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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第三章 「これは恋じゃないと、思っていた」

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第八話 「二つの音、ひとつの夜」後編

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

 空気が澄み渡り、演奏が始まった。


玄曜は、静かに意識を研ぎ澄ます。


天鳳瑞奏てんほうずいそうの音色が庭園に満ちた瞬間、玄曜の手の中で、龍吟天響りゅうぎんてんきょうが微かに震えた。


「(龍吟天響りゅうぎんてんきょう……落ち着け)」


玄曜は、意識の奥で静かに声をかける。


“まー!?マジ!?マジか!!天鳳瑞奏てんほうずいそう! めっちゃガチじゃん!!アガるー!!”


龍吟天響りゅうぎんてんきょうのテンションは、一瞬で爆発し、最高潮へと跳ね上がった。


「(……しっかりしろ。飲まれるぞ)」


“おけおけー!!”


きゃぴきゃぴと弾むような気配のまま……だが。


すん、と。一拍ののち、一瞬で空気が整う。


龍吟天響りゅうぎんてんきょうのざわめきが、嘘のように静まった。


玄曜が、ゆっくりと弓を構える。


“我が名は、龍吟天響りゅうぎんてんきょう

“我が主人、玄曜様にお仕えできること……名誉の極みでございます”


その声と同時に、玄曜が弓を引いた。


次の瞬間――

聞く者の根源を震わせる、低く深い音色が夜を貫いた。



演奏が終わり、あたりは静まり返った。

天上の神域から、ゆっくりと人の世界へ――空気が戻っていく。


人々はただ呆然と、舞台の上に並ぶ二人を見つめていた。


その時、ふいに風が吹き、雲が月を隠す。

庭園は微かな灯りに包まれ、輪郭だけが淡く浮かび上がった。


玄曜は軽く息を吐き、隣へ視線を向ける。


「……っ」

俯く流星の顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。

身体はふらふらと揺れ、呼吸も荒い。


――明らかに、様子がおかしい。


「おい……」


玄曜が小さく呼びかける。


「玄……よ……」


流星は声を出すのも辛そうに、身を屈めて肩を震わせた。


「ごめん……オレ……もう……」


その身体がぐらりと揺れ、倒れかけた瞬間――

玄曜の身体が即座に動いた。


次の瞬間、流星の身体がふわりと宙に浮く。


「――!」


玄曜は何も言わず、そのまま流星を抱き上げ、舞台を降りた。

周囲の視線も、ざわめきも、もう耳に入らない。


庭園を抜け、離れへ向かう足取りは早かった。


「何が起きた……」


「わかんない……頭が、ふわふわする……」


離れに辿り着くと、玄曜はそのまま二階の流星の部屋へ入り、寝台に荒々しく寝かせる。


「ほら、着いたぞ」


「玄曜……」


流星はもぞもぞと起き上がり、玄曜の手を引いた。


「おい……」


「オレ……今日……すごい頑張った。本当は、すごい怖かったんだぞ。でも……玄曜を一人にしたくないから……頑張った」


流星の目は、とろんと潤み、口調は甘える子どものように蕩けていた。


流星から漂う、その空気。

天鳳瑞奏てんほうずいそうか……余計なことを……)

天鳳瑞奏てんほうずいそうは人を操る力がある、身体も、心も…思いのままだ。


「だから……ご褒美が欲しい」


無自覚に距離を詰めていることにも気づかず、流星は玄曜の手を引き、指を絡める。


「褒美?」


玄曜は少し考えた。


「金か地位か名声なら、好きなだけ与えられるぞ」


「もー……違うよ」


流星は子供のように、頬をぷうっと膨らませる。


「ぎゅってして」


そう言って、両手を広げた。


「……」


「玄曜……お願い……」


吐息のような懇願だった。


玄曜は何も言わず、流星をそっと抱きしめる。


「……頭、撫でて」


まるで子供のような褒美だな――

玄曜は小さく笑った。


「流星」


「ん……」


耳に玄曜の吐息がかかる。

流星は甘えるように、玄曜の首元におでこをすり、と寄せたあと、顔を上げて目を合わせた。


「玄曜の……綺麗」


「雨上がりの空の色……オレだけが……こんなに近くで見れる……」


「玄曜……」


流星は目を細め、玄曜を見つめる。

ゆっくりと、距離が近づき――

互いの吐息が触れそうになった、その瞬間。


――かくん。


「流星?」


流星は、そのまま玄曜の胸に倒れ込んだ。


「……」


くかー。


返事はない。

流星は完全に寝落ちしていた。


「……コイツ!」

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 19時頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。


もし物語を楽しんでいただけましたら、評価で応援いただけると励みになります。

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