第八話 「二つの音、ひとつの夜」後編
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
空気が澄み渡り、演奏が始まった。
玄曜は、静かに意識を研ぎ澄ます。
天鳳瑞奏の音色が庭園に満ちた瞬間、玄曜の手の中で、龍吟天響が微かに震えた。
「(龍吟天響……落ち着け)」
玄曜は、意識の奥で静かに声をかける。
“まー!?マジ!?マジか!!天鳳瑞奏! めっちゃガチじゃん!!アガるー!!”
龍吟天響のテンションは、一瞬で爆発し、最高潮へと跳ね上がった。
「(……しっかりしろ。飲まれるぞ)」
“おけおけー!!”
きゃぴきゃぴと弾むような気配のまま……だが。
すん、と。一拍ののち、一瞬で空気が整う。
龍吟天響のざわめきが、嘘のように静まった。
玄曜が、ゆっくりと弓を構える。
“我が名は、龍吟天響”
“我が主人、玄曜様にお仕えできること……名誉の極みでございます”
その声と同時に、玄曜が弓を引いた。
次の瞬間――
聞く者の根源を震わせる、低く深い音色が夜を貫いた。
*
演奏が終わり、あたりは静まり返った。
天上の神域から、ゆっくりと人の世界へ――空気が戻っていく。
人々はただ呆然と、舞台の上に並ぶ二人を見つめていた。
その時、ふいに風が吹き、雲が月を隠す。
庭園は微かな灯りに包まれ、輪郭だけが淡く浮かび上がった。
玄曜は軽く息を吐き、隣へ視線を向ける。
「……っ」
俯く流星の顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。
身体はふらふらと揺れ、呼吸も荒い。
――明らかに、様子がおかしい。
「おい……」
玄曜が小さく呼びかける。
「玄……よ……」
流星は声を出すのも辛そうに、身を屈めて肩を震わせた。
「ごめん……オレ……もう……」
その身体がぐらりと揺れ、倒れかけた瞬間――
玄曜の身体が即座に動いた。
次の瞬間、流星の身体がふわりと宙に浮く。
「――!」
玄曜は何も言わず、そのまま流星を抱き上げ、舞台を降りた。
周囲の視線も、ざわめきも、もう耳に入らない。
庭園を抜け、離れへ向かう足取りは早かった。
「何が起きた……」
「わかんない……頭が、ふわふわする……」
離れに辿り着くと、玄曜はそのまま二階の流星の部屋へ入り、寝台に荒々しく寝かせる。
「ほら、着いたぞ」
「玄曜……」
流星はもぞもぞと起き上がり、玄曜の手を引いた。
「おい……」
「オレ……今日……すごい頑張った。本当は、すごい怖かったんだぞ。でも……玄曜を一人にしたくないから……頑張った」
流星の目は、とろんと潤み、口調は甘える子どものように蕩けていた。
流星から漂う、その空気。
(天鳳瑞奏か……余計なことを……)
天鳳瑞奏は人を操る力がある、身体も、心も…思いのままだ。
「だから……ご褒美が欲しい」
無自覚に距離を詰めていることにも気づかず、流星は玄曜の手を引き、指を絡める。
「褒美?」
玄曜は少し考えた。
「金か地位か名声なら、好きなだけ与えられるぞ」
「もー……違うよ」
流星は子供のように、頬をぷうっと膨らませる。
「ぎゅってして」
そう言って、両手を広げた。
「……」
「玄曜……お願い……」
吐息のような懇願だった。
玄曜は何も言わず、流星をそっと抱きしめる。
「……頭、撫でて」
まるで子供のような褒美だな――
玄曜は小さく笑った。
「流星」
「ん……」
耳に玄曜の吐息がかかる。
流星は甘えるように、玄曜の首元におでこをすり、と寄せたあと、顔を上げて目を合わせた。
「玄曜の瞳……綺麗」
「雨上がりの空の色……オレだけが……こんなに近くで見れる……」
「玄曜……」
流星は目を細め、玄曜を見つめる。
ゆっくりと、距離が近づき――
互いの吐息が触れそうになった、その瞬間。
――かくん。
「流星?」
流星は、そのまま玄曜の胸に倒れ込んだ。
「……」
くかー。
返事はない。
流星は完全に寝落ちしていた。
「……コイツ!」
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
龍霊雨器は【火・木・土 19時頃】更新です。
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