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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第三章 「これは恋じゃないと、思っていた」

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第五話 「上げてこっ!月下聴絃会、開幕!」前編

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

――それは、昨日の夜だった。


最近は目立った龍霊雨器のトラブルもなく、久しぶりに穏やかな夕食の時間を過ごしていた。


たまには、こんな夜もいいなぁ……。

そう思いながら、お茶を啜っていた、その時。


「流星」


玄曜が唐突に口を開いた。


「明日の夜の会で、オマエ、琴を弾け」


「ん!? ぶふっ!!」


盛大にお茶を吹き出す。


「汚ねぇな」

ぶっきらぼうに玄曜が言った。


「なん!? 今、なんて!?」


「だから。明日の夜の会でオマエが琴を弾くんだよ」


「はあっ!? なに!? どういうこと!?」


頭がまったく追いつかない。


「明日、琴に“会わせる”。準備があるから、いつもの仕事は休みだ」


「いや、待って! 説明して!?」


「言っただろ。明日、夜の会でオマエが琴を弾く」


「そんな説明で『わかりました〜★』ってなるか!!

 そもそも夜の会って何!? 琴なんて触ったこともないし!!」


「知らねぇよ、そんなの」


玄曜はそれだけ言うと、さっさと二階へ上がり、部屋に戻ってしまった。


「えっ!? 説明終わり!?」


夜の会ってなんなの!?


――そして、よくわからないまま朝になった。


「正式名称は、月下聴絃会げっかちょうげんかい

 月見をしながら音楽を嗜む会です」

慎言さんが困ったように説明を始めた。


「建前は優雅な月見と演奏会ですが……実態は、後宮の権力誇示と、乙女達の品定めの場ですね」


「はあ……」聞くだけで嫌な会だ。


「それで……なんで私がそんな会で琴を弾くんですか?

 そもそも、弾けないんですけど……」


「弾けなくても大丈夫です。フリだけで結構ですので!」


慌てて慎言さんが言い直す。


「フリでも無理ですって!!

 琴なんて、触ったこともないんですよ!?」


「後宮なら弾ける人、たくさんいますよね!?

 楽士とか呼べばいいじゃないですか!」


「仕方ねぇだろ」


玄曜が短く言った。


「琴が、オマエじゃないと出ないって言ってんだから」


「……どういう意味?」


「後宮側の演奏は最後に龍霊雨器の琴と二胡で締めるんだよ」

えええー!?それって大トリって事!?

 

「龍霊雨器の琴と二胡……?

 じゃあ、二胡は誰が?」


玄曜が、こちらを見る。


「オレだ」


「え!?」


玄曜が……二胡を!?


「弾けるの……?」


「当然だろ」


何を言っているんだ、みたいな顔で言う。


「だから、オマエも出ろ」


無理――!!!!!!



「無理無理!」と、嫌がるオレは、久しぶりに「バラすぞ」と脅され…。

後宮内の楽器保管庫へと引きずられていった。


「慎言、準備はできてるな?」


「はい。もちろん」


慎言が手を向けた先には、見事な装飾が施された琴と二胡が並べられていた。


素材は黒檀だろうか。

深い艶を放つ黒に、金と銀の装飾が繊細に絡み、静かに、しかし圧倒的な存在感を放っている。


「ふわぁ……」


思わず、間の抜けた声が漏れた。


「すごい……!」


誰が見ても分かる。

これは“格”が違う。


長い歴史と貫禄をそのまま形にしたような佇まいで、近づくだけで背筋が伸びる。


黒檀金銀花鳥風月琴こくたんきんぎんかちょうふうげつこと――天鳳瑞奏てんほうずいそうと、

黒檀雲文螺鈿細工二胡こくたんうんもんらでんさいくにこ――龍吟天響りゅうぎんてんきょうだ」



玄曜が静かに告げる。


触れなくても分かる。

纏っている空気だけで理解できた。


――間違いなく、ひと段上の龍霊雨器だ。


神々しさすら感じて、さっきまで「無理!嫌!」と騒いでいた自分が、一気に縮こまる。


(こんな立派な琴に指名されて断ったら……

……え、どうなるの?)


冷や汗が、背中を伝った。


「……コイツが星鈴だ」


玄曜がぶっきらぼうに紹介した、その瞬間。


――頭の中に、声が響いた。


“うれしいぃ〜。来てくれてありがとぉ〜♡”


“ま?やばたんに可愛い!!ガチじゃん!!”


……え?


ふわふわで、キャピキャピで、

とにかくめちゃくちゃ可愛い二つの声。


“なんかぁ〜、急にごめんねぇ〜?

私がぁ、ちょっとワガママ?言っちゃったせいでぇ〜”

琴の天鳳瑞奏てんほうずいそうが、ふわふわと話し出す。


“かわちぃ〜!!!これ星鈴しか勝たんわ!!”


二胡の龍吟天響りゅうぎんてんきょうは、完全にギャル口調だった。


……ん?


んん?


んんん!!!?


「軽くない!?」


思わず突っ込んでしまう。


「我が名は……とか言いそうなビジュアルなのに!!

軽すぎない!?逆に怖いんだけど!!」


“やぁ〜だぁ〜。

そんなおじさんみたいな話し方、可愛くない〜”


“ねぇ星鈴たん!

肌きれいすぎてビビるんだけど!かわちぃ〜!!”


“玄曜ちゃんもありがとねぇ〜。

今日はよろしくぅ〜♡”


……玄曜、ちゃん付けなんだ…。


「……」


一瞬、隣を見たが、玄曜は何事もない顔をしていた。


天鳳瑞奏てんほうずいそう。星鈴は弾きたくないって言ってるぞ」


――ちょっと待て。


「気分が上がらないんだと」


おいっ!!


“えぇぇ〜〜!”


“ま?それならさぁ”


““上げてこぉ〜〜!!””


“”いえ〜〜い!!“”


……あ、これダメなやつだ。


こうしてオレは、

断るという選択肢を、きれいさっぱり奪われたのだった。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 19時頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。

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