SHOT
クリミナル・ビーター…それは人類史で最高傑作と言っても過言ではないほどの日本の発明であり、同時に隠さなくてはならない日本の汚点であり、国家機密である。
それは電脳と心を繋ぎ、悪を断つであろうと言われていた。
その仕組みは人々の悪意を読み取る人工衛星“KOKORO”が、察知した悪意をデータ化してクリミナル・ビーターのメインコンピュータへと転送する。
そこに転送された悪意をゲーム感覚で倒すアプリ、そのシステムをまとめてクリミナル・ビーターと呼んでいる。
地下学園都市【才電】はそのクリミナル・ビーターの実験区として使われていた。
最初は政府の予想通りにクリミナル・ビーターによって地上の悪意は減り、犯罪は減少した。
…だが、致命的なバグが発見された。
体力を表すHPとは別に存在する、残機を表すLPが0になった者は現実でも死を迎えるというものだ。
…政府はこれを隠蔽した。
それどころかゲーム好きな学生を集めて、クリミナル・ビーターに貢献した者には望む大学への進学を約束した。
そしてこの話はそんな地獄・才電に生きる学生達の物語である。
[白虎学園中等部屋上]
「竜也!今日こそ掃除当番やってもらうわよ!RANK2【ハイブルーム】起動!!」
そう叫ぶ少女がいるのは才電に4つある学校の1つ【白虎学園】の中等部の校舎の屋上である。
彼女はとある1人の男子生徒と対峙している。
「負けないぜ!RANK1【ツイン・ウッドソード】起動!!」
少女の手の近くに魔法陣が出現し、そこから彼女は箒を引き抜く。
そして男子生徒は近くに出現した魔法陣から二本の木の剣を引き抜いた。2人は睨み合う…そして男子生徒が動いた!
右の剣の切り払いを女子生徒は避け、左の突きをステップでかわして男子生徒の左手首を右手で掴んだ。
そして…
「とりゃあっ!!」
会心の一本背負い!
男子生徒はしたたかに床にたたきつけられた。
「いてて…おいおい、箒召喚した意味あるカハっ!?」
男子生徒が言い終わる直前に、あお向けの彼の腹に箒が直撃した。
「まあこれがその意味かな…とりあえず掃除しながら話そっか。」
「くそう…覚えてろよ。」
そう毒づく男子生徒に向けて、女子生徒からトドメが刺される。
「覚えてるわよ。これでアタシの86戦86連勝で今回は【美味しい堂】のシュークリーム5個よね?」
男子生徒は脚を引きずられながら、肩を落とした。
クリミナル・ビーターの特殊ルール:RANK2までのアイテムは才電内において現実に召喚できる。ただしアイテムにはアイテムでしか触れられない。
【放課後:神代竜也・朝倉健吾宅】
【才電】内の生徒は基本的にルームシェアをして生活をする。
先ほど打ちのめされた少年・神代竜也と彼の親友・朝倉健吾の住居は彼らの所属チーム“白猫団”の拠点でもある。
「よーし、じゃあ早速今日の狩りに行くわよ!」
立ち上がり天井を指差すのは白猫団リーダーの音羽響子。
先ほど掃除当番をサボる竜也を連行した少女だ。
茶色混じりのボブヘアにスレンダーな体型、背丈はあまりないが十分に可愛い部類に入るだろう。
「で、今日の目標は?フルメンバーだからDクラス級かな。」
そう問いかけるのは朝倉健吾だ。
赤みがかった短髪にエンジ色のフレームの眼鏡、そして背は高く痩身な好青年である。
彼はこの部屋の主の1人にしてチーム“白猫団”の頭脳、そして響子とともに前衛をつとめている。
ちなみにDクラスというのは悪意の強さのグループで中堅程度に位置するものであり、Aクラスが現時点で最強とされている。
最低はFクラスであり、E・Fは基本的に中等部の狩猟対象でDクラスは高等部の初級者の狩猟対象だ。
「お姉ちゃん…わたし心配かも。」
そう不安がるのは響子の妹の奏子である。
皆とは1つ年下の中学一年生で気弱であるものの、クリミナル・ビーターを始めてからひと月ほどで姉のような潜在能力を発揮して多くのチームから勧誘を受けた。
髪型は姉と同じ色の髪をこちらは伸ばし、ポニーテールにしている。
体型は姉より女性らしく、こちらも可愛い部類に入るであろう。
「……………。」
沈黙のままメモ帳を読むのは【才電】個人ランキング11位に位置する野村凛である。
薄い青みがかった色の髪をショートカットにしていてこれもまた美人だ。
クリミナル・ビーター利用者は才電内で3000人はいると言われており、その中の上位13人は【円卓の騎士】と呼ばれていて、多くは自分のチームを持ちつつも【円卓の騎士】というチームに所属している。
自分のチームを持たず、なおかつ【円卓の騎士】に所属してない彼女は珍しい存在といえる。
ちなみに1チームは最大7人であり【円卓の騎士】は2チームで活動している。
「とりあえず最初はEクラスらへんから行こうぜ。あのへんなら殺変してもまだ何とかなるし。」
「何よ、気弱ねえ…。」
響子にため息を吐かれたのは主人公・神代竜也である。
黒髪をほどほどに伸ばし、無愛想な表情の彼は時としてチームをまとめたり、暴走時のストッパーになったりする。
ちなみに殺変というのは地上で発生した悪意が戦闘中に殺意へと変わった時に敵が強くなることを指す。
だいたいクラスが2つか1つ上がる程度だが、時としてそれが命取りにもなる。
ゆえに彼は常に慎重な意見を発している。
「一応LP3あるでしょ。一回目ぐらい冒険しないと。」
「その一回が命取りなんだよ。どうするんだ?ライフドレイン、みたいな特技を持つ敵が現れたりしたら。」
「ぐっ…」
もちろん過去にそんな敵は出たことがないが、だからこそ可能性もある…完全な攻略本の無いゲームのクリミナル・ビーターだからこそである。
この意見には響子も黙った。
ちなみにLPはプレイ期間に関わらず常に3であり、毎日午前零時に3に回復する。
HPが0になるとLPが1減り、その戦闘から強制離脱となる。
そしてHPはLPと同じように100で変わらず、スキルやアイテムの使用や装備でステータスを上げるようになっている。
そこにテストの成績や普段の生活態度も関わってくるため、学生達は勉強などもしっかりと行う。
「じゃあ最初はEクラスからでいいね?」
健吾が皆を見回す。
すると皆は頷いたりとイエスの反応を示した。
「よし、なら…クリミナル・ビーター、セット。」
健吾の合図により、全員が右隣に向けてクリミナル・ビーターの端末である銃型の機械を向け、五角形を作った。
「…Shot。」
その瞬間、5人の世界が揺れて5人は意識を失った。