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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第一章 「嘘と脅迫から始まる俺様文官との最悪で最低な始まり」

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第五話 「脅迫同居、はじめました」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

ここ数日のオレ――白流星はくりゅうせいの人生を、少し振り返ってみよう。


一週間前、可愛くて仕方がない最愛の妹・星蘭せいらんが、なんと後宮で働くと言い出した。

当然、オレは全力で反対した。

そして当然(?)、妹の代わりにオレが女装して後宮へ潜り込み、働くことになった。


工芸品を管理する倉庫に配属されてウキウキしていたのも束の間。

倉庫の管轄を担当する文官・玄曜げんようと出会い、なんだかんだあって男だとバレた。

さらに、なんだかんだあって――同居することになった。


今日は、その同居初日である。以上。


「どうなってるんだ……」


我ながら、忙しすぎる人生だ。

窓から差し込む爽やかな朝日を浴びながら、オレは寝台の上で一人つぶやいた。


昨日、強引に取引が成立し、倉庫に置いていたオレの少ない荷物は、あっという間に玄曜の離れへ運ばれた。


「ここを使え」


そう言われて与えられたのは、二階の一室。

こじんまりしているが、寝台は柔らかく、陽の光もたっぷり入る。薄暗い倉庫脇の下女部屋と比べれば、どう考えても極楽だ。


「よっ……と!」


背伸びをして勢いよく起き上がる。

姿見鏡の前で下女用の衣に身を包み、髪を整える。

唇に薄く紅を引けば――後宮で働く下女・白星鈴の完成だ。


よし、次は朝の準備!



「おはよう! やっと起きたか!」


食卓に現れた玄曜に、オレは笑いかけた。

離れの中では星鈴を演じなくていい。口調も自然と砕ける。


「……ああ……オマエか……」


一瞬、「なんで女がここに……?」という顔をした玄曜は、すぐに昨日の出来事を思い出したらしい。

眠気にやられた目は鋭く、口調もぶっきらぼう。

昨日までの爽やか穏やか文官とは、とても同一人物に見えない。


――朝、弱すぎだろ。


オレはこっそり笑ってしまった。


食卓の上には、湯気を立てる卵粥と青菜炒めが並んでいる。

香ばしい匂いに、玄曜の寝ぼけた頭も少しずつ働き始めたようだ。


「食材、勝手に使った。外の薪も適当に使ったけど……良かったか?」


そう言って、淹れたてのお茶を差し出す。


玄曜は茶杯を受け取ったまま、なぜか女装したオレをじっと見つめてきた。


「……なんだよ」


「……本当に男か……?」


不機嫌そうに目を細める。


「オレの身体、触っただろ」


ムッとして返すと、


「もう一度、確かめてやろうか」


「やめろ!」


オレは全力で拒否した。



「それで? 妹の代わりに女装して、後宮に来た、と」


「そう! それで、アンタにバレたわけ!」


オレは食後のお茶を飲みながら、ここに至るまでの経緯を一通り話した。

玄曜は黙って聞き、時折、ふうん、と相槌を打つだけだ。


「でさ」

茶杯を置き、オレは身を乗り出す。


「アンタが言ってた“協力”って、オレは何をすればいいんだ?」


「まずは、普段の仕事を続けながら――オレの仕事を手伝ってもらう。」


「玄曜様の仕事…?」


「ここでは“玄曜”でいい」


ぶっきらぼうに言われ、オレは小さく頷く。

 

「ええっと…玄曜は文官だろ?文官の仕事に協力するのって、オレの力と、どう関係あるんだ?」


「オレの仕事には龍霊雨器りゅうれいうきが関わっているからな」


龍霊りゅうれい雨器うき…?」初めて聞く名前だった。


「…オマエ、龍霊雨器りゅうれいうきを…“一雫ひとしずくの奇跡”を知らないのか?」


一雫ひとしずくの……奇跡?」


聞いたこともない。首を傾げるオレに、玄曜は少し意外そうな顔をした。


「昔々、龍の神が大陸に降りた時の話だ。人間が作り出した工芸品の美しさに、龍の神は感動して涙を流した。その涙は雨となり――」


玄曜は、静かにオレを見つめる。


「雨を受けた工芸品には奇跡が起き、魂を宿した」


まるで子供に語り聞かせる御伽話のような柔らかい口調だった。

表情も穏やかで、天青色てんせいしょくの瞳が朝日にきらめき、なぜか胸がトクンと鳴る。


(綺麗……)

天青色…理想の青磁の色。

雨上がりの空の青さ。

それも、雲が破れるようにして晴れ始めた、

そのあたりの青さを表す色。


思わず見入ってしまう。


「魂を宿した工芸品。それらは正式には“龍霊雨器”と呼ばれている。

だが、古い言い伝えでは――“一雫の奇跡”だ」


「龍霊雨器……一雫の奇跡……」


初めて聞く話に、思わず前のめりになる。


「龍霊雨器は長く存在するほど、力は強くなる。

人に富や名誉を与えるものもいれば――人を操り、惑わし、害をなすものもいる。まぁ大体はイタズラ程度だがな。」


「……そう、なんだ」


「後宮は、そうした龍霊雨器が数多く集められている場所だ。問題が起きない方がおかしい」


「玄曜は、とびきりの“問題児”を倉庫に集めてるって言ってたよな。それが龍霊雨器ってこと?」


「ああ」


「……」オレは昨日の倉庫での出来事を思い出した。あれは龍霊雨器と呼ばれる工芸品の仕業だったのか…。


「オレは文官の仕事以外に、特例で後宮内で起こる龍霊雨器のトラブルの対応を任されている」玄曜はチラリとこちらを見る。

 

「オマエの力は、オレの仕事に非常に都合がいい。

しかも、女装趣味の後宮下女だ」


「だから趣味じゃないって!」


「どうでもいい」


切り捨てられた。


「今、この後宮では、一週間ほど前から下女が急に姿を消している。報告に上がっているだけでも、百人近くだ」


「ひゃ、百人!?」


思わず声が裏返る。


「外に出た形跡はない。つまり、後宮の中にいる。下女たちなら、何か異変に気づいているはずだ」

 

「それが…工芸品の…龍霊雨器の仕業かもしれないってこと?」


「おそらくな。今日のオマエの仕事は、倉庫とは別の第三区画の工芸品整理。その後、下女失踪に関する噂を集めろ」


「ぎょえっ!? 一気にそんなに!?」


「オレは忙しい」


「オレだって――」


「バラすぞ」


「……くそっ!」


「期待してますよ、星鈴さん」


玄曜は一瞬で“爽やか文官”の顔に切り替え、にこやかに微笑んだ。

……切り替え早すぎだろ!


オレは溜息をつきながら立ち上がる。


――百人の下女が消えた後宮。

――魂を宿す、龍霊雨器。


なんだかとんでもないことになってきた。


それでも、オレが男だという秘密を

知られている以上、逃げ道はない。


「……はあ。」

小さく呟いたオレの背中を、

玄曜の楽しそうな視線が、じっと追っていた。

※作者より

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

後宮での生活は、まだまだ続きます。

引き続き、気軽にお付き合いいただけたら嬉しいです。

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