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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第三章 「これは恋じゃないと、思っていた」

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第三話 「後宮散歩日和」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

 よく晴れた日。

日差しはぽかぽかと暖かく、絶好のお散歩日和だった。


「どこがいいのかなー」


後宮内をのんびり歩くオレと玄曜。

玄曜の手のひらには、小さな石の獅子しし像――龍霊雨器りゅうれいうき

風聞獅子ふうぶんじしがちょこんと乗っている。


“お前さんは、どこがいい?”


「私は、お日様がよく当たって、景色がいい所!」


“ほう!それは良いのう。探そう探そう!”


「玄曜様は、どこがいいと思います?」

隣を歩く玄曜に問いかける。


「私は、雨風を凌げて、人があまり来ない落ち着いた場所でしたら、どこでも」


「えー!」


“それは、少し寂しくないか?”


――今日は朝から、風聞獅子ふうぶんじしのお願いを叶えるため、後宮内を散策している。


風聞獅子ふうぶんじしは、長年後宮の小さな門に置かれ、魔除けと守護を担っていた。

しかし龍霊雨器りゅうれいうきとして目覚めてからは、


風の流れ、

人の声、

日の当たり方――


やたらと環境にうるさい性格になってしまったらしい。


何十年かに一度、どうしても配置換えをしたくなるのだとか。


「ここはどうですか?」


“花園はダメだ。香りが強すぎる”


「回廊は?」


“人の気配が多すぎる”


「池のそばは?」


“湿気が嫌”


……こんな調子で、なかなか引っ越し先は決まらない。


それでも、普段あまり歩かない場所を巡るのは思いのほか楽しかった。

玄曜と並んで歩いているせいか、あちこちから視線は感じるけれど――。


(こうして、のんびり二人で歩くの、初めてだな)


暖かい日差し。

取り留めのない会話。


(……なんか、いいな)


「もうお昼ですねー!」


辺りを見渡すと、木陰になった石段が目に入った。


「玄曜様、あそこでお昼にしましょう!」


オレは階段に腰を下ろし、鞄から包みと茶筒を取り出す。


「……それは?」


「お弁当!」


「随分、準備がいいですね」


「だって!歩き回るって聞いたから!

遠足みたいで、お弁当あったら楽しいかなって思って!」


玄曜は文官モードのまま、

子供か、という目線を向けてくる。


“ほほほ。何事も楽しむのは良いことじゃ。

お嬢ちゃんは、良い楽しみ方を知っておる!”


「はい、玄曜様」


オレは包みを開き、葱油餅ツォンヨウビンサンドを差し出した。


「……なんですか、これは」


葱油餅ツォンヨウビンサンド!食べたことないんですか?」


「初めてですね」


――まあ、庶民の味だもんな。

玄曜、育ち良さそうだし。


白家わがやでは、ネギ餅を焼いて、卵と焼豚を挟むのが定番なんですよ」


オレは先に、ぱくっと一口。


んー!美味しい。


玄曜も無言で食べ始めた。


「玄曜、美味しい?」


「……普通」


「おい」


「……まだ、あるのか?」


「ふふ。あるよ」


人の気配がないせいか、自然と声が小さくなる。

内緒話みたいで、なんだか楽しい。


“ははは。仲が良いことで”


爽やかな風を受けながら、

オレ達は食後もしばらく、並んで座ってまったりと過ごしていた。


それから、日が暮れるまで。

オレと玄曜は後宮内をあちこち散策した。


そして結局――

風聞獅子ふうぶんじしが気に入ったのは、


“ここだ、ここだ!やはり、ここだな”


いつもの小さな門。

いつもの場所だった。


「結局、いつもの場所が一番ってことか!」

オレは、思わず笑ってしまった。


「一日、歩かされただけだったな」

玄曜が、ぶっきらぼうに言う。


「いいじゃん!オレは楽しかった!」


外出して戻ってきた役人や下女たちが、

風聞獅子ふうぶんじしに声をかけながら門をくぐっていく。


風聞獅子ふうぶんじしは、何も語らず、ただそこに在り、

人々を静かに迎えていた。


きっと、何百年と続いてきた風景なのだろう。

だからこそ――

どんな場所よりも、このいつもの場所が良いのだ。


「……待っててくれたら、嬉しくない?」


ふと、口をついて出た言葉だった。


「は?」


「帰ってきて、いつもの場所にいてくれたら」


「知らん」


「オレはさ。待つのも、待っててくれるのも――嬉しいけどな」


「……」


玄曜は意味がわからん、という顔をして、

黒衣を翻すと、そのまま離れへとさっさと戻っていった。



翌日。

玄曜の仕事は、朝から立て込んでいた。


普段よりも張り詰め、時間に追われ、

気づけば、日が落ちるまで働いていた。


「……クソ、疲れた」


ようやく帰れる。

そう思いながら離れの扉を開けると――


出来立ての、温かな食事の香りが鼻をくすぐった。


「玄曜!おかえりー!」


厨房には、流星が立っていた。

いつもの場所で、いつもの笑顔で。


「お疲れ様!ご飯、先に食べる?」


何も変わらない声音で、

当たり前のように、迎えてくれる。


――待っててくれたら、嬉しくない?


不意に、あの言葉が胸をよぎった。


……ああ。

そうだな。


「……確かにな」


玄曜は、自分にだけ聞こえる声で、

ぽつりと呟いた。

 

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 19時頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。

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