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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第二章 「脅迫同居の次は、強制バディですか?」

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第十話 「嗜血凶剣・饕血 前編」

それは――

後宮に、悲鳴が上がったことから始まった。


饕血とうけつです!!!」


後宮内で龍霊雨器と話していたオレ達の前に、

血相を変えた武官が駆け込んできた。


「なんだと!?」


玄曜げんようの表情が、一瞬で殺気を帯びる。


「保管庫から出ました!!

後宮中の武官で応戦しています!!」


武官の顔は、恐怖で真っ白だった。


「玄曜殿を……お呼びするようにと……!!」


「ちっ!」


玄曜は完全に文官モードを捨て、荒々しく舌打ちする。


「慎言!!」

「かしこまりました」


控えていた慎言は即座に踵を返し、倉庫の方へと走っていった。


「なるべく人が少ない場所へ誘導できるか?」

玄曜が武官に問いかける。


「は、はい……!」


武官は表情を歪めたまま、その場を走り去った。


――なに……?


今まで感じたことのない、

玄曜の張り詰めた気配に、オレは思わず息を呑む。


「……剣の龍霊雨器だ」


玄曜が低く言った。


嗜血凶剣しけつきょうけん――血喰いの饕血とうけつ


……名前からして、ヤバすぎるだろ……!!


「なんで、そんなのが……!?」

「馬鹿が惑わされて封印を解いたんだろう」


玄曜は静かに呟く。


「ど、どうするの!?」

「止める」


「ええっ!?」


玄曜は集まってきた武官達に、矢継ぎ早に指示を出している。


――待って。

止めるって……まさか、玄曜が……!?


「オレは!?

オレにできることはないの!?」


「オマエは来るな!!」


玄曜が即座に言い放つ。


「後宮の奥か、離れにいろ。そこなら安全だ」


「ええっ!?」


だが、玄曜はもうこちらを見なかった。


武官達と共に、悲鳴が上がる方角へと駆け出していく。


――ど、どうすればいいんだ……!?


「ここから近いのは……離れだ……!」


とにかく、玄曜の言う通りにしよう。

オレは必死に離れへ向かって走り出した。


「剣の龍霊雨器が暴れてるってことだよな……」


胸の奥に、嫌な予感が渦巻く。


玄曜……大丈夫なのか……!?


後宮は、悲鳴と怒号で完全に混乱していた。


息を切らしながら走り抜け、

後宮の一角を曲がった、その先で――


「……ひ……っ……!!」


人が、倒れていた。


切り伏せられた身体。

床一面に広がる、血の海。


「あ……な……なに……これ……」


視線を上げる。


その先に――

剣を持った、一人の武官が佇んでいた。


虚ろな目。

全身を返り血で赤く染めながら――

その視線だけが、真っ直ぐ、オレを捉えている。


「――――っ!!」


全身が、恐怖で凍りつく。


あれだ。

間違いない。


龍霊雨器――

嗜血凶剣しけつきょうけん・血喰いの饕血とうけつ


饕血とうけつが持つ、狂おしいほどの血への執念。

人を斬る快楽の記憶が、

洪水のようにオレの中へ流れ込んでくる。


――怖い。


息が、できない。


足がすくみ、膝から崩れ落ちる。

身体が震える。


……動けない。


その時――

オレの目の前に、漆黒の衣が現れ、

視界が一瞬で遮られる。


「……玄曜……!!?」


そう理解した瞬間、

オレの全身を、熱いものが駆け抜けた。


まるで、生まれて初めて呼吸をするみたいに。

止まっていた空気が、一気に肺へ流れ込む。


――玄曜だ。


饕血が剣を構え、こちらへ向かってくる。


「玄曜!!」


玄曜は、オレを庇うように一歩前に出ると――


「――来い。曜守ようしゅ


腰に差した一振りの剣を、一気に引き抜いた。


剣は陽光を受け、鮮やかに煌めきながら鞘を離れる。


“久方ぶりでございます。我が主人あるじ


美しい曲線を描きながら、

玄曜の剣は饕血を真正面から迎え撃った。


――玄曜の、あの剣……龍霊雨器……!?


玄曜と饕血は激しく打ち合いながらも、

一歩も引かない。


すごい……!!

互角に……戦ってる……!!


玄曜が剣を弾き返す。

饕血を操る武官の体勢が、ぐらりと崩れた。


「慎言」


「はっ!」


その一瞬の隙を逃さず、

玄曜の横から慎言が疾風のように駆け抜ける。


「――起きろ、とどめ


声と同時に、

いつ抜かれたのかわからないほどの速さで剣が閃き――

嗜血凶剣・饕血は、地面に叩き落とされていた。


オレは、その光景を――

ただ呆然と、見つめていた。



“守られる側だった主人あるじが、

ついに守る方を決められましたか”


曜守と呼ばれた剣が、朗らかに語りかける。


「黙ってろ」

玄曜はぶっきらぼうに返した。


“いやはや。「とどめ」共々、

久方ぶりの出番でございましたゆえ”


“まったくです。本当にお久しぶりでございます。

「曜守」も、お変わりなく”


慎言の手に収まる剣…「止」が、穏やかに応じる。


「……おい」


玄曜が、ゆっくりと近づいてきた。


「無事か?」


「…………」


恐怖で、声が出ない。


「星鈴さん。お怪我はありませんか?」


慎言が膝をつき、視線を合わせてくれる。


「あ……あの……」


声が震え、うまく言葉にならない。


「慎言。曜守を運べ」

「かしこまりました」


玄曜はオレを抱き上げ、そのまま歩き出した。


「玄……」

「黙ってろ」


目を向けた敷地内には、至る所に倒れた人々。


「……ひ……」

「見るな」


玄曜に言われ、

オレはぎゅっと目を閉じた。


怖かった。

本当に、死を覚悟した。


――玄曜が来なければ、オレは今、あの血の海に倒れていた。


玄曜は……

少しも、震えていなかった。


「……玄曜……」

「なんだ」

「玄曜は……大丈夫なの……?」


「慣れてる」


――慣れてる。


こんな、恐ろしいことに……?


龍霊雨器と関わっているから……?

それとも、この後宮だから……?


オレはますますぎゅっと目を閉じて、

玄曜の胸に、そっと身体を寄せた。

 

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