残念な主人公
俺はさっきまで、自分の部屋でゲームをやってたはずだ。ゾンビを撃ち殺していく、有名なあのゲーム。最近新作が出て、俺はそれをノリノリでプレイしていた。
ところが急に視界が暗くなったと思ったら、見知らぬ場所にいた。錆びついている大きなタンク。今は動いていないベルトコンベヤー。何かの工場、みたいだ。それもすでに廃墟と化しているような…。
初めて来た場所のはずなのに、俺はこの光景を知っていた。だってここは、さっきまで俺がゲームでゾンビを撃ちまくってた廃工場と全く同じ造りじゃないか。となると、まさか。
「ゲームの世界に来ちまったってことか…?」
『お…おお…ああああ…』
背後から不気味な唸り声が聞こえて、俺は後ろを振り返った。人影が見える。だけど、明らかに様子がおかしかった。
右頬の皮膚がはがれ、露出している赤黒い肉。片方の目玉はなく、もう片方は飛び出ていた。皮膚と少しの肉だけで、かろうじてぶらさっがている腕。傷口から露出している血管。服も身体も血だらけのその姿で、ふらふらとこちらに近づいてくる。
ゾンビ、だ。
「う…わ」
恐怖で後ずさった俺の足に、何かが当たった。
ハンドガンだった。
そうだ。確かにさっきまでやっていたゲームの冒頭は、ここで銃を拾い、目の前のやつを撃ち殺すところから始まるんだった。
俺は急いでハンドガンを拾った。そして、
自分のこめかみに銃口を向けて、引き金を引いた。
こんな怖い世界で、生きていけるはず、ないだろ。