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連続児童殺害事件その後

作者: みんち

 落書き帳には、落書きをするのだと思っていた

 だけど、僕は落書きというものが分からなかった。

 「それはなんだい」

 「落書き」

 「……そうか」

 先生が困った顔をしている。どうやら僕のせいらしい。罪悪感で一杯だが、僕にはどうすることも出来ないのが現状だ。

 この箱に来てからというもの、落書き帳に落を書いて先生に出すという日々を送っている。それは僕だけではなく、同じ箱にいるみんなもそうだった。毎朝来る先生に落書き帳を出し、返される。そしてまた書く。しばらくこれを繰り返している。

 だけど、みんなは違かった。落を書いてはいなかった。みんなはこれに絵を描いていたのだ。

 それが落書きなのかと疑った時もあったし、訊いてみたりもした。だが、聞き方が悪かったのかもしれない。僕の頬は腫れ上がり、青黒い痣を作ってしまった。その製作者である同じ箱の一人は、次の日からもう姿を見ることは無かった。

 僕はその後も落書きをし続けた。ページがなくなったら新しいものを貰い、ただ延々と落を書く。隙間なくみっしりと詰められたその文字が時に呪い染みて見え気持ち悪い。それでも僕は書き続けていた。

 それが、書く、ではなく、描く、だと知ったのは随分後だった。

 よく見るとそれは、落書き帳ではなく、落描き帳と題されていることに気付いた。やはりこれは絵を描くものだったらしい。とは思ったが、落描き帳。落をどう描けというのか。よく解らない。

 けれど、その問題も次の日には解決した。要は落を描けばいいのだ。開かれた白紙一杯に、一文字を置く。勿論、依然のように只書くのではなく、字体や形、細部までこだわって少しずつ形にしていく。数時間かけて出来上がったその形は、紛れもなく落だった。

 暫くそれを続けていたが、それもそれでしっくりこない。どうしても呪術の何かに見えてしまう。とても気持ち悪い。

 ページごとに字体を変えて描いてみたが、この冊子に宿る不穏な空気は変わらない。同じ箱の者は気味悪そうに僕のそれを見ていた。それでも、僕は描き続けた。

 それから数日経って、ページの減りが速いのが気に掛かった。以前は二週間近く持っていた筈のその紙束は、既に数える程のページしかない。そろそろ新しいのを頼む時期だろうか。そんなことを考えながら、僕は丸まった鉛筆へと手を伸ばす。



 18547番の様子はどうでしょう?

 ……良好とは言い難いですね

 それは、どういう意味で?

 どうとも言えません。正直、私から見ていても解らない部分が多すぎます。

 行動のことでしょうか?

 全てですよ。行動も、思考も。彼は……子供です。まだ純粋で、はたまた残酷な、そう、まるで小学生のような。

 分かりませんね、奴はかなりの知能犯だったんです。私達も随分手を焼いたんですがね。

 確かに正常と言われる数値を遥かに超えた知能を彼は持っています。ですが、あれは子供だ。遊びを教えたら、きっと素直に笑って喜ぶと思いますよ。

 ……へぇ、これのどこを見て、子供なんて言えるんです?私にゃ理解しかねますがね。

 そうでしょうね。当たり前ですよ。

なんです、言い切るじゃないですか。

 実はこれ、落書きをしなさいって渡してあるのです。

 ほう、だから?

 みんな、思い思いに絵を描いていましたよ。まぁ、場所が場所ですから、描くものはやはり落書きとは言い難いものでしたが。

 奴も充分その仲間だと思いますよ。

 いえ、彼は落書きが理解出来なかったんですよ。その行為の意味ではなく、行動自体が、です。

 んで、どうだっていうんです?

 彼はまだ何も知らない子供です。だから、ここを箱だと思っている。ここにいるのは仲間だと捉えている。……それだけで充分じゃないですか?

 ……奴は、壊れちまったんですか。

 いいえ、きっと、元からああだったのではないかと。

 そう、ですか。

 一度会ってみるといいのではないですか。彼の捉えようによっては、貴方は父にもなり鬼にもなる。最初は、見覚えのあるオジサンぐらいの反応だと思いますがね。

 分かりました。

 気を付けて下さい、最後に傷付くのは貴方ですよ。

 はは、ご忠告、有難うございます。



 今日、僕に来客があった。とても怖い顔のおじさんだった。怖い顔のおじさんは、何故か今日は優しく僕の頭を撫でてくれたりした。彼は僕のことをよく知っているらしい。急に泣き出したのが気に掛かるが、とても会話が楽しかった。またあの人が来てくれることを願う。

 今日で落描き帳は最後になる。明日には新しいものを貰えるから、最後というのは間違いかもしれない。けど、今日でこの冊子は最後だ。

 だから、今日は絵を描いてみようと思う。明日、先生に怒られないか心配だ。



18547の記録 23冊目

 刑事の顔が描かれていた。幼稚な作りだが、笑顔の男だということが読み取れる。収集員の確認にて18547番は「昨日のおじさん」と答えたことにより人物の確定が可能となった。

 改善の起伏が見え始めたように感じる。今後の経過に期待。

 追伸:落書き帳が切れたようだ。新しいのを頼む




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