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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第三章 「これは恋じゃないと、思っていた」

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第一話 「贈り物に込められた所有欲に、オレはまだ気づいていない」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

剣の龍霊雨器、嗜血凶剣・饕血とうけつの騒ぎから、一夜が明けた。


「さて、完成っと!」


オレは朝食の肉包子ロウバオと、黒胡麻あんの包子バオズを食卓に並べた。

湯気と一緒に、香ばしい匂いが広がる。


玄曜げんよう……まだ寝てるかな」


二階に目を向け、小さく呟く。

昨日はあれだけの騒ぎだった。疲れているだろう。


嗜血凶剣・饕血のことを思い出すと、今でも胸の奥がきゅっと締め付けられる。

玄曜は被害は少なかったと言っていたけど……。


玄曜と、龍霊雨器の側にいると、自分で決めた。

それなのに。


「今までと……同じで、いいのかな……」


考えても考えても、思考は同じところをぐるぐる回るばかりで、答えは出なかった。


その時――

二階から、扉が閉まる音がした。


「……玄曜だ」


思ったより早い。もっと寝ているかと思っていたのに。


階段を降りてきた玄曜を見て、思わず息を呑む。


「……えっ」


いつもの寝起きの不機嫌そうな顔じゃない。

衣はきちんと整えられ、髪もいつもより丁寧に結われている。

凛とした、文官としての顔だった。


――珍しい。

今日は何かあるのか?


玄曜はオレと目が合うと、迷いなく近づいてきた。


「おはよう、玄曜」


「左手を出せ」


「……ん?」


「左手だ」


「左手? 右手じゃだめな――」


「左手だっつってんだろ!」


圧が強い。


「は、はい!」


慌てて左手を差し出すと、玄曜は袖の中から小さな箱を取り出した。

蓋が開く。


――中には、指輪が収められていた。


柔らかな光を宿す金の地金。

宝石は嵌め込まれていない。

細身の輪の表面には、指でなぞってようやく分かるほどの、繊細な彫り。


よく見ると、花と蔦の文様だった。

絡み合う蔓に、小さな花が静かに咲いている。


派手さはない。

だが、光を受けた瞬間――

彫りの奥から、息づくように金色の文様が浮かび上がった。


玄曜は何も言わず、オレの左手を取る。

少しかがみ、顔が近づいた。


朝日に照らされ、深い紫色に透ける黒髪。

前髪の隙間から覗く、伏せられた天青色てんせいしょくの瞳。


……綺麗。


何も考えられず、ただ見惚れていた。


気づいた時には、左手の薬指に金の指輪がはめられていた。


指輪がキラリ、と光る。


「わっ、光った!」


「認められたな…――これで、誰にも触れさせない」


玄曜は満足そうに言った。


「こいつは“双燕守環そうえんしゅかん”。守護と、攻撃された際の防御を担う」


「えっ!? 龍霊雨器なの!?」


「そうだ。絶対に外すな」


「名前は?」


燕栖えんせいだ」


燕栖えんせい……よろしくな」


オレは、薬指の指輪をそっとなぞった。


玄曜は一瞬オレを見つめ、それから一呼吸おいて、再び袖に手を入れる。


「……あと、これも渡しておく」


取り出されたのは、木彫りの小さな佩。

玉佩ではなく、桃木で作られている。


掌に収まるほどの大きさで、表面には片羽の蝶が彫られていた。

彫りは深く、線は柔らかい。

長く身につけられてきたのか、木肌は滑らかに磨かれている。


双蝶巡縁佩そうちょうじゅんえんはい阿桃あとうだ」


その声は、いつものぶっきらぼうなものではなく、

静かで、どこか柔らかかった。


阿桃あとう……これも、龍霊雨器?」


「そうだ」


私物みたいだし……かなり大切なものなんじゃ。


「いいの? 大事な物なんじゃない?」


「いい。常に身につけておけ。いいな」


「阿桃にも、何か力があるの?」


「迷子札だ」


「……は?」


「お子様なオマエに、ぴったりだろ」


玄曜は、意地悪そうに笑った。



朝食後、玄曜は迎えに来た慎言と共に仕事へ向かった。


残されたオレは、静かな離れで洗い物を片付けている。


動くたび、腰につけた阿桃あとうが小さく揺れた。


「高価なものなのかな……大事にしないと」


そう呟きながら、オレは蝶の彫刻を指先でなぞる。


ふと視線を落とすと、左手の薬指に嵌められた金の指輪が、朝の光を受けてきらりと輝いた。


「綺麗……」


でも、なんで左手の薬指なんだ?

……何か意味、あったっけ?



慎言は、静かに――いや、内心では激しく驚愕していた。


動揺を悟られぬよう、心の中で何度も唱える。


――静心せいしん此事未合天命このこといまだてんめいにかなわず

(心を静めよ。この事は、まだ天命にあらず。)


昨日の一件もあり、星鈴が後宮を去るかもしれない可能性は想定していた。


だが……星鈴は、玄曜の側に残ることを選んだ。


それ自体は問題ない。想定内だ。

むしろ、星鈴がいることで玄曜の機嫌は明らかに良くなる。大変喜ばしい。


問題は――

玄曜が、星鈴を“選んでしまった”ことだ。


いやぁ……困った困った。胃が痛い。


まさか、指輪だけでなく佩まで渡すとは…。

あの佩は、玄曜が命の次に大切な龍霊雨器…。

 

それをまさか星鈴に。

これまでの関係で十分だったはずなのに。

これから先を思うと……ああ、本当に胃がキリキリする。


「玄曜様」


「なんですか」


振り返りもせず、文官モードで答える玄曜。

すこぶる機嫌がいい。……それが余計に怖い。


「よろしいのですね?」


念を押すように問いかけると、玄曜はゆっくり振り返った。


「もちろん」


嬉しくてたまらない――そんな含みのある笑み。

だが、目はまったく笑っていなかった。


風が吹き、玄曜の漆黒の衣が揺れる。


その衣の下には――

流星に渡したものと、対をなす二つの龍霊雨器が収められている。


玄曜の首元には、同じ金で作られた小さな輪――

燕帰守環えんきしゅかん


細い鎖に通され、喉元に静かに下げられていた。


輪の内外には、流星の指輪と対になる彫刻が施されている。

絡み合う蔓と花。

そして――羽を寄せ合う、二羽の燕。


一羽は巣へ戻り、

もう一羽は外へ飛び立つ。


それは仲睦まじい装飾ではない。

必ず帰るという約束を刻んだ印だった。


燕は、一生同じ番と添い遂げ、巣に必ず戻る。


つまり――

番と定められた相手、流星が

玄曜の「帰る場所」であり、「守る場所」だという意味。


さらに、腰帯には“双蝶巡縁佩そうちょうじゅんえんはい”。

その対となる蝶――“じん”。


どれほど離れても、

番が持つ片割れ――阿桃あとうを探し、必ず迎えに行く存在。


どこにいても。

誰といても。


玄曜だけが分かる。

玄曜だけが、見つけられる。


それは――

玄曜だけが、流星を独占し、所有している証だった。


「誰にも渡さない」


誰に聞かせるでもなく、玄曜は楽しそうに呟く。


「オレだけのものだ」


「いやぁ……重いですねぇ〜〜」


慎言は思わず、引き攣った笑みを浮かべた。

 

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 19時頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。

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