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プロローグその2

 自称女神がようやく落ち着き、説明が始まる。


「まずは最初に、世界の成り立ちというものから説明をさせていきます。


 平行世界という言葉位は聞いたことありますよね?物事に対する選択、行動に対する成功や失敗、勝負に対する勝ち負け等々。周囲に対して影響がほぼない場合では起こりませんが、後々に世界に対して大なり小なり何らかの影響を与えそうな場合に世界は分岐をし、平行世界という物が発生します。ここまでで質問はありますか?」


「つまり、織田信長が本能寺の変で討たれなかったり坂本龍馬が暗殺されなかったり私の好物がBitchじゃなくなったりといった世界があると言うことかな?」


「最後のは何か違う気がしますが、その通りです。もしもこうだったらと言うifの世界ですね。」


 よく耳にする話ではあるけど実際に存在を確かめる方法などなかったから半信半疑、というよりも証明できない疑問など興味がなかったなあ。でも、せっかく存在が判明したというのなら色々と聞いてみることにしよう。


「ふむ、そのそもの疑問としてどうしてそのような世界の分岐、増殖と言った方がいいのかな? そんな現象が発生するんだい?」


「それに関してはこれから説明を行おうとしていたところなんですが、まず、世界を無から生み出す存在があると考えてください。


 その存在は始め一から世界を作り出しました。いろいろな物理法則や資源、生命などの素材を生み出し世界を次々に形作っていたのですが、やがてバリエーションが枯渇してゆき、ただ世界を生み出すためだけのその存在は世界を創造する手段として、既にある世界のifの世界を作っていきました。


 やがて地球の人類のような知性体、それもある程度文明が発達して俗に言うアニメやゲーム、小説といった多数の人間が見聞きする物語が普及すると、その物語にのめり込んだ人々が放つ想念、妄想とでも言うべきものに目をつけ、その物語をベースとした世界を創造しだしました。」


「それはまさに、ゲームの世界に入り込んだらそこは異世界だった。とか言う話だね。その世界の創造とは、私が適当な小説とかでも作ったら、その時点で発生する物なのかな?」


 私の疑問に対して、用意されているテーブルの上にどこからともなく紅茶のセットが現れて、優雅な手つきで飲みながら返答をする。


「いえ、物語という物を作っただけでは、その世界の根幹ともなるべき物がなく、ごくごく狭い箱庭のような物になってしまいます。かの存在はそのような物を作ることはありませんので。


 故に、物語からの世界の創造に関しては、大勢の人間が物語を読み、妄想をすることによってその世界に対して数多の情報が発生。かの存在がその情報の中を分析し世界を構築してゆきます。


 そういう理由から、古い物語、貴方の国で言うところの源氏物語などよりも、物理法則などの知識が普及している現代人によるサブカルチャーなどの想念の方が世界の根幹が整いやすく、俗に言う異世界という物が発生しやすいです。質問はありますか?」


 話を聞きながら、私の分も用意されていた紅茶のカップにBitchを注ごとうしたらものすごい目で睨まれたので、仕方なしに紅茶を注いで飲みつつ、返答をする。


「先ほどからそこの自称女神がかの存在とか言っているが、世界を創造しているとか言ったらそれは神と言うものではないのかい?まあ、私が信仰している神は腐女子の神、BL神だけだけどね。

 そういえば、世界を作った訳ではないのに女神を名乗り、訳知り顔で語る。やはり偽物だな貴様、自称女神め正体を現せ!」


「自称じゃありません、本物です!

 私のような存在は、世界が創造されたときにその世界を安定する環境を整える言わば管理者のような役割を持ってかの存在から生み出されるのですかの存在を神と言わないのに関しては、創造主と言えなくはないのですが、目的も意志もなく、機械のようにただ世界や私たちを創造し、その後、その世界には一切干渉をしてこないからです。


 それから、先ほどおっしゃってたそのBL神、それのせいで貴方が今ここに来るような状況になっているんですよ。分かっているんですか!」


 BL神がここへの召還の理由?ひょっとして私はBL神に導かれてここへと来たのであろうか・・・・!


「そんなきらきらとした目でこちらを見て・・・どうしてそのような目をしているか何となく分かりますが、違いますからね。


 言い忘れていましたが、私は終末郷オンラインをベースとして出来た異世界ルイスガルドの女神(管理者)のユリアリスと言います。」


「ユリアか、序盤に出てきて中盤頃に気がついてたら死んでしまいそうなヒロインのような名前だね」


「余計なお世話です! それで、普通でしたらゲームを元にしてそのまま世界が構築されていくはずでしたが、世界が創造される前に貴方がその終末郷オンラインをプレイしている情報が広まってしまいました。それにより『聖女志姫』と言う存在がこの世界に組み込まれてしまったのです。」


 そう、私こと志姫は世間で言うところの『聖女』である。BL神を崇め、布教し、世界の多くの腐女子を救い道に迷った少年たちに愛の素晴らしさを説き伏せ、私はいつしか聖女と呼ばれる存在になった。


「何満足そうな顔をしているんですか!? 貴方のせいでルイスガルドにBL神と聖女が必要不可欠になったんですよ!

 でも分岐世界と違って新規創造の世界に貴方という存在は作り出すことが出来ません。故に元の世界の貴方からその存在力の一部を引っ張ってきてここに顕現させた姿、それが今の貴方です。」


 衝撃の事実にさすがの私も固まってしまう。


 ということは私は完全な存在ではなく分裂体!?しかも話によればその弱体化した状態で終末郷の世界に飛び込めとおっしゃる。それはさすがに無謀すぎる。文句を言わせてもらおう。


「なにいってんのばっかじゃないの?」


「思ってること略しすぎですよ!?この場所はある程度は考えていることが伝わってきますからね!

 ・・・もちろん、何も元の世界の存在力のごく一部である貴方をそのまま私の世界に送り込もうというわけではありません。そもそも貴方が終末郷をプレイしていることが始まりな訳ですから、貴方にはそのゲームのキャラクターデータを元に存在力を補完・強化して世界に降りてもらいます。」


 とどのつまり、私はプレイしているゲームのキャラクターになって世界に降りると。う~ん、それってなんてチート。


「そういうわけでもありませんよ?

 ああ、待ってください。何も言わなくて結構です。貴方が口を開くとろくなことになりませんから。ゲームを元に作られているだけあってそれなりに高レベルのキャラはおります。とはいえ、さすがに聖女という立ち位置にいる貴方がそこら辺の冒険者に見劣りしてしまうのも問題ですから、優遇措置を執らせていただいております。


 私は向こうの世界、地球にはあまり干渉できないので詳細については分かりませんでしたが、ゲームの時は確か1つのアカウントに複数キャラ作成することが出来ましたよね。もちろんこちらの世界では一人が複数に別れて存在するということなど出来ませんので、神の位階というシステムを導入させてもらっています。


 神の位階というのは、その人が現在の職を極めたとき、今までの能力・スキルを維持したままLv1になって新たな職で始めることが出来るというシステムのことを言います。名前の由来は、位階を重ねることにより、より神に近しい能力を得てゆくということから来ています。


 まあ、実際のところ、職を極めたところでステータスを極振りにしてもカンスト出来る能力値はせいぜい2つ程度。私の場合人がカンスト出来る能力の10倍以上はありますからここまでたどり着くことは出来ませんけどね。ぶっ、ごふごふっげはぁっ」


 長々とした説明にさりげない自慢とドヤ顔にむかついた私は、ユリアの紅茶にBitchをまぜてやったら激しくむせていた。ざまをみよ。苦しんでいる女神を横目にしながらこれまでの情報を頭の中で整理してみる。


1 ルイスガルドに降りる時点でプレイ中のキャラのデータが力になる

2 手持ちの複数キャラの能力が合算される。でも、私は古参とも言えるプレイヤーではあるが、実はLvカンストしているキャラはいないんだよね。


以下は要確認事項

3 所持品、所持金に関しては?今の着のみ着のままは勘弁願いたい

4 最初に降り立つ場所は?慣れていないので街かそれに近しい安全な場所が望ましい

5 複数キャラでスキルがかぶった場合は?重複するのか否か

6 言語形態はどうなっているのか?会話できるのか、読み書きはどうか

7 死んだらどうなるのか。死んだらお終いとかの場合、復活スキルの存在はどのような扱いになるのか

8 カンストしていないキャラで合算してもたいしたことないだろうとだだをこねてもうちょっと特典をねだりたい


こんなところかな。


「ぜぇ、はぁ・・・こんなところかな、じゃありませんよ。何してくれてるんですか全く・・・

 とりあえず質問に答えていきますが、3に関してですが、降りた時点では着のみ着のままに所持金はベースのキャラクターが持っていた金額を所持しています。


 装備品やアイテムに関しては、ゲーム中の倉庫キャラのNPC的な存在は、世界にかかる負担が大きいため実装しておりませんので、商人系スキルのアイテムボックスを初回時のみの特典として倉庫に接続、倉庫からアイテムボックスへの取り出しのみ可能な状況にさせてもらいます。


 次に4ですが、降りる場所はどこでも指定してもらってかまいません。

ですが、いくら強くてもいきなりモンスターの巣窟とか選ばないでくださいね。軽く死ねますから。


 5に関しては、これも私が作りだした限界突破というシステムで、位階を重ねて新たに同じスキルを獲得した場合、通常のレベルの合算よりも効果が大きく向上します。

 たとえば、どの職に就くにしろ最初は必ず旅人を経由しますが、旅人の基本スキルである生存術や応急手当は位階を重ねると、個人の旅の知恵的なレベルから災害時や大勢の遭難時等に大活躍するレベルまで向上したりします。


 6については、この世界は日本のMNOをベースにしていますので、読み書き会話はそのまま出来るようになっています。世界観ぶちこわしとか言わないでくださいね。その世界の住人には違和感とかまるでないんですから。


 7の件はですね・・・通常、死を迎えると魂が体から離れるまでに30分程度かかります。それまでの間でしたら復活スキルで生き返ることが可能です。ただし、死体が消滅をしていたり、モンスターに食べられたりして完全に修復不能な状態になっているとスキルの効果は発生しません。


 また、死亡してから復活するまでに時間がかかるほど、魂と体のずれが生じるため、まともに活動できるようになるまでに長期の療養が必要になってきます。あと、貴方に関してはこれも聖女効果というか、初回特典として課金アイテムで既に持っている死亡時の即時復活アイテムを手持ちの数だけ使用できるようにしています。ほかの課金アイテムに関しては世界の物理法則をねじ曲げ、バランスを壊してしまいますので使用不能になっています。


 8は・・・8は・・・今までの会話でそれなりに特典をつけていると思うのですが、これ以上何を望むんでしょうか・・・?」


 私は、元の世界の存在力の一部でしかなく、地球では本体とでも言うべき私が日常を過ごしているのかもしれない。でも、今まで向こうで過ごしてきたという事実は確かに私にはある。だから、特典というわけでは無いのかもしれないけど、向こうの世界に私の思い出とも言える品を一つでいいから持っていきたい。


 そんなことを考えていると、ユリアは涙を流しながら私の手を握り、頷きながら語り出してきた。


「うう゛う゛、う゛ぁかりましたぁ。ひとづ、ひとづだけあなだのもちものをもっでいってもがまいません。なにがいいですがぁ?」


「じゃあ、Bitchで。」


 ユリアが勢いよくテーブルをひっくり返し、その場で地団駄を踏みだした。


「貴方どこまでBitchがすきなんですか!?ほんとにそんなのが地球の思い出になるんですか!?言え、いってみろぉぉぉぉぉ!!」


「あ、ここで飲んでる時みたいに飲んでも中身が減らなく、いつでもきんきんに冷えた状態で出てくるようにお願いする。」


「     」


 もはやしゃべることが出来ない状態のようで、興奮のあまりうつぶせになって体が痙攣をしていた。さきほどよりもショックが大きかったようで、1時間ほどしてからようやく立ち直り、疲れ果てた声でしゃべり出す。


「もう・・・わかりました。

ここで行われているような仕様はさすがに向こうにはありませんので、神器として貴方に授けます。


 ですが、こんなものを後世に残すことは出来ませんので(Bitchを神器として後世に残したくない的な意味で)、所有者・使用可能な人物を貴方だけにして、貴方の死後は、神器は自動的に消滅することにします。」 

 

 十分満足な内容に私は鷹揚に頷いていると、ジト目で睨まれているが、そのようなもの私には無効である。


「はぁ・・・さて、それでは向こうへ降りるための最後の準備として、貴方とキャラクターデータとの接続・融合を行いますね。多少衝撃があるかもしれませんが、我慢をしてください。」


 了承の意をとると、ユリアの手が私の額にかざされる。詠唱の言葉に反応して私を中心に光が広がり、広がり、広がり・・・・どこまで広がってるんだろう、これ。ユリアは目を閉じて詠唱しているから気づいていないようだ。止めるのもまずそうなのでこのままおとなしくしているしかない。


 しばらくじっとしていると、広がっていた光が今度は凝縮されながら急速に狭まってくる。さすがにこれはまずいと思った瞬間、光が爆発してはじけ飛び、私は意識を失った。


 目が覚めたとき私はうつぶせに倒れた状態で、起きあがって体の調子を確かめるがとりあえずの異常はないようだ。

 ん?異常がない?体を動かしてみても倒れる前と全く変わらない状態、全然強くなったという実感がない。失敗したのだろうか?ユリアに聞こうと周囲を見回すと、私が倒れていたときと同じようにうつ伏せになっていた。近寄ってみるとやっぱり気絶しているようだ。


 とりあえず起こそうと揺すってみるが起きる気配がないため、Bitchを口に流し込んでみる。するとすぐに反応を示し、激しくもがきながら起きてきた。・・・ひょっとしてBitchにトラウマを身につけさせただろうか?


「がふっはぁ、はぁ・・・・一体なにが・・・」


「目が覚めたかい?ユリア。接続とやらを行っていたら、広がっていた光が急激に収束して爆発を起こして二人とも気絶をしたんだが。


 接続前と少なくとも身体的な部分は変化がないようなんだが、これは失敗したんだろうか。」


 私の説明に対してユリアは周囲の状況を確認した後、何かに納得したのか落ち着きを取り戻した。


「それは大丈夫です。接続と言っても、向こうの世界で用意されている貴方のアバターといえる存在と霊的につなげるだけで、今はその、幽体離脱してここにいるような状況になったと言うだけです。


 接続に関しては・・・・うん、問題ないようですね。ちゃんと成功しています。私もこの作業を行うのは初めてでしたので、ここまで衝撃が大きいとは思いませんでしたが。」


「そうか、それならば大丈夫かな。ほかには特に異常もないようだし、後は向こうに降りていくだけか。そうそう、私は聖女として向こうに降りるとのことだったが、私は向こうで一体何をすればいいんだろう?」


「いえ、聖女という存在が世界に求められているだけで、人々からいわゆる勇者召還のように呼び出されてくるわけではありませんので。降りた後は自由にしてくださって結構ですよ。ただ、聖女というか、人から逸脱するような犯罪行為だけはやめてくださいね。」


「はっはっは、人をおちょくるのは好きだが、犯罪に手を染める趣味はないよ。そこは安心したまえ。」


 その言葉に文句を口にしようとするが、もうあきらめたのか深くため息をついて頭を振り、最後の質問を告げてくる。


「それでは、最後に貴方が降り立つ場所を告げてください。」


「それはもう決めているよ。私が向かうべき場所は、天に一番近いとされる街、空中都市ジーズの大図書館前だ。ゲームと現実の差がどの程度か知識を仕入れたいからね。」


 私の返答にユリアはここに来て初めて微笑みを浮かべ、私に向かって両手をかざす。足下から魔法陣が広がり、私はこの場所から体が消えてゆく。


「この世界が貴方にとって素晴らしき物であるよう、良き出会い、良き時間が訪れますよう、祝福を!」


 その言葉とともに私は完全に光に包まれ、この白き空間から姿を消していった。



 光が閉じた後、私は過ぎ去った嵐のような時間にため息をつき、その場に先ほどから使用していたテーブルと椅子を用意し紅茶をいれる。統合の儀-接続・融合が思っていた以上に消耗が大きかったため、ティータイムが終わったら一休みすることにしよう。


 2~3年くらい眠ることになるけど、特典に加えてあの聖女の天性の図太さなら命を失うようなことはないと思っている。


 ティータイムが終わって寝る前に世界の状況を確認しようとしたその瞬間、周囲に悪寒とも言うべき激しい違和感を感じた。すぐに周囲に神経を張り巡らし状況を確認すると、この空間、そしてルイスガルドに多数の歪みが確認された。


「どうしてこんなに歪みが・・・?新しい世界でまだ不安定だとしても、こんなすぐに大量の歪みが発生するはずなんて無いのに!」


 私の動揺をさらに煽るように、突如目の前の空間に亀裂が走る。そしてのびてくる細い腕、動揺して、さらに消耗もしていた私は流されるままその腕に捕らわれ裂け目に吸い込まれていった。



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