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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第一章 「嘘と脅迫から始まる俺様文官との最悪で最低な始まり」

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第六話 「昨日来たばかりなんですけど?」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

「疲れたぁぁぁ……」


その日の夕方。

オレは思わず、食卓の椅子に座り込んだ。


あの後、玄曜げんようの指示通りに第三区画の工芸品を整理し、

昼までに報告書をまとめた。

その後、下女失踪事件の噂を集めようと動いた――のだが。


「ねえねえ!あなた!あの文官!玄曜様の管轄の子よねぇぇぇ!」


下女たちに囲まれ、気づけば玄曜について

根掘り葉掘り聞かれる羽目に。

噂を集めるどころじゃなかった。


「……玄曜のせいで疲れた……」


ため息をつく。

みんな、玄曜の“外面”しか知らないんだよな。


本当は口も悪いし、性格もひねくれてるし……。


「なんていうか……俺様系なのに」


思わず呟く。

女の子たちに教えてあげたいくらいだ。

――まあ、弱みを握られてる以上、黙っておくけど。


「……はぁ」


自然と、苦い顔になる。


「玄曜……まだ戻らないのかな」


離れは静かで、帰ってくる気配はない。


朝ご飯は作ったけど……夜は食べるだろうか。

二人分作っておこうか。

残ったら、明日食べればいいし。


「よし!」


気合を入れて、夕食の支度に取り掛かる。


これから一緒に暮らすなら――

玄曜の好き嫌いも聞いておきたい。

苦手な食べ物はあるのかな。

朝は苦手そうだったけど……何時に寝てるんだろう。


家でも仕事してるのかな?

後宮の文官様だし、きっと忙しいはずだ。


「……聞きたいこと、いっぱいあるなぁ」


その時。


外から、足音が近づいてきた。


扉が開き――玄曜が帰ってくる。


「玄曜!お帰りなさい!」


オレは鍋をかき混ぜながら声をかける。


「二人分作っておいてよかった!

もうすぐできるからな!」


清蔬魚湯せいそぎょとう(野菜と魚のスープ)を塩で整える。


「あ、先に風呂入る派だった?

風呂桶にお湯、入れとこうか?」


そう言って玄曜に駆け寄る。

料理の邪魔にならないように束ねたポニーテールが、

髪飾りと一緒にふわりと揺れた。


「……」


玄曜は、しばらく黙ったままオレを見つめ――


ぽつりと、呟く。


「……本当に、男か……?」


 *

 

「なあ。朝と夜、オレが勝手にご飯作っちゃったけど……良かったのか?」


食卓を挟み、玄曜にそう尋ねてみる。


「何がだ」

玄曜はぶっきらぼうに返し、箸を動かし続けている。


「いや、玄曜ってさ。

いつも決まった場所で食べてるなら……玄曜の分、

作らない方がいいかなって思って」


玄曜は答えず、しばらく黙々と食べ続けた。


「食事は……いつも後宮内で、適当に済ませてる」


淡々とした声。

あまり食事に興味がなさそうな響きだった。


「そうなんだ。じゃあ――」


作らないほうがいいか、と言いかけた、その時。


「これからは、ここで食べる」

玄曜が顔を上げる。

「朝と晩は、作っておけ」


やけにきっぱりした口調だった。


「……そっか。わかった!」


思わず笑ってしまう。

脅されて始まった同居だけど、オレは居候の身だ。

ご飯くらいは、ちゃんと作ってあげたかった。

それに――料理は、嫌いじゃない。


「……美味しい?」


恐る恐る聞く。


「……見ればわかるだろ」

玄曜は不機嫌そうにオレを見る。


「なんだそれ。美味しいか、美味しくないか、感想

言ってくれないとわからないだろ?」


星蘭なら、毎回「美味し〜い!」って大喜びなのに。


「普通」


「おい」


ほんと、可愛くないやつだ。


すると玄曜は、空になった椀を無言で差し出してきた。


「……ん。」


「ちゃんと『おかわりください』って言え」


「バラすぞ」


「おい」


――こいつ、子供か。


そう思ったはずなのに。

空の皿を差し出す玄曜の横顔が、

思ったより穏やかで――


オレは、思わず視線を逸らしてしまった。

 



食事の後、玄曜は食卓の上に大きな紙を広げた。


「これは……地図……?」

オレは端から端まで目を走らせて聞く。


「後宮内の地図だ」

 

「じゃあ、この×印は?」


「この一週間で行方がわからなくなった下女が、

所属していた場所と人数」


地図に記された印は、主に下位の下女たちの仕事場に集中していた。

衣装乾燥室。機織り場。

薬湯と香湯の準備所。

灯油と燭台の保管庫。


……場所が、いくつもに分かれている。

何か共通点はあるのだろうか。


「オマエはどうだった?」

玄曜がこちらを見る。

「少しは役に立ったんだろうな」


うっ……なんて高圧的な視線なんだ。


「アンタの話ばっかり聞かれて、噂どころじゃなかった」


「役に立たねーな」

即答だった。


「なんだとっ!? でも少しは聞いてきたんだぞ!」

オレは身を乗り出す。


「枯れた井戸から夜来香イエライシャンの香りがしたら、両思いになれるって!」


「くだらねぇ」


「夜更けに枯れた井戸から白檀ビャクダンの香りがしたら、告白しちゃダメなんだって!」


「くだらねぇ」


「あと、地下の保管庫の増設工事で土埃がひどくて、みんな困ってるって!」


「知らねぇよ」


玄曜は盛大にため息をついた。


「役に立たないやつだな。オマエの女装は、その程度かよ」


椅子にふんぞり返りながら、平然と言い放つ。

……腹立つな!


「こっちは昨日、後宮に来たばっかりなの!」


「明日、せいぜい頑張るんだな」


「わかってるよ!」


玄曜は、もう用件は終わりだと言わんばかりに棚から

おやつを取り出した。

茶を啜りながら、かぼちゃの種と胡桃をポリポリと食べ始める。


この態度!

何が後宮人気ランキング一位だ!


玄曜をキャーキャー言ってる他の下女たちに、この姿を

ぜひ見せてやりたい。

オレだけが知ってるなんて、勿体ないくらいだ。


「…なあ、玄曜」


無言の空気に耐えきれず、オレは声をかけた。


「なんだ」


「玄曜って、好き嫌いある? 辛いのダメとか、甘いの好きとか」


「特にない。……極端に辛いのは作るなよ」


「わかった。甘いものは?」


「食べる」


「わかった!」


それなら、いくらでも作れそうだ。

明日は何にしようか――そんなことを考えていた、その時。

玄曜の視線に気づいた。

射抜くような強い視線…その表情は、何を考えているのか

まったく読めない。


「な…何?」居た堪れずつい聞いてしまった。

「オマエの身内で同じ力を持つやつはいるのか?」


「え?古い工芸品の記憶がわかる力のこと?」

「そうだ」


「うーん…オレだけなんじゃないかな…父さんや母さんからも聞いたことないかな」

「そうか…」玄曜は小さく呟くと何やら考え事をしているみたいだった。


やがて、何も言わずに立ち上がる。

地図を乱暴に丸め、そのまま二階へ向かおうとした。


「明日は、今日の続きの仕事が終わったら――」

足を止めずに言う。


「地図の場所をオマエが調べてこい」


口調も態度も、明らかに機嫌が悪い。


「はあっ?」


取り残されたオレは、呆然と呟いた。


「……なんなんだよ。アイツ。」

※作者より

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

後宮での生活は、まだまだ続きます。

引き続き、気軽にお付き合いいただけたら嬉しいです。

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