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第9話 志姫、世紀末の片鱗と遭遇、そして弱点発覚

 男の声に反射的に返答をしてしまったが、とりあえず相手の確認をしてみることに。こういうときはむさいおっさんという相場があるし、やはりテンプレというものは一度は確認してみたい。


「ぶふーーーーーっ!」


 振り向くと、そこにはモヒカンがいた。世紀末であたたたた!ってされるあれである。笑いが抑えられるはずなんてない。


「てめえ、何笑ってやがる!」


「いや、すまない、失礼した。あまりにも見事なモヒカンだったのでつい・・・・くっ」


「そうだろうそうだろう。こいつぁ伝説の異界からの彷徨い人チバが残した髪型だからな。・・・・おい、こっちむけやごるぁ!」


「すまない、私には直視に耐えないんだ。あまりにも刺激が強すぎる。」


 モヒカン男は、最初は褒められているのだと思い気分を良くしていたようだったが、直に馬鹿にされていると気づいたようで、激しく激高した。だめだ、怒り狂う姿さえもがツボにはまる。と、そこに


「失礼。ギルド職員の者ですが、場末のギルドとここは違うんですよ。暴れられたらペナルティになります。おとなしく引き下がってもらえませんか?」


 どうやら、いつの間にかユミールが助けを呼びにいっていたようで、さきほどの長髪眼鏡の職員がやってきていた。この辺の対応には慣れているのだろうか、落ち着いて対処をしている。さすがは眼鏡、中指でくいっくいっとするのも忘れていない。


「黙ってろ優男! こいつ自分がアコライトだからっていい気になってやがるんだよ、いっぺんシメないと気が収まらねえ!!」


「君は何を言ってるんだい? 私は最初に、既によそでパーティーを組んでいるから断ると言ったではないか。これだけ騒いでるんだ、他にも証人はたくさんいるんだよ?」


「うるせえうるせえっ、ぶっ殺してやる!」


 モヒカン男は眼鏡職員を突き飛ばし、私に向かって突進してくる。あ・・・眼鏡が飛ばされて落ちた・・・割れている・・・・? 眼鏡が?


 呆然としている私に向かって、突進してきたモヒカン男の拳による一撃が頬に直撃する。だが、私はぴくりとも動くことがなかったため、その反動は相手の拳に跳ね返ることになった。


「ぎゃああああっ、手が、俺の手があああああ!!」


 どうやら殺すつもりの一撃を放ったようで、それがそのままダメージとして跳ね返ったモヒカン男は、殴った拳が砕けてしまったようだ。それはそうであろう、私はVITも最強クラスなんだから。


「罪状は冒険者ギルドの新人に対する強引な勧誘、職員の警告を無視した暴走、都市内での殺人未遂、眼鏡の破壊と言ったところかな? 職員さん。」


「最後の眼鏡の破損に関しては、職員に対する暴行ですのでギルドで補償してもらって当人からの罰金、もしくは強制労働となりますね。あの一撃は明らかに軽装の相手を殺害しにかかっておりましたので、殺人未遂は適用されると思いますが。届け出ますか?」


 チンピラ程度を捕まえたところで役人も迷惑なだけであろう。散々笑わせてもらった礼もあるし、眼鏡の件はとりあえず水に流そう。


「ふむ、ギルド内でペナルティと罰金が適用されるのであれば、わざわざ訴え出るほどではないか。この者の治療を行えばその料金は取れるのかな?」


「あなたが治療を行うのですか? 骨折の治療は冒険者のヒールでは治せませんので、通常神殿付属の治療院で行われます。ですので、その治療費を請求できますがいかがしますか?」


 同じ小ヒールでも効果が違ったのか。これは恐らくゲームとの違いの部分かな、それでプリーストでもないアコライトの私なんかをあれほど歓迎していたのか。


「そうだね、問題がなければ私が治療しよう。でもその前に、これ以上暴れないように拘束をしておいたほうがいい。」


 私の意見に同意した眼鏡が無くなった職員は、すぐさまモヒカン男を拘束し、身動きが取れない状態にした。なかなかに鮮やかな手並みだ。かなり強そうな感じがしたけど、ひょっとして罪状を成立させるためにわざと突き飛ばされたのだろうか。さすがは元眼鏡、策士だ。


 動けなくなったモヒカン男は、私や職員に向かって暴言を吐きまくってるが、無視してマジカルステッキオブラブリーを装備した。実用性がまるでなさそうな悪目立ちしている杖に周囲からどよめきが立ち上る。


「治療してあげるのだからおとなしくしているといい。これが冒険者とアコライトの違いだよ。”小ヒール”」


 ステッキで魔力が大幅にカットされても一般的なアコライトレベルは残っている。派手なエフェクトが発生してモヒカン男の拳は治癒されていった。エフェクトが収まると見事に拳は回復。ギャラリーから喝采を浴びた。


「確かに治療を確認しました。この者を拘束後、治療費の支払いを行いますので、しばらくお待ち下さい。」


「了解した。と、そうそう。もうこのようなことが起きないように改めて皆に宣言しておこう。先ほどから言っているように、私は現在このユミールとパーティーを組んでいる。申し訳ないが、誰の勧誘にも乗るつもりはないのでそのつもりでいてほしい。」


 私の堂々たる宣言に、ギャラリーの中のアカデミー生らしい若手は尊敬の眼差しを向け、ベテラン勢からは意気消沈のため息が漏れてきた。アコライト人気すぎるだろう。


 その後、治療費として銀貨20枚受け取った私は、今度こそギルドから立ち去っていった。



「いや、ユミールは職員呼びに行ったり結構活躍していたのに、途中からすっかり影が薄かったな。」


「しょ、しょうがないでしょ。わたしは、ああいうむさい男が苦手なんだから。」


「なるほど。だからあまり口を挟まず裏で動いてくれていた訳か、納得した。」


「なによ、悪い?」


「とんでもない。不測の事態が起きたときに自分の能力を過信して暴走をすることもなく、自分の出来ることを確実に遂行したんだ。パーティーとして頼もしいことこの上ないよ。」


「そっそうかしら? まあ、あなたもあの職員さんのように鮮やかとは言えないけれど、場を納めれたしなかなかのものじゃないかしら。」


 やはり友達がいないのだろう。褒められるのに慣れていないようで、私の言葉にやたらと上機嫌になっている。そうか、これがチョロインというものか、勉強になる。


「なんだかいろいろあって少々疲れてしまったね。どこかで落ち着いて食事でもとらないかい?」


「そうね、それなら私のお気に入りのパスタのおいしい店があるけどそこにする?」


「却下だ。大変申し訳ない。いやほんと。ごめんなさい。パスタはだめなんです。どうしても食わせる気か! そうはさせんぞ!! くっ、いっそ殺せ!!!」


 錯乱した私はさんざんだだをこねたあげくに道ばたで大の字で寝転がり、パスタを食べさせるならいっそ殺してくれと挑発までし始めた。ユミールは私を道の端まで引きずっていき必死になだめることで、私はようやく正気に戻った。


「うむ、というわけで他の店にしよう。」


「ええ、ええ・・・そうしましょう。あなたの前でパげふんげふんっは二度と口にしないわ。」


「そうしてくれたまえ。次は何をしでかすか自分でも分からない。」


 私の返答に心底げんなりとした表情でうなずきつつ、その後ちょっと奮発してお肉のおいしい店に行った。オークの肉って豚よりもおいしくて驚いてしまった。


 店を出た後でこの後の予定を聞いたところ、ユミールの友達を彼女のたまり場で紹介してくれると言われ、友達って本当にいたのかと驚愕の表情を向けたらぶち切れてしまった。でも、これは仕方のないことだと思う。ユミールの友達なんて幽霊並みに存在が信じられない。






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