第五話 「上げてこっ!月下聴絃会、開幕!」前編
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本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
――それは、昨日の夜だった。
最近は目立った龍霊雨器のトラブルもなく、久しぶりに穏やかな夕食の時間を過ごしていた。
たまには、こんな夜もいいなぁ……。
そう思いながら、お茶を啜っていた、その時。
「流星」
玄曜が唐突に口を開いた。
「明日の夜の会で、オマエ、琴を弾け」
「ん!? ぶふっ!!」
盛大にお茶を吹き出す。
「汚ねぇな」
ぶっきらぼうに玄曜が言った。
「なん!? 今、なんて!?」
「だから。明日の夜の会でオマエが琴を弾くんだよ」
「はあっ!? なに!? どういうこと!?」
頭がまったく追いつかない。
「明日、琴に“会わせる”。準備があるから、いつもの仕事は休みだ」
「いや、待って! 説明して!?」
「言っただろ。明日、夜の会でオマエが琴を弾く」
「そんな説明で『わかりました〜★』ってなるか!!
そもそも夜の会って何!? 琴なんて触ったこともないし!!」
「知らねぇよ、そんなの」
玄曜はそれだけ言うと、さっさと二階へ上がり、部屋に戻ってしまった。
「えっ!? 説明終わり!?」
夜の会ってなんなの!?
――そして、よくわからないまま朝になった。
「正式名称は、月下聴絃会。
月見をしながら音楽を嗜む会です」
慎言さんが困ったように説明を始めた。
「建前は優雅な月見と演奏会ですが……実態は、後宮の権力誇示と、乙女達の品定めの場ですね」
「はあ……」聞くだけで嫌な会だ。
「それで……なんで私がそんな会で琴を弾くんですか?
そもそも、弾けないんですけど……」
「弾けなくても大丈夫です。フリだけで結構ですので!」
慌てて慎言さんが言い直す。
「フリでも無理ですって!!
琴なんて、触ったこともないんですよ!?」
「後宮なら弾ける人、たくさんいますよね!?
楽士とか呼べばいいじゃないですか!」
「仕方ねぇだろ」
玄曜が短く言った。
「琴が、オマエじゃないと出ないって言ってんだから」
「……どういう意味?」
「後宮側の演奏は最後に龍霊雨器の琴と二胡で締めるんだよ」
えええー!?それって大トリって事!?
「龍霊雨器の琴と二胡……?
じゃあ、二胡は誰が?」
玄曜が、こちらを見る。
「オレだ」
「え!?」
玄曜が……二胡を!?
「弾けるの……?」
「当然だろ」
何を言っているんだ、みたいな顔で言う。
「だから、オマエも出ろ」
無理――!!!!!!
*
「無理無理!」と、嫌がるオレは、久しぶりに「バラすぞ」と脅され…。
後宮内の楽器保管庫へと引きずられていった。
「慎言、準備はできてるな?」
「はい。もちろん」
慎言が手を向けた先には、見事な装飾が施された琴と二胡が並べられていた。
素材は黒檀だろうか。
深い艶を放つ黒に、金と銀の装飾が繊細に絡み、静かに、しかし圧倒的な存在感を放っている。
「ふわぁ……」
思わず、間の抜けた声が漏れた。
「すごい……!」
誰が見ても分かる。
これは“格”が違う。
長い歴史と貫禄をそのまま形にしたような佇まいで、近づくだけで背筋が伸びる。
「黒檀金銀花鳥風月琴――天鳳瑞奏と、
黒檀雲文螺鈿細工二胡――龍吟天響だ」
玄曜が静かに告げる。
触れなくても分かる。
纏っている空気だけで理解できた。
――間違いなく、ひと段上の龍霊雨器だ。
神々しさすら感じて、さっきまで「無理!嫌!」と騒いでいた自分が、一気に縮こまる。
(こんな立派な琴に指名されて断ったら……
……え、どうなるの?)
冷や汗が、背中を伝った。
「……コイツが星鈴だ」
玄曜がぶっきらぼうに紹介した、その瞬間。
――頭の中に、声が響いた。
“うれしいぃ〜。来てくれてありがとぉ〜♡”
“ま?やばたんに可愛い!!ガチじゃん!!”
……え?
ふわふわで、キャピキャピで、
とにかくめちゃくちゃ可愛い二つの声。
“なんかぁ〜、急にごめんねぇ〜?
私がぁ、ちょっとワガママ?言っちゃったせいでぇ〜”
琴の天鳳瑞奏が、ふわふわと話し出す。
“かわちぃ〜!!!これ星鈴しか勝たんわ!!”
二胡の龍吟天響は、完全にギャル口調だった。
……ん?
んん?
んんん!!!?
「軽くない!?」
思わず突っ込んでしまう。
「我が名は……とか言いそうなビジュアルなのに!!
軽すぎない!?逆に怖いんだけど!!」
“やぁ〜だぁ〜。
そんなおじさんみたいな話し方、可愛くない〜”
“ねぇ星鈴たん!
肌きれいすぎてビビるんだけど!かわちぃ〜!!”
“玄曜ちゃんもありがとねぇ〜。
今日はよろしくぅ〜♡”
……玄曜、ちゃん付けなんだ…。
「……」
一瞬、隣を見たが、玄曜は何事もない顔をしていた。
「天鳳瑞奏。星鈴は弾きたくないって言ってるぞ」
――ちょっと待て。
「気分が上がらないんだと」
おいっ!!
“えぇぇ〜〜!”
“ま?それならさぁ”
““上げてこぉ〜〜!!””
“”いえ〜〜い!!“”
……あ、これダメなやつだ。
こうしてオレは、
断るという選択肢を、きれいさっぱり奪われたのだった。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
龍霊雨器は【火・木・土 19時頃】更新です。
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