぷぷっ。」
「うう~、見てるのもおもしろいけど、これで遊ぶのも楽しそう! 私もこれやりたかったなあ。」
爆笑し続けるユミールに対して、ティアミーはアトラクションをやりたくてうずうずしているようだ。もしかしたら芸人根性かもしれない。
二人が戻ってくる頃には橋は修復されており、このアトラクションに対して文句を言おうとしたのであろう。二人があちこちを見ていると、エリシアは「一人用」とかかれたプレートを発見。セティリアは私達と目があった。ユミールが爆笑しているのを見て憤慨しているようだ。
エリシアもセティリアの様子からこちらに気づきはしたが、軽く手を振るだけで特に反応を見せなかった。経験上、どちらかと言えばああいう反応を見せる方が後が怖い気がする。
プレートに気づいてから一人ずつ進んでいるが、橋の揺れに対してはレベルが高い効果もあってかうまくバランスが取れているようだ。最初にエリシアが半ばほどまでたどり着いたとき、人の大きさくらいの鉄球に見える黒い玉がひもにつり下げられて弧の字を描いて襲いかかってきた。
エリシアは最初驚いた表情を見せたが、すぐに何かに気づいたようで、玉を受け流すように後方へと誘導する。その隙に出口まで駆け抜けた。
「おお、素晴らしい!」
「え、今のどうやったの? あんなでっかい鉄球を受け流すとか、そこまでの力はないはずなのに。」
「あれは戦場での状況判断の訓練みたいなものさ。鉄球があんなひもにつり下げられて落ちないはずがないだろう? 中身ははりぼてでとっさに気づいて対応できるかって試験だね。とはいえ、気づけなくても2回目以降に突破できれば小言をもらいながら合格にはなるけどね。」
「まあ、本物なら即死しちゃうよね~。」
エリシアの動きでセティリアも分かったのか、危なげなく橋を渡りきることに成功した。
転職石にたどり着いたであろう二人が戻ってくる前に、出口で待ちかまえることにした。ほどなくして二人が出てきたが、二人とも目が笑っていない。ユミールは気づいていないようだ。
「いや~、転職おめでとう! 私もさんざん笑えたし最高の施設ね、ここはぐぅっ!」
「ゆ~み~ぃ~る~? あなたが爆笑していたのはっきりと見てたんですからね?」
「剣士に生まれ変わった私達の最初の一撃でお礼させてもらいます!!」
「ぎゃーーー! ごめんなさいごめんなさい!!」
げんこつの雨がユミールに降り注いでいた。橋のところではうらやましそうにしていたティアミーと、ポーカーフェイスで表情を出さなかった私には被害が出なかったが、心の赴くままに爆笑していたユミールはその分集中的に被害を受けていた。合掌。
「さて、それじゃあ私も転職石に触ってくるからここでまっててもらえるかい?」
「へぇ~、あんたもあれやるの? また笑える何かを見せてもらえるのかしら・・・」
期待の目をしているユミールを背に、先程エリシア達が出てきた扉に触れると、簡単に開いたためみんなの目が点になっているた。さくっと位階を重ねて戻ってきたとき、みんなからの激しいブーイングが沸き立った。
「いや、私は既にこれをやったことがあるからね。2度目から直通でここに行けるんだよ。」
「なんか、理不尽だわ・・・」
ユミールのぼやきに、私以外の皆が同意していた。




