第六話 「上げてこっ!月下聴絃会、開幕!」後編
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本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
“星鈴ちゃん、あとでねぇ〜”
“星鈴たん、マジ頑張ろー!”
天鳳瑞奏と龍吟天響に見送られ、オレは楽器保管庫を後にし、倉庫へと戻ってきた。
“ちょっと!その色はありませんわ。こちらの紅の方にしてくださいな”
“いや、こっちよ!”
“こっちの方がお似合いです”
オレの周りでは、
鏡台の龍霊雨器・照妍、
化粧道具の龍霊雨器・彩、
櫛の龍霊雨器・和縁――
倉庫の化粧道具トリオが、今日も賑やかに言い合っている。
良かった……。
倉庫のみんなが協力してくれて、本当に助かる。
着替えも化粧も、全部この倉庫で整えられる。
下手に後宮内で支度して、オレが男だとバレたら――それこそ大騒ぎだ。
“結い方、絶対こっち!”
“誰よりも可愛くしなくちゃね!”
“悩むわ〜!”
みんなノリノリだ。
倉庫中の龍霊雨器達が、オレのおめかしを楽しそうに見守っている。
“ねえっ、星鈴! 髪飾りはどうする? どれを選ぶ?”
振り向くと、目の前の棚には、簪や髪飾りがずらりと並んでいた。
どれも美しく、きらきらと主張するように輝いている。
皆、私! 私! と口を揃えて誘っていた。
……本当、なんでも揃ってるな、倉庫は。
「どうしよう。どれも綺麗なんだけど……」
豪華絢爛もいいし、清楚な感じも捨てがたい。
花飾りも可愛いし――と、迷っていると。
「あっ……」
思わず見惚れて、手に取ったのは、
小さな石が幾つも連なり、揺れるたびに淡く光る髪飾り一式だった。
“きゃー! やったー!!”
選ばれた髪飾りは大喜びする。
“えー!!”
“なんでその子なのー!?”
他の龍霊雨器達は、ぶーぶーと不満げだ。
「これがいいな」
そう言って、オレは素直に理由を口にした。
「玄曜の目の色と、同じだから」
その瞬間――
倉庫が、しん……と静まり返った。
誰も、文句を言わない。
誰も、茶化さない。
……ん?
オレ、今……
なんか変なこと、言ったかな?
*
日が暮れ、後宮中に灯りがともる。
後宮奥の庭園は、厳かな空気の中、静かに光に包まれ――
月下聴絃会が開幕した。
名のある楽士たちが競い合うように奏で、
来賓の少女たちは扇で口元を隠しながら聴き入り、頬を染める。
穏やかな風が吹くたび、
池の水面が揺れ、月の光を溶かしていた。
「うわーっ……緊張してきたー!」
オレは控えの間をそわそわと歩き回る。
御簾で仕切られたこの部屋の中は、外から姿が見えない。
中にいるのは、琴の天鳳瑞奏とオレだけだ。
「玄曜と二胡の龍吟天響も、ここにいると思ってたのに……」
“出番になれば会えるわよぉ〜”
天鳳瑞奏は、にこにことご機嫌だ。
「ねえ、本当に大丈夫? 本当に、座ってるだけでいいの?」
“大丈夫よぉ。始まったら、星鈴ちゃんの身体は私が操るからぁ!”
操れるんだ……。
さすが龍霊雨器。すごい。
“それにしても、星鈴ちゃん可愛すぎぃ〜。倉庫のみんなに頼んで大正解だわぁ”
「天鳳瑞奏、倉庫の龍霊雨器たちと知り合いなの?」
“そうよぉ。私と龍吟天響は普段は楽器保管庫にいるけどぉ、本当は倉庫側の龍霊雨器なのぉ”
「倉庫側……?」
“今はその話はいいのよぉ。それよりも〜”
天鳳瑞奏は、少しだけ真剣な声になった。
“私のわがままを聞いてくれて、ありがとぉ。
星鈴ちゃんとなら、今年の月下聴絃会に出てもいいかなって思えたの”
“今まで、演奏拒否してたからぁ”
「演奏拒否?」
オレは驚いて、天鳳瑞奏のそばに腰を下ろす。
“一昨年のことなんだけどねぇ……”
天鳳瑞奏は、少し懐かしそうに語り始めた。
“月下聴絃会で、玄曜ちゃんが初めて“お披露目”されて、二胡を弾く予定だったの。でもぉ……玄曜ちゃんを陥れたい一派が、本番直前に二胡を隠したのぉ!”
「えっ……! ひどい!」
“玄曜ちゃんはね、顔色ひとつ変えずに言ったの”
『雲が月と一緒に、私の二胡も隠したようです』
『小鳥の囀りでよろしければ、お聞かせいたしましょう』
そう言って、袖から小さな笛子を取り出して演奏したのよぉ!”
天鳳瑞奏は興奮気味に続ける。
“それがもう……! すっっごくかっこよくてぇ!
その場の全員がときめいちゃったのぉ〜!!”
「……へぇ……」
一昨年なら、玄曜は十六歳。
あの顔で、優雅に笛子なんて……そりゃあ。
“でもねぇ、その後、意地悪な官僚のおじさんたちがイチャモンつけてきてぇ!私と龍吟天響、すっごく怒って……演奏中止にしたの!”
ぷんぷんと、天鳳瑞奏が震える。
“その人たちは即クビ、家も潰したんだけどぉ……”
家も……聞かなかったことにしよう。
“私たちね、玄曜ちゃんの晴れ舞台、ず〜〜っと楽しみにしてたのぉ!だから本当に悔しくてぇ!次の年も演奏拒否するぐらいでぇ!”
相当悔しかったのだろう。
天鳳瑞奏は、怒りながら身体を小さく揺らす。
「……そうだったんだ」
“でもねぇ〜!”
ぱっと、声が弾んだ。
“今年は星鈴ちゃんが一緒!
玄曜ちゃんは、もう一人じゃないのぉ!”
やったぁ〜! と花が舞うような喜びようだ。
“今日はリベンジよぉ!
玄曜ちゃんの二胡、ほんっとにかっこいいんだからぁ!”
その様子に、思わず笑ってしまった。
オレは立ち上がり、御簾の隅からそっと外を覗く。
舞台では、張り詰めた空気の中、楽士が演奏している。
周囲には華やかに着飾った少女たち。
その奥には、貴族や上位官僚たちの視線。
……事情はわからないけど。
玄曜は、
こんな緊張と敵意の中に、ずっと一人で立っていたんだ。
「玄曜……」
小さく呟く。
「……仕方ない。一緒に並んでやるよ」
*
庭園の池に設えられた舞台へ向かい、オレはゆっくりと歩き出す。
天鳳瑞奏は先に運ばれ、オレを待っていた。
衣の裾で顔を伏せているから、足元しか見えない。
――でも、わかる。
この場にいる全ての視線が、オレに向いている。
ぎょえぇぇ……!
心臓が爆発しそうだ。
舞台に上がった瞬間、隣に気配を感じた。
……玄曜だ。
オレは来賓に深く頭を下げ、
衣の裾を下ろし、顔を上げる。
その瞬間――
庭園中が、どよめいた。
月夜に照らされる、深い臙脂色の式典衣。
黒を差し色に、金の豪奢で繊細な大輪の花が全身に咲き誇る。
美しく結われた髪には、天青色の宝玉の飾りが散りばめられ、
同じ色の簪が、夜風を受けて淡く光る。
この庭園で――
いや、この後宮中で。
誰よりも美しい少女が、そこにいた。
流星は、そっと隣の玄曜を見る。
対になる深い臙脂色の式典衣に身を包んだ玄曜は――
誰よりも美しく、流星は言葉を失った。
玄曜と、目が合う。
「……待っていた」
一拍置いて、視線を外さずに、低く。
「綺麗だ」
オレにだけ聞こえるように、
玄曜が囁いた。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
龍霊雨器は【火・木・土 19時頃】更新です。
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