表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第一章 「嘘と脅迫から始まる俺様文官との最悪で最低な始まり」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/42

第九話 「後宮の地下には、何かいる」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

 衣装乾燥室に辿り着いたオレたちは、

辺りをぐるりと見渡した。


日はすでに落ち、

昼間の喧騒が嘘のように、後宮は静まり返っている。


「問題は――どこの地下に繋がっているか、だな」


玄曜げんようが低く呟く。


「そんなに広いの?」


「地下は、歴代の皇帝が代々広げてきた迷路だ」


「……そうなんだ」


一瞬、言葉に詰まる。


「ねえ、玄曜。もし……失踪事件が工芸品の、

龍霊雨器りゅうれいうきの仕業だったら……?」


「見つけ次第、“処分”する」


即答だった。


「えっ!? そこまでしなくても……!」


慌てて言うと、玄曜は鋭い視線を向けてくる。


「人に害をなした工芸品は破壊する。それが決まりだ」


冷たい声だった。


「そんな……」


言い返そうとした、その時――

ふわりと、甘い花の香りが鼻先をかすめた。


「……香りがする」


この匂いは――


夜来香イエライシャン……?」


「この近くに夜来香イエライシャンの木なんてないのに……」


オレは目を閉じ、意識を研ぎ澄ます。

静寂の中で、香りだけが確かに流れている。


ゆっくりと目を開けると、

衣装乾燥室の床近くから、淡い光の筋が漂っていた。


「……綺麗」


その光は、まるで道しるべのように、

奥へ、奥へと続いている。


「ずっと先まで伸びてる」


「なにがだ?」


「光の筋がある。玄曜には……見えないのか?」


「いや。香りは感じるが、光は見えない」


やっぱり、オレだけか。

オレは息を整え、光の筋を辿る。


それは、地下の工事現場へと続く入口の方向へ、

確かに伸びていた。


「行けそうだ」


地下へ降りると、闇が一気に押し寄せる。

当然、何も見えない。


「松明か燭台、取ってくる?」


オレが尋ねると、玄曜は首を振った。


「必要ない。これがある」


そう言って、袖の中から小さな銀の灯盞とうさんを取り出す。

手のひらに乗るほどの小ぶりなもので、長い年月を経た

金属特有のやわらかな光沢を帯びていた。

持ち手に獅子が形取られ、獅子の体には細かな彫りが

施されている。


玄曜は掌の中の小さな灯を呼んだ。

「——星燈宵煌せいとうよいこう

名を呼ばれた瞬間、音も風もないまま、淡い火が灯り、星屑のような光が静かに舞った。


「わあ……!」


思わず声が漏れた。


「これも龍霊雨器りゅうれいうきなの!?」


「そうだ」


「すごい……!」


オレが星燈宵煌せいとうよいこう顔を近づけると、

炎がゆらりと揺れ、まるで挨拶を返すようだった。


「遊んでいる場合じゃない」

玄曜が静かに言う。


「光の筋を追え」


「……わかった」


オレは深呼吸をして、

再び淡く揺れる光の筋へと足を向けた。


闇の奥へ――

香りと光に導かれて。



どれくらい歩いただろうか。

不意に、足元で何かを踏んだ。


「ぎょえっ!?」


反射的に玄曜にしがみつく。


「……落ち着け」


玄曜が灯りを足元へ向ける。


その瞬間――


「……人だ」


通路の床に、人が次々と倒れていた。


「えっ……!? し、死んでる!?」


恐る恐る、近くの一人に触れる。


「……っ」


「死んでねぇ。眠ってるだけだ」

玄曜の声が低くなる。


「おそらく、龍霊雨器りゅうれいうきの仕業だな」


「えっ……!」


「精気を、少しずつ取り込んでいる」


「ええっ……! そんなことまで……」

背筋が冷たくなる。


通路はまだ奥へと続いていた。

進むにつれて、香りと光はますます濃くなっていく。


――この先だ。


ごくり、と喉が鳴った。

オレは玄曜の袖を掴み、灯りを頼りに一歩ずつ進む。


「……ここは」


むせ返るほど濃い香の匂い。

空気が、はっきりと変わった。

この感覚……間違いない。

龍霊雨器りゅうれいうきが――いる。


玄曜が灯りを前方へかざす。

照らし出されたのは――


白骨化した、亡骸だった。


「ぎょえぇぇっ!!」


思わず叫び、玄曜にがっしりと抱きついてしまう。


「おいっ!」


その拍子に、玄曜の手から星燈宵煌せいとうよいこうが落ちた。


――ふっ。

灯りが消え、辺りは完全な闇に包まれる。


「このクソ……!」


「ご、ごめん!!」


必死に手探りで床を探し、星燈宵煌せいとうよいこうを見つけて玄曜に渡す。


再び灯りが灯る。


震える目で、もう一度奥を見据えると――

朽ち果てた、簡素な衣をまとった亡骸に包まれるように、

そこに――


「……こいつか」


玄曜が静かに呟いた。


白骨の中心に置かれていたのは、

掌に収まるほどの――美しい、小さな香炉。


淡い光も、甘い香りも、

すべてはそこから溢れ出ていた。


「光も……香りも……」


オレの言葉に、玄曜は視線を細める。


「間違いない。これが、元凶だ」


香炉は、何も語らない。

ただ静かに、香を焚き続けている。


――けれど。


その香の奥に、

確かに“意思”のようなものを感じて、

オレは知らず、息を呑んでいた。

※作者より

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

後宮での生活は、まだまだ続きます。

引き続き、気軽にお付き合いいただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ