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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第三章 「これは恋じゃないと、思っていた」

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第四話 「慎言の胃の痛い一日」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

皆様、您好こんにちは

慎言しゅうしんげんと申します。

後宮内にて文官の職に就き、玄曜げんよう様の補佐官をしております。


――え?

今日は玄曜様と、星鈴さんはいないのか、ですって?


はい。おりません。

本日はこの私、慎言の回にございます。


今日は玄曜様のお仕事はお休み。

久しぶりに離れで、ゆっくり過ごされるとのこと。


ああ……玄曜様のお守りをしなくていい一日……。

なんと平和なのでしょう。

胃の痛みも和らぎ、心軽やかに過ごせそうです。


――はい?

玄曜様には、いつからお仕えしているのか、ですか?


そうですね……。

私は現在二十六歳。

私が十三歳の頃、玄曜様が五歳の時からですので……もう十三年になりますか。


あの傍若無人、わがままオレ様な玄曜様も、

出会ったばかりの頃は、それはそれは可愛らしいお方でありました。


……そう。

七歳の、あの頃までは。


詳しくは申し上げられませんが、

玄曜様は大層、複雑な環境におられる方です。


読者の皆様にはすでに知られておりますが、

次期皇帝候補の末端に位置しているお方でございます。


現在は訳あって文官という立場におられます。

後宮の内情を、今この場で私の口から語ることはできません。


我が主、玄曜様は――

ご自分の話を他者に勝手にされるのが、たいへんお嫌いなのです。


話したら首が飛びます。

私の。


ですので、玄曜様のお話は、

これから先のお楽しみに取っておきましょう。


さて。

玄曜様といえば、最近――

星鈴さんという“お気に入り”ができまして。


ご覧になりましたか?

あの左薬指の金の指輪。

そして、腰から下げられた桃木のはい


ここだけの話ですが――

あの指輪は玄曜様のお父上から、

桃木のはいはお母上から託された、大切な龍霊雨器りゅうれいうきなのです。


そう。

玄曜様にとっては、命の次に大切なもの。


……いやはや。

以前贈られた仕事衣だけでも恐ろしいというのに。


あの、他者と関わることを極端に避けてこられた玄曜様が……

これほどまでに独占欲と所有欲を向けられている、

唯一、ただ一人の存在。


それが、星鈴さんなのです。


ここまで扱いが特別だというのに、

星鈴さんご本人が、まったく気づいていないというのが――

また、恐ろしい。


今のところ、玄曜様の中にあるのは

恋でも愛でもなく、

独占欲と所有欲のみ。


お気に入りのおもちゃを、

誰にも渡したくない――

そんな子供のような感情だけのご様子です。


このまま、尽きず離れずの関係が続くのが一番でしょう。


……お二人の仲が深まり、

男女の仲になるなど――

私は恐ろしくてなりません。


揉め事は、もう懲り懲りですから……。

ああ、胃が痛い。


とはいえ――

星鈴さんが後宮に現れてからというもの、

玄曜様の機嫌が、すこぶる良いのも事実なのです。


どうか、星鈴さんには末永く、

玄曜様の精神安定剤でいていただきたいものです。



「慎言殿!先日は大変助かりました」


背後から声をかけられ、慎言は振り返る。

そこにいたのは、顔馴染みの武官だった。


「慎言様の腕前。文官には勿体ない!

武官に転職されるおつもりはございませんか?」


先日の饕血とうけつの一件以降、

慎言は行く先々で武官に声をかけられるようになっていた。


「いえいえ。私程度の力では、とても武官など……」


慎言は、いつもの柔らかな笑みを浮かべ、やんわりと断る。


――その時だった。


「危ない!!」


上から叫び声が降ってくる。

反射的に顔を上げると、屋根の瓦が崩れ落ち――


その真下には、若い下女がいた。


慎言は迷わず駆け出した。

地を蹴り、跳ぶ。


宙に舞ったその瞬間、落下してきた瓦を正確に捉え――

蹴り弾く。


乾いた音とともに、瓦は砕け散った。


「危ないところでしたね」


地に降り立ち、慎言は下女に手を差し出す。


「お怪我はありませんか?」


爽やかな笑顔。

優しく取られた手。


「は、はい……!」


突然の出来事と胸の高鳴りに、下女は目を輝かせていた。


「それは良かった。では」


慎言は丁寧に一礼すると、そのまま静かに立ち去っていく。


「……素敵な方……」


――周慎言。


玄曜ほどではないが、

彼もまた見目麗しい、爽やかな好青年である。


裏表のない真面目さと、親しみやすい優しさ。

玄曜とは違い、“手の届きそうな存在”として――


後宮の乙女たちの初恋を、

ことごとく奪っている男であった。



さて、仕事も一段落。

玄曜様への言付けも預かっています。


そろそろ離れへ向かうとしましょう。


――おや。


一階から、聞き慣れた声が。


「オマエの服の下って、どうなってんだ?

女物の下着なのか?」


「履くわけないだろっ!短パンだよ!」


「見せろ」


「はあっ!?

バカ!ちょっ、どこ触って――!」


嫌な予感しかしない。


慎言が離れの扉を開けた、その瞬間――


玄曜が星鈴を壁沿いに押し付けていた。


両手は玄曜に押さえつけられ

服は膝上までまくられ、

柔らかそうな素足があらわになっている。


「――――っ!!!玄曜様!!」


慎言は今日一番の声を張り上げた。


「計画的に!!

皇子はだめです!!

火種になります!!!」


「まだ!!

公主ひめならば!!!」


これだから油断できない!!


ああ……胃が痛い!!


※なお、慎言はまだ、

星鈴が流星――男であることを知らない。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 19時頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。

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