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プロローグその1

 私こと、志姫は今日も今日とて時代に逆行するような2DタイプのMNO「終末郷オンライン」をプレイしていた。熟練のプレイヤーを彷彿させるように、右手のマウスさばきはなかなかに神懸かっている。

最近は何かと有名になってきたせいでリアルが忙しく、プレイ時間がとれないのが悩みだ。


 今日は一日オフの予定なので、自室の冷蔵庫に買い込んである、女性が絶対買いたくない炭酸飲料『Bitch』をPCデスクに備え付けてあるコースターにスタンバイをして、丸一日終末郷をプレイする腹づもりである。肩から背中まで伸びてきた髪が若干鬱陶しいけど、職業というか、ゲーム風にいえばクラス的なもののせいである程度長くしていかなければいけないのかナー、と画面から目を離して遠い目をする。



 いきなり視界が真っ白になった。



「目があ、目があぁぁぁ!? めがあぁぁぁぁ、あ~~~・・・」



 はっ、突然の状況にパニックになりつつも、持ち前の芸人根性でノリをかましてしまった。おかげで突然の状況に対してある程度落ち着けたから僥倖といえるかな。


 とりあえず、現状を確かめるために周囲を確認してみることにする。今まで目の前にあったパソコンはなく、操作していたマウスも持っていない。だがしかし、左手に持っていたBitchはある! とりあえず飲んでみた。うん、相変わらずのうまくはないけど癖になる味だ。


 なんか考えるのが面倒になってきたので現実逃避気味にBitchを飲んでいたら、背後から控えめに声がかかってきた。


「あの~、こういう状況では普通もう少し慌てたりやけになって暴れたりするものじゃないんでしょうか・・・?」


「ふむ、誰かは知らないけど、私に普通を当てはめるとは愚の骨頂。

 さしずめ私をここに呼びだしたのは貴方と言うことでいいのかな?さあさあ、君もBitch一緒にどうかね。コップはないかい?」


 私が振り返ってみるとそこには貫頭衣を上等にしたような服。なんだったかなこれ・・・千早だっけ?そんな感じの装いをした膝までも長さがある髪型の女性が立っていた。


 歳は私と同じかちょっと上くらいかな?・・・私は17です。胸元を見るとこれまた私と同じくらいのCカップ-並乳だった。胸元を見つめられていることに気づいた女性は、若干顔を赤らめながら私の返答に対して言い放つ。


「いやですよ。そんなふざけた名前の飲み物。私のような女神が手を出してもいいような物ではありません!」


「ん?女神・・・女神だって?君は本当に女神なのか?本物なら目からビームが出せるだろう。出してみたまえ、さあ!」


「貴方じゃあるまいし、でるわけないでしょ!貴方は女神をなんだと思っているんですか!!

 私は目からビームもおっぱいからミサイルも耳から赤外線も出たりしません!せいぜい魔法的な物で手から水くらいなら出せますよ。ほらほらっ」


 私の問いかけに対して女神が激しくつっこみながら、その手から水がぴゅ~って飛び出してくる。床が水浸しになるなーっと思ってたけど、こぼれ落ちる水は地面にたどり着くことなくどこかへと消えていった。


 だがしかし、私はその光景を見ても心が躍ることはなく、失望の眼差しが押さえきれない。


「なんだ、ただの大道芸人か。がっかりだよ。ああ、がっかりだ。」


「ちょ、ひどいじゃありませんか。私は本当に女神なんですよ。この世界では一番偉いんですよ?ねえ、お願いですから無視しないでこっちを向いてください。


 おねがいだから私の話をき~い~て~~! はぁはぁはぁはぁ・・・げほっげほっ」


「もう少し落ち着いたらどうだい?これでも飲んで一息入れたまえ。」


「はあ、はあっ・・・すいません。ありがたくいただきます。んぐんぐ・・・ぶはーーーーっ! これBitchじゃないですか!!」


 吹き出したBitchが私の顔に向かって吹き出されるが、先ほどの水のように私の顔にかかることはなくどこかへを消えていった。あ~あ、もったいないと思いつつBitchのペットボトルを眺めてみると、どう見てもここに来たときから全然中身が減っていない。どうなっているんだろう?


 不思議ではあるが、中身が減らないのは悪いことではない。このまま好きなだけ飲むことにしよう。そう思っていたら、自称女神から懇願するように話しかけられてきた。


「お願い、おねがいですからっ、話を聞いてください。今の状況について説明をさせてください。どうして連れてこられた方がこんな態度でいられるんですか!? おかしいです。おかしいですよね?


 確かに貴方は普通の人とは違うとは思っていましたけど、ここまでとは思いませんでしたよ。ああ!いいっいいです。何も言わないでください。これ以上話を脱線されては困ります!


 いいですか?私がこれからこの状況の説明と最後に貴方に対してお願いがあります。ですので、質問以外は話が終わるまでおとなしく聞いていてください。わかりましたか?」


 自称女神の懇願ともいえる態度に私は鷹揚に頷く。


「ああ、わかったとも。私たちは既にビッチ仲間だ。君の顔を立てようではないか。」


「ビッチじゃなくてBitchでしょ!?わざとですよね、わざとなんですよね!?」



 その後、キレた自称女神が落ち着くまで30分は要した。






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