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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第三章 「これは恋じゃないと、思っていた」

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第六話 「上げてこっ!月下聴絃会、開幕!」後編

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

“星鈴ちゃん、あとでねぇ〜”

“星鈴たん、マジ頑張ろー!”


天鳳瑞奏てんほうずいそう龍吟天響りゅうぎんてんきょうに見送られ、オレは楽器保管庫を後にし、倉庫へと戻ってきた。



“ちょっと!その色はありませんわ。こちらの紅の方にしてくださいな”

“いや、こっちよ!”

“こっちの方がお似合いです”


オレの周りでは、

鏡台の龍霊雨器りゅうれいうき照妍しょうげん

化粧道具の龍霊雨器・さい

くしの龍霊雨器・和縁わえん――

倉庫の化粧道具トリオが、今日も賑やかに言い合っている。


良かった……。

倉庫のみんなが協力してくれて、本当に助かる。


着替えも化粧も、全部この倉庫で整えられる。

下手に後宮内で支度して、オレが男だとバレたら――それこそ大騒ぎだ。


“結い方、絶対こっち!”

“誰よりも可愛くしなくちゃね!”

“悩むわ〜!”


みんなノリノリだ。

倉庫中の龍霊雨器達が、オレのおめかしを楽しそうに見守っている。

 

“ねえっ、星鈴! 髪飾りはどうする? どれを選ぶ?”


振り向くと、目の前の棚には、簪や髪飾りがずらりと並んでいた。

どれも美しく、きらきらと主張するように輝いている。


皆、私! 私! と口を揃えて誘っていた。


……本当、なんでも揃ってるな、倉庫ここは。


「どうしよう。どれも綺麗なんだけど……」


豪華絢爛もいいし、清楚な感じも捨てがたい。

花飾りも可愛いし――と、迷っていると。


「あっ……」


思わず見惚れて、手に取ったのは、

小さな石が幾つも連なり、揺れるたびに淡く光る髪飾り一式だった。


“きゃー! やったー!!”


選ばれた髪飾りは大喜びする。


“えー!!”

“なんでその子なのー!?”


他の龍霊雨器達は、ぶーぶーと不満げだ。

 

「これがいいな」


そう言って、オレは素直に理由を口にした。


「玄曜の目の色と、同じだから」


その瞬間――

倉庫が、しん……と静まり返った。


誰も、文句を言わない。

誰も、茶化さない。


……ん?


オレ、今……

なんか変なこと、言ったかな?



日が暮れ、後宮中に灯りがともる。

後宮奥の庭園は、厳かな空気の中、静かに光に包まれ――

月下聴絃会げっかちょうげんかいが開幕した。


名のある楽士たちが競い合うように奏で、

来賓の少女たちは扇で口元を隠しながら聴き入り、頬を染める。


穏やかな風が吹くたび、

池の水面が揺れ、月の光を溶かしていた。


 


「うわーっ……緊張してきたー!」


オレは控えの間をそわそわと歩き回る。

御簾みすで仕切られたこの部屋の中は、外から姿が見えない。


中にいるのは、琴の天鳳瑞奏てんほうずいそうとオレだけだ。


「玄曜と二胡の龍吟天響りゅうぎんてんきょうも、ここにいると思ってたのに……」


“出番になれば会えるわよぉ〜”


天鳳瑞奏てんほうずいそうは、にこにことご機嫌だ。


「ねえ、本当に大丈夫? 本当に、座ってるだけでいいの?」


“大丈夫よぉ。始まったら、星鈴ちゃんの身体は私が操るからぁ!”


操れるんだ……。

さすが龍霊雨器。すごい。


“それにしても、星鈴ちゃん可愛すぎぃ〜。倉庫のみんなに頼んで大正解だわぁ”


天鳳瑞奏てんほうずいそう、倉庫の龍霊雨器たちと知り合いなの?」


“そうよぉ。私と龍吟天響りゅうぎんてんきょうは普段は楽器保管庫にいるけどぉ、本当は倉庫側の龍霊雨器なのぉ”


「倉庫側……?」


“今はその話はいいのよぉ。それよりも〜”


天鳳瑞奏てんほうずいそうは、少しだけ真剣な声になった。


“私のわがままを聞いてくれて、ありがとぉ。

星鈴ちゃんとなら、今年の月下聴絃会げっかちょうげんかいに出てもいいかなって思えたの”


“今まで、演奏拒否してたからぁ”


「演奏拒否?」

オレは驚いて、天鳳瑞奏てんほうずいそうのそばに腰を下ろす。


“一昨年のことなんだけどねぇ……”


天鳳瑞奏てんほうずいそうは、少し懐かしそうに語り始めた。


“月下聴絃会で、玄曜ちゃんが初めて“お披露目”されて、二胡を弾く予定だったの。でもぉ……玄曜ちゃんを陥れたい一派が、本番直前に二胡を隠したのぉ!”


「えっ……! ひどい!」


“玄曜ちゃんはね、顔色ひとつ変えずに言ったの”


『雲が月と一緒に、私の二胡も隠したようです』

『小鳥の囀りでよろしければ、お聞かせいたしましょう』


そう言って、袖から小さな笛子を取り出して演奏したのよぉ!”


天鳳瑞奏てんほうずいそうは興奮気味に続ける。


“それがもう……! すっっごくかっこよくてぇ!

その場の全員がときめいちゃったのぉ〜!!”


「……へぇ……」


一昨年なら、玄曜は十六歳。

あの顔で、優雅に笛子なんて……そりゃあ。


“でもねぇ、その後、意地悪な官僚のおじさんたちがイチャモンつけてきてぇ!私と龍吟天響りゅうぎんてんきょう、すっごく怒って……演奏中止にしたの!”


ぷんぷんと、天鳳瑞奏てんほうずいそうが震える。


“その人たちは即クビ、家も潰したんだけどぉ……”


家も……聞かなかったことにしよう。


“私たちね、玄曜ちゃんの晴れ舞台、ず〜〜っと楽しみにしてたのぉ!だから本当に悔しくてぇ!次の年も演奏拒否するぐらいでぇ!”


相当悔しかったのだろう。

天鳳瑞奏てんほうずいそうは、怒りながら身体を小さく揺らす。


「……そうだったんだ」


“でもねぇ〜!”


ぱっと、声が弾んだ。


“今年は星鈴ちゃんが一緒!

玄曜ちゃんは、もう一人じゃないのぉ!”


やったぁ〜! と花が舞うような喜びようだ。


“今日はリベンジよぉ!

玄曜ちゃんの二胡、ほんっとにかっこいいんだからぁ!”


その様子に、思わず笑ってしまった。


 


オレは立ち上がり、御簾みすの隅からそっと外を覗く。


舞台では、張り詰めた空気の中、楽士が演奏している。

周囲には華やかに着飾った少女たち。

その奥には、貴族や上位官僚たちの視線。


……事情はわからないけど。


玄曜は、

こんな緊張と敵意の中に、ずっと一人で立っていたんだ。


「玄曜……」


小さく呟く。


「……仕方ない。一緒に並んでやるよ」

 


庭園の池に設えられた舞台へ向かい、オレはゆっくりと歩き出す。

天鳳瑞奏てんほうずいそうは先に運ばれ、オレを待っていた。


衣の裾で顔を伏せているから、足元しか見えない。


――でも、わかる。

この場にいる全ての視線が、オレに向いている。


ぎょえぇぇ……!

心臓が爆発しそうだ。


舞台に上がった瞬間、隣に気配を感じた。


……玄曜だ。


オレは来賓に深く頭を下げ、

衣の裾を下ろし、顔を上げる。


その瞬間――

庭園中が、どよめいた。


月夜に照らされる、深い臙脂えんじ色の式典衣。

黒を差し色に、金の豪奢で繊細な大輪の花が全身に咲き誇る。


美しく結われた髪には、天青色てんせいしょくの宝玉の飾りが散りばめられ、

同じ色の簪が、夜風を受けて淡く光る。


この庭園で――

いや、この後宮中で。


誰よりも美しい少女が、そこにいた。


流星は、そっと隣の玄曜を見る。


対になる深い臙脂色の式典衣に身を包んだ玄曜は――

誰よりも美しく、流星は言葉を失った。


玄曜と、目が合う。


「……待っていた」

一拍置いて、視線を外さずに、低く。

「綺麗だ」

オレにだけ聞こえるように、

玄曜が囁いた。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 19時頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。


もし物語を楽しんでいただけましたら、評価で応援いただけると励みになります。

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