第四話 「慎言の胃の痛い一日」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
皆様、您好。
周 慎言と申します。
後宮内にて文官の職に就き、玄曜様の補佐官をしております。
――え?
今日は玄曜様と、星鈴さんはいないのか、ですって?
はい。おりません。
本日はこの私、慎言の回にございます。
今日は玄曜様のお仕事はお休み。
久しぶりに離れで、ゆっくり過ごされるとのこと。
ああ……玄曜様のお守りをしなくていい一日……。
なんと平和なのでしょう。
胃の痛みも和らぎ、心軽やかに過ごせそうです。
――はい?
玄曜様には、いつからお仕えしているのか、ですか?
そうですね……。
私は現在二十六歳。
私が十三歳の頃、玄曜様が五歳の時からですので……もう十三年になりますか。
あの傍若無人、わがままオレ様な玄曜様も、
出会ったばかりの頃は、それはそれは可愛らしいお方でありました。
……そう。
七歳の、あの頃までは。
詳しくは申し上げられませんが、
玄曜様は大層、複雑な環境におられる方です。
読者の皆様にはすでに知られておりますが、
次期皇帝候補の末端に位置しているお方でございます。
現在は訳あって文官という立場におられます。
後宮の内情を、今この場で私の口から語ることはできません。
我が主、玄曜様は――
ご自分の話を他者に勝手にされるのが、たいへんお嫌いなのです。
話したら首が飛びます。
私の。
ですので、玄曜様のお話は、
これから先のお楽しみに取っておきましょう。
さて。
玄曜様といえば、最近――
星鈴さんという“お気に入り”ができまして。
ご覧になりましたか?
あの左薬指の金の指輪。
そして、腰から下げられた桃木の佩。
ここだけの話ですが――
あの指輪は玄曜様のお父上から、
桃木の佩はお母上から託された、大切な龍霊雨器なのです。
そう。
玄曜様にとっては、命の次に大切なもの。
……いやはや。
以前贈られた仕事衣だけでも恐ろしいというのに。
あの、他者と関わることを極端に避けてこられた玄曜様が……
これほどまでに独占欲と所有欲を向けられている、
唯一、ただ一人の存在。
それが、星鈴さんなのです。
ここまで扱いが特別だというのに、
星鈴さんご本人が、まったく気づいていないというのが――
また、恐ろしい。
今のところ、玄曜様の中にあるのは
恋でも愛でもなく、
独占欲と所有欲のみ。
お気に入りのおもちゃを、
誰にも渡したくない――
そんな子供のような感情だけのご様子です。
このまま、尽きず離れずの関係が続くのが一番でしょう。
……お二人の仲が深まり、
男女の仲になるなど――
私は恐ろしくてなりません。
揉め事は、もう懲り懲りですから……。
ああ、胃が痛い。
とはいえ――
星鈴さんが後宮に現れてからというもの、
玄曜様の機嫌が、すこぶる良いのも事実なのです。
どうか、星鈴さんには末永く、
玄曜様の精神安定剤でいていただきたいものです。
*
「慎言殿!先日は大変助かりました」
背後から声をかけられ、慎言は振り返る。
そこにいたのは、顔馴染みの武官だった。
「慎言様の腕前。文官には勿体ない!
武官に転職されるおつもりはございませんか?」
先日の饕血の一件以降、
慎言は行く先々で武官に声をかけられるようになっていた。
「いえいえ。私程度の力では、とても武官など……」
慎言は、いつもの柔らかな笑みを浮かべ、やんわりと断る。
――その時だった。
「危ない!!」
上から叫び声が降ってくる。
反射的に顔を上げると、屋根の瓦が崩れ落ち――
その真下には、若い下女がいた。
慎言は迷わず駆け出した。
地を蹴り、跳ぶ。
宙に舞ったその瞬間、落下してきた瓦を正確に捉え――
蹴り弾く。
乾いた音とともに、瓦は砕け散った。
「危ないところでしたね」
地に降り立ち、慎言は下女に手を差し出す。
「お怪我はありませんか?」
爽やかな笑顔。
優しく取られた手。
「は、はい……!」
突然の出来事と胸の高鳴りに、下女は目を輝かせていた。
「それは良かった。では」
慎言は丁寧に一礼すると、そのまま静かに立ち去っていく。
「……素敵な方……」
――周慎言。
玄曜ほどではないが、
彼もまた見目麗しい、爽やかな好青年である。
裏表のない真面目さと、親しみやすい優しさ。
玄曜とは違い、“手の届きそうな存在”として――
後宮の乙女たちの初恋を、
ことごとく奪っている男であった。
*
さて、仕事も一段落。
玄曜様への言付けも預かっています。
そろそろ離れへ向かうとしましょう。
――おや。
一階から、聞き慣れた声が。
「オマエの服の下って、どうなってんだ?
女物の下着なのか?」
「履くわけないだろっ!短パンだよ!」
「見せろ」
「はあっ!?
バカ!ちょっ、どこ触って――!」
嫌な予感しかしない。
慎言が離れの扉を開けた、その瞬間――
玄曜が星鈴を壁沿いに押し付けていた。
両手は玄曜に押さえつけられ
服は膝上まで捲られ、
柔らかそうな素足があらわになっている。
「――――っ!!!玄曜様!!」
慎言は今日一番の声を張り上げた。
「計画的に!!
皇子はだめです!!
火種になります!!!」
「まだ!!
公主ならば!!!」
これだから油断できない!!
ああ……胃が痛い!!
※なお、慎言はまだ、
星鈴が流星――男であることを知らない。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
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