第十一話 「想いを込めて!推しへの恋文 」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
後宮内、上位官僚の屋敷。
庭先には見事な芍薬が咲き誇り、風が吹くたび、甘く豊かな香りが部屋の中へと流れ込んでくる。
部屋の中にいるのは、オレと――
この屋敷に住む上位官僚の愛娘、清婉だけだった。
「実は私、玄曜様が推しで……」
……推し?
急にオレだけが指名され、呼び出されたと思ったら、どうしてこんな話になる。
「あ、でも!リアコじゃなくて!本当に一人の“推し”として見ていて!」
リアコ?
「あわよくばファンサをもらえたらいいな、くらいで!!」
ファンサ?
何を言っているんだろう……。
「もう、同じ後宮内の空気を吸っているだけで
命が救われているというか!存在が尊いというか……!」
「は、はあ……」
正直、話についていけない。
「あの……それで、私に頼みたいことというのは……?」
オレはようやく本題を切り出した。
「ごめんなさい!私、先日、月下聴絃会という宴に参列したの」
「ん!? あっ、そうなんですね……へぇ……」
ドキリ、と肩が跳ねる。
月下聴絃会で、オレが着飾って玄曜の隣で演奏したことは――
一応、極秘扱いのはずだ。
「その時の玄曜様が……すっっっごく、カッコよくて……!」
清婉は、思い出すようにうっとりと頬を緩めた。
「元々推しだったのが、最推しになったの」
「はあ……最推し」
「それで、どうしてもこの収まらない気持ちを文にしたくて!玄曜様に届けてほしいの!」
「なるほど……」
……最近、本当に増えた。
月下聴絃会が終わってからというもの、来賓として招かれた乙女たちは、
こぞって玄曜に夢中になってしまった。
あの夜の玄曜の姿は後宮中に広まり、
毎日のように恋文が届き、手渡されている。
――まあ、本人は
「めんどくせぇ。慎言、代筆しとけ」
などと言っているのだけど。
(そのせいで、慎言さんの胃薬の量が増えた)
「今から文を書くから、今日中に届けてほしいの」
「わかりました」
今日は他に仕事もない。まあ、いいか。
清婉は机に、立派な文具一式を並べ始めた。
「我が家に代々伝わる龍霊雨器の硯なの」
「わあ……! これは立派ですね……!」
「この硯ですった墨で文を書くと、
想いを届けてくれるって言われているの」
清婉は、嬉しそうに微笑んだ。
「ここ数日、ずっと下書きを考えてて……!」
そう言って、取り出したのは――
重厚な巻物。
……それ、文ってレベルじゃなくない!?
完全に長編じゃん!!
「校正して、なんとか紙五枚に収めることができたのっ!」
「そ……そうなんですね」
「今から清書するから、少し待っていてもらってもいい?」
「はい、わかりました」
オレは邪魔をしないよう、部屋の隅に座り、静かに待つ。
真剣な横顔。
時折、思い出すように微笑む表情。
(リアコじゃないって言ってたけど……)
どう見ても、恋する乙女そのものだった。
後宮中の女の子たちが、玄曜に想いを寄せている。
けれど、それは――
“文官モード”の、偽りの玄曜なんだよな……。
「あの……もし、玄曜様が……清婉様の
思っているような人物ではなかったら……?」
文を書き終え、一息ついた清婉に、
オレは思わず、そんなことを聞いてしまった。
「わがままで、口が悪くて、無愛想で、ぶっきらぼうで、俺様キャラで、人使いが荒くて、
すぐ脅して、叩くし蹴るしで、朝が弱くて、豆類が苦手な人だったら?」
「そんな玄曜様……」
一瞬の沈黙。
「可愛いいい〜んだけど!?」
え。
「待って!?そんなギャップ……!!想像しただけで!!
寿命が伸びちゃう!!ますます推しちゃうー!!」
清婉は悶えすぎて、本書きした文を握り潰しそうになっていた。
……推しって、すごいなぁ。
*
「女の子って、すごいなぁ……」
受け取った文を大切に胸に抱え、離れへと続く道を歩く。
「玄曜もさ、普段の素のままでも全然いいんじゃないか?」
わざわざ気を張って、気疲れする“文官モード”にならなくても。
あのままで――いいじゃないか。
わがままで、口が悪くて、無愛想で、ぶっきらぼうで、俺様キャラで、人使いが荒くて、
すぐ脅して、叩くし蹴るしで、朝が弱くて、豆類が苦手な……
あの、玄曜を。
――みんなに、知られる。
その想像をした瞬間、オレの足が止まった。
「……嫌だな」
風が吹き、髪と髪飾りが揺れる。
「……絶対、嫌だ」
踏み込ませたくない。
オレ以外は――誰一人。
「おい」
突然、背後から声をかけられ、オレはびくっと肩を跳ねさせた。
「玄曜……!」
「何立ち止まってんだ。邪魔だ」
「……」
「なんだよ」
「なんでもない。玄曜宛に文、預かってきた」
「めんどくせぇ……慎言に渡しとけ」
「返事ぐらい、自分でしろよな」
「一人に返したら、全員に返さなきゃならなくなるだろ」
……おお。
意外と律儀だな。
「オレのこと知らないヤツの好意なんて必要ない。
薄っぺらい“好き”なんて、いらねーよ」
ぶっきらぼうに、玄曜が言い捨てる。
「……知ってるヤツからの“好き”なら、いいの?」
「そんなヤツ、いねーだろ。」
「オマエ以外」
不機嫌そうにそう言い残すと、玄曜はさっさと歩き去っていった。
――その背中を、ただ見送る。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
さっき感じた、ざわざわの正体が――
はっきりと、輪郭を持ち始めていた。
(……なんだよ、それ)
オレはまだ、
その気持ちの名前を知らない。
でも――
知らないままでは、いられない気がしていた。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
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