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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第一章 「嘘と脅迫から始まる俺様文官との最悪で最低な始まり」

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第八話 「謎の香りと、いざ捜索」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

玄曜げんようたちを見送り、自分の仕事を終えたオレは、

昨日玄曜が見せてくれた地図の場所を巡り始めた。


衣装乾燥室。

機織り場。

薬湯と香湯の準備所。

灯油と燭台の保管庫。


どこも働き手の下女で溢れ、忙しそうに立ち働いている。

笑い声や布の擦れる音、湯気と香の匂いが入り混じり、

後宮らしい賑わいだ。


「……」


入りたてのオレには、知り合いもいない。

それに、どこも忙しそうで、話しかければ仕事の

邪魔になりそうだ。


「このままじゃあ、また玄曜に“役立たず”って言われそうだな……」


衣装乾燥室から少し離れた場所で、そう呟く。

どうしたものかと考えながら、小さくため息をついた。


……まあ、いいか。

邪魔だって言われたら、その時は玄曜の名前を出せばいい。


そろそろ下女に声をかけに行こう。

そう決意した、その時――


「……ん?」


衣装乾燥室の辺りで、何かがふわりと揺れた。


目を凝らして見ると、光の筋のようなものが、

空気の中を漂っている。

今にも消えてしまいそうな、淡い光。


周囲の下女たちは、誰も気に留めていない。


(……見えてるの、オレだけ?)


そっと近づくと、陽の光を受けて、その光の筋は

うっすらとどこかへ続いているようだった。

意識を集中させて辿ってみる。


――ふわり。


鼻先をくすぐる、花の香り。


夜来香イエライシャン……?


けれど――


「……消えた」


途中で、光の筋はぱったりと途切れてしまった。


辺りを見渡すと、掘り返された土や石を運ぶ人たちが

行き交っている。

空気には、土埃が舞っていた。


「この辺り……土埃、すごいな」


そういえば、地下の保管庫の増設工事をしていると聞いた。


「……玄曜に、話してみるか」


確証はない。

でも、胸の奥に、妙な引っかかりが残る。


オレの鼻の奥には、

――夜来香イエライシャンの香りが、微かに残っていた。



夕方、明らかに不機嫌な顔をした玄曜が、離れに帰ってきた。


「お、帰ってきたか!会議はどうだった?」


声をかけると、玄曜はギロリとこちらを睨んだだけで、何も答えない。


そのまま食卓の椅子にだらしなく腰を下ろし、

背もたれに体を預ける。

目を閉じて、ただひたすらイライラしている様子だった。


(……これは、触れちゃダメなやつだな)


しばらくして、玄曜がぽつりと呟く。


「……クソ、疲れた……」


後宮の文官の会議。

外では完璧な文官を演じている分、相当神経を

すり減らすのだろう。

素の玄曜を知っているからこそ、よくわかる。


玄曜はしばらくそのまま座り込んでいたが、

オレが海老の蒸し餃子を運んでくると、無言で箸を取り、

ゆっくり食べ始めた。


「甘い物、食べれるんだろ?」


食事の後、玄曜の前にお茶と饅頭を置く。


「我が白家はくけ直伝の南瓜餡饅頭かぼちゃあんまんじゅう!」

オレも並んで腰を下ろし、一緒に頬張る。


この素朴な甘さ。

我が家の味だ。


「……」


玄曜は何も言わず、黙々と食べている。


「美味しい?」


「……普通」


「そっか」


「もう一つくれ」


「うん」


それきり、会話は途切れた。


ただ、並んで饅頭を食べる時間。


気を使わなくていい食卓。

素を見せられる相手。

そして、美味しいもの。


玄曜の空気が、ほんの少しだけ、柔らいだ気がした。


オレは気づかれないように、小さく笑った。



「……光の筋に、夜来香イエライシャンの香り?」


「そう」

オレは昼間の出来事を一通り説明した。


話を聞き終えた玄曜は、無言で地図を広げ、しばらく目を走らせる。


「――そうか」


不意に呟いたその一言に、オレは身を乗り出す。


「なに? 何かわかったのか!?」


玄曜は地図の一角を指でなぞった。


「衣装乾燥室と機織り場は、湿気を逃すために地上と地下を繋ぐ空気孔がある」


指が別の場所へ移る。


「薬湯と香湯の準備所。湯気を逃がすため、床下や壁に空気孔がある」


「……うん?」


さらに別の印。


「灯油と燭台の保管庫は火気厳禁だ。当然、換気のための空気孔が必須になる」


「……それが、どういうこと?」


オレが首を傾げると、玄曜は小馬鹿にしたような視線を向けた。


「……ついてこい」


そう言い残し、外へ歩き出す。


「え!? 玄曜、どこ行くんだよ! もう暗いぞ!」


慌てて後を追う。


「夜の方が都合がいい」


「なんで!?」


玄曜は答えず、昼間オレが光の筋を見た衣装乾燥室へ、迷いなく向かっていた。


「――なぜ、夜に下女が消えるのか」


ぽつりと、玄曜が呟く。


「ようやくわかった」


「え……?」


「失踪した下女たちの作業場所は、すべて地上と地下が空気孔で繋がっている」


玄曜は振り返らずに続ける。


「昼間は地下で工事が行われている。砂埃で、香りがかき消される」


「香りって……オレが感じた夜来香イエライシャンの?」


「そうだ。出所を探っていたが……もう間違いない」


地下――。


その言葉に、オレはふと、下女たちの噂を思い出した。


「夜に、枯れた井戸から香りがするって噂……」


「地下で繋がっているからだろうな」


「じゃあ……失踪した下女たちがいる場所って……」


オレと玄曜は、同時に立ち止まり、顔を見合わせた。


「――地下だ」


夜の後宮に、静寂が落ちる。


地上では見えない場所で、

香りに誘われ、何かが待っている。


その事実を前にして、

オレは無意識に、玄曜の袖を掴んでいた。


「……離れるなよ」


低く囁かれた声に、心臓が跳ねる。


こうして――

地下へと続く、夜の調査が始まった。

※作者より

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

後宮での生活は、まだまだ続きます。

引き続き、気軽にお付き合いいただけたら嬉しいです。

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