第14話 志姫、戦後のあれこれで動き回る
次話投稿です。
平常運転に戻りました。
「”小ヒール”」
「助かった。これでまた戦える!」
「うおおおお、やったらあ!」
夜が明けてきた頃、連戦により体力の消耗してきた冒険者達が続出してきたため、ユミール達にいったん迎撃を変わってもらいながら、小ヒールの体力回復版を施して回っていた。
ヒールを施し、休憩を回していある間にクリエイトフードであらかじめ作成した固形ブロック型の携帯食で食事を済ませる。遊撃で走り回ってたおかげで、ユミール以外の3人とも、かなりLvが上がっているようだ。オーク程度は相手にもなっていない。亜種でさえもユミールも加わり全員で事に当たれば、私抜きでも勝てるレベルだ。
一通り補給と回復を済ませる頃にはすっかり夜が明けており、周辺の様子がよく分かるようになっていた。あちこちで殲滅されているオークの集団跡が見受けられるが、今のところ遊撃部隊の冒険者に犠牲者はいない。都市の方も見た限り城壁が破壊された様子もないし、人的な被害はなさそうである。
「よし、補給も済ませたしオークの流れも収まりつつある。もう一息だ、がんばるぞ!」
『おーーー!』
私たちも発破をかけてもはや残党と言ってもいい量のオーク殲滅に向かっていった。
『うおおおお、英雄の凱旋だあああ!!』
遊撃部隊は一名もかけることなく、凱旋の門をくぐることになった。さすがに150人の夜通しの支援はMPがきつかった。まあ、マジックポーションはあるんだけど、私のMP最大値から見たら焼け石に水。数はあるがあんなのがぶ飲みしているところを誰かに見られたくはなかったから、自然回復の分だけで持ちこたえれたのは僥倖だ。
MPの回復速度は、ゲームと違うようでかなり遅くなっていた。ゲームでは大体5~10分もあれば全快する量がほぼ一日かかる程度まで増えていた。MP回復量増加か、最大MP値増加系の装備に変えておけば良かった・・・・
そんな事を考えながら、アコライト僧服の衣装装備を身にまとった私は、街の中から凱旋してくる冒険者を出迎えていた。
「万歳!ユミール、エリシア、ティアミー、セティリア。万歳!!」
喧噪の中で、それでも私の声が聞こえたのだろう。凱旋してきたユミール達は私の姿を見かけて指さしながら何か喚いている。だが残念。私は既に人混みの中である。そのままこっそりギルドに向かっていった。
「あんた、まだやることが残っているとか言って先にポータルで帰っておいてなにやってんのよ!」
「いやだから、君たちの出迎えをしたんじゃないか。」
「あ ん た も出迎えられる側でしょうが!!」
「こらこら、こめかみをぐりぐりとするではない。痛いではないか。」
「自業自得です。」
「あんなに目立つ真似させられて置いて、一人だけ逃げるとは、言語道断。」
「あの戦いの時に抱いていた幻想はぶち壊された。」
ギルドに先に帰り着いていた私は、会議室でBitchを飲みながらゆったりとしていた。しばらくして、私がここにいると聞きつけたユミール達が駆け込んできて、囲まれて今に至る。
なんかこのまま袋にされそうな雰囲気だったが、ギルド長とアカデミー長から話が続かないからと説得され、とりあえず落ち着いた。
「まずは、ご苦労じゃったな。正直、ここまで人的にも物的にも損害が出ないとは思いもしなかった。お主の采配と活躍に感謝させてもらう。」
「私からも感謝させていただきます。おかげでアカデミー生は全員怪我もなく、ベテラン冒険者の戦闘を見ることも出来、良い経験を積むことも出来ました。」
完勝といってもいい戦果に感謝され尽くしである。しかし、私はごまかされない。
「いやなに。私がしたことは普通の討伐依頼をちょっと規模を大きくした程度にすぎない。当然、約束の履行、それとユミール達遊撃部隊の報酬等は任せたよ。」
「・・・・う、うむ。討伐依頼の処理は冒険者全員、任せてもらって構わない。約束も・・・はぁ、ここまでのことをやっておいて最大功労者の情報を集めることが出来ないとなると、周囲への情報開示をどうした物か。」
「主導を全てあなた達が行ったことにすればいい。私の報酬も他の冒険者と同じで処理して構わないぞ。」
私の提案にがっくりとうなだれるギルド長。約束は約束である。そもそも、報酬の金額よりも私の情報の方が遙かに重いだろうし、諦めてもらうしかない。
「とはいえ、さすがに今回参加した遊撃部隊の冒険者達の口止めとかはできんぞ。」
「もちろん、それは約束事には入ってないから構わないさ。ただ、今日は我々は家に帰って休ませてもらうけど、明日の冒険者送還の時まで私の情報をこちらから漏らすことの無いようにお願いするよ。パーティーやクランの勧誘などされても困るからね。流れのアコライトで情報はないとでも言っておいてくれ。」
「わかったわかった、面倒じゃが功績を考えたらな。それくらいは任せておけ。」
「それではよろしくお願いする。外で冒険者が待ちかまえているだろうから、ここでポータルを出させてもらうよ。”ポータル”」
「あれだけの戦闘の後でまだポータルを使う余裕があるのか・・・」
ギルド長のぼやきとも言える声を耳にしながら、ポータルでたまり場に帰っていった。
「昨日住み始めたばっかりなのに、なんだか自宅に帰ってきたような気分になるな。」
私の言葉を聞いて、ユミール達は微妙に嬉しそうな表情を浮かべている。なんだかんだ言って、とりあえず歓迎されているようだ。
翌日、報酬の受け取りもかねて全員でギルドに出頭。まずは遊撃部隊の送還作業から始まる。皆、何かしら私に話しかけたそうにしていたが、時間が押しているとギルド長が抑えて、次々にポータルに放り込んでいく。今更ながら、私がポータルを出しているところは見せたくなかったので、室内でポータルを出した。
その後、死んだような目をした長髪眼鏡の職員さんにパーティー単位でのクエスト用会議室に連れられ、そこで今回の討伐の処理を行った。一人頭金貨2枚と銀貨30枚。踏み荒らされていないオークは回収され、その分も報酬に上乗せされているらしい。Eランクの子達にはかなり高額の稼ぎになったようだ。ユミールもほくほく顔をしていた。
また、今回の依頼完了でEランク組は軒並みDランクに昇格。ユミールはあと2~3回依頼をこなせばCランク昇格試験を受けれるだろうとのことだった。これで皆Dランクか、パーティーとしてはテンションが上がるな。
依頼完了の手続きが終わった後、全員で是非アカデミーに顔を出してほしいと校長からの伝言を受け取った。どうしようか悩んではいたが、在校生の顔を立てて立ち寄ることに決めた。まあ、当面急ぎのの予定はないから問題ない。
冒険者アカデミーは、私が通っていた高校などよりもよっぽど広かった。およそ大学レベルはありそうだ。聞くところによると、冒険者だけでなく、ギルド職員の育成コースなどもあるらしい。ギルドにいた制服を着ていた職員の中には、研修生もいたようだ。
エリシア、ティアミー、セティリアのアカデミー組に案内されながら、校長室にたどり着いた。ノックの後すぐに返事があり、中に通された。
「いらっしゃい、待っていました。」
「お招きいただき、感謝するといえばいいかな? 用件にもよるが。」
私の発言に、パーティーメンバーが次々と脇にひじうちをかましてくる。痛いではないか。歓迎の言葉をかけられはしたが、あまり友好的になって行動を縛られるのは好ましくない。ほどほどに、そう、程々につきあっていこう。
「まずはおかけになって下さい。」
言われるままに対面に着席していく。4人で並んで座ってもまだ余裕がある。そんなに来客多いのかな? 貴族の子もそれなりに入学しているようだし、体面の問題かもしれない。
「校長先生、私たちも呼ばれましたが何か問題でもありましたか?」
どうやら、依頼を完了したが何らかのケチをつけられるとでも思ったのかもしれない。ティアミーがこちらをちらちら見ながら校長先生に問いかける。・・・・ひょっとして、問題って私のことか?
「いえ、問題なんかではありませんよ。あなた達パーティに報告があったんです。
ギルド長から報告が入りましたが、アカデミー生であるあなた達3人はDランクになり、学院の卒業資格を入手しました。とはいえ、学費自体は納められておりますので、在学予定期間中は講義や施設の利用等、ご自由にお使い下さい。
また、志姫さんとユミールさんのお二方には、今回のお礼としてアカデミーの招待生の証書を発行します。お好きな講義や施設の利用を他の方と同じようにお受けできるようになります。」
私とつながりを持っておきたいと言うことだろうか。まあ、情報収集の手段があるのはいいことだ。とりあえず受け取っておくかな。ユミールの方を見れば、喜んでいるのは丸分かりだし。
「ありがたく頂戴する。」
「あ、ありがとうございます!」
私たちの反応に満足したのであろう。にっこりと微笑んで証書を手渡してきた。
「ところで一つお伺いしたいのですが、これから貴方達はどうされるのですか? Dランクともなれば、別の都市に移り高レベルのモンスターの討伐をされる方が多いのですが。」
「ええっと、ど、どうでしょう?」
「何せランク昇格などまだ大分先と思っておりましたので・・・」
「何も考えてませんでした。」
それぞれ、校長に返事をしながらこっちに視線を向ける。あらいやだ、こっち見ないで。
「私を見てどうする。パーティーのリーダーはユミールだから、彼女に聞いてみるといい。」
私の言葉に対し驚愕の表情を向ける。いや、驚愕と言うより絶望のような気も。なんか顔が青いし。
「いや・・・・いやよ・・・、たった二日でここまでトラブル呼び込まれておいて、わたしがリーダーになってあなたの手綱握るなんて無理。ムリよ、むりなのよおおおおおおおおおおおおお!!」
いかん、ユミールが錯乱し始めた。打撃を与えて正気に戻そうと思ったが、手加減にまだ慣れていない私の力だとまずいことになりそうな気がする。
仕方がないので、背面に回り込み、口と鼻を手で塞いでみた。さらに暴れ出したが、正気に戻すためだ。我慢しなさい。
「志姫、窒息するからやめなさい!」
エリシアが私の後頭部を鞘に入った剣で打ち付けた。いかんいかん、私も少し錯乱していたようだ。
「ふむ、結局、誰も私を制御できそうにないから私をリーダーにするということかな?」
みんなが疲れ果てた顔でそう頷く。ふむ、お馬鹿で制御できないリーダー。呂布様ちっくで素晴らしいではないか。
「ではそういうことで、私がリーダーを務めさせてもらう。」
「そ、そうですか。それで志姫さん、あなたにはこれからのプランはあるんですか?」
「まずはパーティーメンバーの強化かな。Lv上げ以外での強化をしておかないと今のままでは効率が悪いのでね。」
その言葉を聞いてものすごい食いつきを見せる学園長。私の力の秘密がそこにあると思っているようだ。半分正解である。
「悪いがこれ以上はパーティーメンバー以外には秘密にさせてもらうよ。いずれ情報を公開することになるとは思うが、現時点では私自身が直接確認をしていないので、迂闊なことは言えない。」
「それは、時がくればアカデミーにも情報を提供してくださると?」
「もちろん、そのつもりだ。むしろ、Lvが低いうちから行っていた方が効率のいい方法だからね。」
「そうですか・・・・、それではその日を楽しみにさせていただきます。私に出来ることがありましたら何でも言ってくださいね。」
「了解した。」
話が終わって席を立とうとしたところ、呆然としているユミール達が目に入った。しゃべらないと思っていたら、私達の会話の内容に思考が停止したようだ。まあ、私のような特異な強化が自分たちにも出来るとわかれば、こうもなってしまうか。
正気に戻すのも面倒だったので、その場でポータルを出してその中に次々と放り込んでいった。