表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第三章 「これは恋じゃないと、思っていた」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/43

第七話 「二つの音、ひとつの夜」前編

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

 髪を揺らしていた夜風が、ふっと消える。

空には雲ひとつなく、満天の星の中で、月だけが静かに世界を照らしていた。


あたりは深い静寂に包まれ、誰もが息を潜めるように、舞台を見つめている。


流星は、緊張を通り越していた。

胸の奥は凪いだ水面のように静まり返り、思考は、無に近い。


天鳳瑞奏てんほうずいそうの弦へ、ゆっくりと指を置く。


“――さあ……始めましょう”


天鳳瑞奏てんほうずいそうの囁きと同時に、温かな光が流星の身体を駆け巡った。

視界が一瞬揺らぎ、瞳が金色に輝く。


“我が名は、天鳳瑞奏てんほうずいそう

“すべては、我が主人あるじ、玄曜様の御身のために……”


その声が、オレの頭の内側に直接響く。


そして――


この世のものとは思えない、天上の音色が、琴から解き放たれた。

天鳳瑞奏が鳴るたび、庭園は神域へと塗り替えられていく。

人の息遣いすら、許されない――そんな錯覚を覚えるほどに。


弦が震え、空気が震える。

あまりにも澄みきった音に、流星は息をすることさえ忘れていた。


(……言葉にできない)


指が弦に触れるたび、天鳳瑞奏てんほうずいそうが過ごしてきた、悠久の時間が流れ込んでくる。


その隣で――

天鳳瑞奏の音に寄り添うように、龍吟天響りゅうぎんてんきょうの一音が夜を貫いた。


低く、深く、地の底へと沈む響き。

それはまるで、大地の奥で眠る龍が、月に向かって声を上げたかのようだった。


(玄曜は……操られていない)


(玄曜自身が、龍吟天響りゅうぎんてんきょうを――この音を、奏でているんだ…)

流星は感動で震えそうになるのを必死に抑えた。


天鳳瑞奏が天を描き、

龍吟天響が地を震わせる。


その二つが重なった瞬間、音は「演奏」ではなく、世界そのものへと変わった。

ここは、後宮ではない。

月の下に、ただ一夜だけ開かれた天上の庭だった。


はるか昔…その美しさに、龍の神が涙を流し、魂を宿した工芸品――龍霊雨器。

天鳳瑞奏てんほうずいそうと、龍吟天響りゅうぎんてんきょう

その二つは、まさしく龍の神の魂を宿す、龍霊雨器そのものだった。



人々は皆、静かに涙を流していた。

天鳳瑞奏てんほうずいそう龍吟天響りゅうぎんてんきょうのあまりの神々しさに、気を失う者さえいる。


(……本当にすごい。なんて、美しいんだろう)


“――ふふっ! ありがとぉ〜!”


突然、いつもの調子の声が、頭の中に響いた。


「(天鳳瑞奏てんほうずいそう!?)」


“もぉ〜、本当に今日は最高ぉ〜!玄曜ちゃんを見てよ〜!ますますカッコよくなっちゃって、堪らな〜い!”


その声色は、恋する少女のようでもあり、同時に、我が子を見守る母のような慈愛にも満ちていた。


龍吟天響りゅうぎんてんきょうなんて、テンション最高潮よぉ〜。最初から、全開なんだからぁ!”


「(天鳳瑞奏てんほうずいそうも、テンション最高潮だよ……)」


“も〜、めちゃくちゃ楽しいぃ〜!私、これから演奏会では、星鈴ちゃんとしか弾かない〜!”

 

「(ええー!?)」


“――だからぁ、星鈴ちゃん”


「(……?)」


“これからも、玄曜ちゃんと一緒にいてあげてね”


「(……玄曜と?)」


“玄曜ちゃんね。まだまだ自分のこと、何も話してないでしょうけどぉ……”


“とっても大変な子なの。でもね、星鈴ちゃんなら……絶対に、踏み込める。だから…お願いね”


「(……できるのかな)」


“ん〜?”


「(玄曜が……ただの文官じゃないのは分かる)」


「(後宮にいる理由も、龍霊雨器に関わっていることも……何か事情があるのも…分かる)」


「(オレへの態度が、他の人と違うのも……分かるけど……)」


“ふんふん?”


「(でも……玄曜に、どう踏み込めばいいのか分からない)」


「(オレが踏み込んだら……その先には、何があるんだろう)」


“――んふふ……”


天鳳瑞奏てんほうずいそうが、怪しげに笑う。


“そんなもの……未来を共にする以外に、なにがあるのぉ〜”


意味深な笑い声が、くすくすと響く。


“星鈴ちゃんは、玄曜ちゃんと仲良くなりたいのねぇ?”


「(そうだね…仲良く…なりたいな)」


“いいわよぉ!私が、仲良くなれるように……手伝ってあげるぅ!”


そう言い切った瞬間、再び温かな光が流星の身体を駆け巡った。


すぅ……と、視界が澄み、瞳の色が元に戻る。


「……え?」


意識が完全に身体へ戻ると、目の前には、いつもの後宮の庭園が広がっていた。


――演奏は、終わっていた。


月下聴絃会げっかちょうげんかいは、静かに幕を閉じたのだった。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 19時頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。


もし物語を楽しんでいただけましたら、評価で応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ