第十一話 「嗜血凶剣・饕血 後編」
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本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
「今日はもう離れから出るな。
風呂にでも入って、部屋で休んでろ」
玄曜はそう言うと、オレを離れまで運び、慎言と共に再び後宮の奥へと戻って行った。
力が抜け、オレはそのまま寝台に倒れ込む。
眠ろうとしても、頭だけが冴えて眠れない。
「……オレ、何も出来なかったな……」
ぽつりと零れた言葉は、
誰に届くこともなく、部屋の中で静かに消えていった。
「……玄曜……」
その名を呼んだ囁きも、同じように闇に溶けていった。
*
「随分と、怖い思いをさせてしまいましたね」
慎言が静かに言った。
「……そうですね」
周囲に人が集まり始め、玄曜の声音は自然と文官モードに切り替わる。
「あまり気を許してはいけないと……申し上げました」
静かだが、慎言は強い口調だった。
「……わかっています」玄曜が呟く。
風が吹き、玄曜の髪飾りがかすかに揺れる。
二人は、被害が最も酷かった場所へと向かった。
あれほどの騒ぎだったが、犠牲者は想定より少ない。
「記録によれば、以前は千人以上……
今回は…二十人程度で済んだと、言うべきでしょうな」
現場を管轄していた武官が、苦しげに語る。
「腕の立つ武官も、龍霊雨器の前では赤子同然……
龍霊雨器とは……恐ろしい存在です」
玄曜は倒れた武官たちに、そっと祈りを捧げた。
事件が終息し、玄曜は離れへと戻る。
――もう、寝ているだろう。
そう思った、その時。
「……灯り?」
一階に灯る明かりに、玄曜は足を止めた。
「おかえり!」
扉を開けると、流星が顔を出す。
すでに食事の準備は整っており、一階は温かな香りに満ちていた。
「……何してる」
「何って、ご飯作ってたんだけど?」
流星は当然のように言い、
「食べるだろ?」と玄曜を食卓へ引っ張る。
卓の上には、玄曜の好物ばかりが並んでいた。
海老の蒸し餃子、餡かけ海老炒飯、
鶏と生姜のスープ、南瓜餡饅頭。
「……いただきます」
二人で向かい合い、箸を取る。
「……あんなことの後で……
よく飯なんて作って、食えるな」
思わず、玄曜は口にしてしまった。
流星は箸を止め、じっと玄曜を見つめる。
「……なんだよ」
「オレさ、考えたんだけど」
流星は真剣な表情で話し始めた。
「やっぱ、後宮はオレに合わない。
女装も……リスクが高すぎる」
玄曜の喉奥が、きゅっと締め付けられる。
「でも!」
箸が、椀にカチャンと音を立てた。
「オレは、しばらくここにいる!」
「……は?」
「しばらくいて、オレに出来ることをする。
だから、ご飯作った!以上!」
意味がわからない。
玄曜は呆気にとられる。
「……怖いなら、出て行けばいい」
ぶっきらぼうに。
「この後宮で、龍霊雨器に、オレに関わるなら……
これからも、危ない目にあう」
無愛想に。
「もっと酷い目にもな」
「だからだよ」
流星は海老の蒸し餃子を頬張りながら言う。
「今日ので思い知った。オレ、全然戦えない。
後宮に来てから、玄曜に守ってもらってばっかりだ」
「それなら――」
「オレが、ちゃんと覚悟してなかった」
流星は箸を置き、まっすぐ玄曜を見る。
「覚悟したから……いてもいい?」
「は?」
「玄曜と一緒に、龍霊雨器たちのそばにいてもいい?」
「……出ていかないのか」
「出ていかない」
「……なんでだ」
オレはほんの少し考え――
「玄曜の管轄だから」
オレはわざとらしく得意げに、ニヤリと笑う。
「オマエ……」
玄曜は思わず笑った。
少し無邪気で、子供みたいな表情で。
「……わかってんじゃねーか」
ニヤリと口角を上げる。
その瞬間、
玄曜の中に、今まで感じたことのない感情が渦を巻いた。
――ダメだ。
欲が、抑えられない。
誰にも渡したくない。
閉じ込めておきたい。
オレだけのものにしたい。
コイツは…この流れ星は――
捕まえたら、絶対に、逃さない。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
龍霊雨器は【火・木・土 19時頃】更新です。
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