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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第二章 「脅迫同居の次は、強制バディですか?」

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第九話 「結構、身体鍛えてるんだな」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

玄曜げんよう様!! そっちに行きました!」


陽の照らされた後宮の庭園。

オレと玄曜は、そこを全力で走り回っていた。


「星鈴さん! 今、そちらに回りましたよ!」

「やっと見つけたー!!」


庭園のあちこちから、オレと玄曜、そして手伝いに駆り出された

下女たちの声が響き渡る。


……一体、何をしているのかというと——。


——二日前。


「「猫?」」


オレと玄曜は、同時に声を上げた。


「猫です」


遊玉猫ゆうぎょくびょうーっ!!

それ、返しなさい!」


後宮の一角に、下女たちの悲鳴混じりの声が響く。


「非常にイタズラ好きで、人をからかって遊ぶのが

 大好きな龍霊雨器なのです。

 普段は籠に入れて管理しているのですが……」


どうやら白玉で作られた猫の置物——

それが意思を持つ龍霊雨器で、問題を起こしているらしい。


「この部屋の主、女官の瑞姑ずいこ様の

 持ち物なのですが……。部屋の配置換えの際に、

 うっかり落としてしまいまして……」


「それで逃げ出した、というわけですね」


玄曜が静かに言う。


「はい。遊玉猫ゆうぎょくびょうは、これまでも何度か

 脱走しています。普段は一週間ほど好き勝手に遊んだら、

 ひょっこり戻ってくるのですが……」


「それなら、今回も待っていればいいのでは?」


オレが首を傾げると、下女は切羽詰まった顔で首を振った。


「三日後に、お客様がいらっしゃるのです。

 遊玉猫ゆうぎょくびょうは、簪や髪飾りを奪ったり、

 食事を食い逃げしたりするのが好きで……!

 お客様にだけは、絶対にご迷惑をかけられません!」


——なるほど。

主の面子を守るため、下で働く人たちが必死になるわけだ。


困り果てた様子の下女を見て、オレは思わず同情してしまう。


「大丈夫です!

私、実家でもノラ猫とよく遊んでましたから!」


お任せください!

そう言い切ったのだが——。



それから二日。


つまり、今日。


遊玉猫ゆうぎょくびょうは、未だに捕まっていない。


「この庭園の中にしかいないはずなのに……!!」


思わず、ムキになって声を上げる。


自分で動ける龍霊雨器は、行動範囲がそれほど広くないらしい。

遊玉猫ゆうぎょくびょうも、庭園を自分のテリトリーに

しているようで、楽しそうに走り回っては姿を消す。


——なのに、捕まらない。


そして今。


「玄曜様!! また逃げました!!」


「……まったく、手のかかる問題児だな」


玄曜が低く呟き、オレは再び走り出した。


好き放題遊び回ってきたが……そろそろ捕まえないと本当にまずい。

時間がない。


今日こそは——。


オレは、とっておきの切り札を用意してきた。


茹でたササミ。

しかも、茹でたてだ!!


遊玉猫ゆうぎょくびょう! おいで!」


庭園の池のそばで、オレは待ち構える。


ここ数日、オレや玄曜、そして大勢の下女たちに相手をしてもらい、

すっかりご機嫌な遊玉猫ゆうぎょくびょう


ふわりと漂うササミの香りに反応し——


次の瞬間。


ものすごい勢いで、飛んできた。


「うわっ!!」


ドンッ、と衝撃とともにオレの腕に飛び込んでくる。

逃がさないよう、反射的にしっかり抱きしめたが——


勢いが強すぎた。


「……っ!」


足が滑る。


背後にあるのは——池。


落ちる……!!


そう思った瞬間。


「ちっ!」


玄曜が舌打ちし、オレの肩をぐっと引き寄せた。

庇うように体勢を入れ替え——


次の瞬間。


バッシャーン!!


盛大な水音とともに、玄曜が池へと落ちた。


「きゃあっ!」

「玄曜様!!」


庭園中に、下女たちの悲鳴が響く。


春先とはいえ、池の水は相当冷たいはずだ。


「玄曜……様!!」


オレは遊玉猫ゆうぎょくびょうを抱きしめたまま池の縁へ

駆け寄り、慌てて声を落とす。


「ごめん玄曜! 大丈夫か!?」


「……はぁ。大したことない」


幸い、池はそれほど深くなかった。

玄曜は水を切るように立ち上がり、そのまま自力で岸へ上がってくる。


全身ずぶ濡れの身体から、水滴がぽたぽたと滴り落ちる。

陽の光を受けて、水滴がきらきらと輝いた。


——そして。


水を含んだ衣が身体に張り付き、

いつもは隠れている文官衣の下、玄曜の引き締まった

輪郭があらわになる。


「……ぎょええ……!」


すっっげえ色気増しイケメン…!!

えっ!?増しすぎじゃない!?

しかも結構引き締まってるし…!

男のオレも思わず、見惚れてしまうほどだった。


庭園中の女子たちも同じだった。

誰もが息を呑み、“水も滴るいい男”と化した玄曜に

視線を釘付けにしている。


しん……と静まり返る庭園。

あちこちで「ゴクリ……」と唾を飲む気配だけが漂った。


そんな視線など一切気にせず。


玄曜は無造作に前髪をかき上げる。


——その瞬間。


「ぎゃああっ……!」


別種の悲鳴が、庭園中に響き渡った。



かくして——。


「もう、迷惑かけちゃダメだぞ」


元の置物の姿に戻った遊玉猫ゆうぎょくびょうを撫でながら、オレは言う。


《ニャア……》


満足げな声が、直接頭に響いてきた。


遊玉猫ゆうぎょくびょうが下女たちから奪っていた簪や髪飾りは、

屋敷の軒下にきちんと隠されていた。


そして。


瑞姑ずいこ様のお客様も、何事もなく迎え入れられ——

後宮は、いつも通りの平穏を取り戻したのだった。



「……はっくしゅん!! ……っ、あークソ……最悪だ……」


「あーあ……すっかり風邪ひいて……」


離れにある玄曜の部屋。

寝台の上には、布団にくるまり、見るからに

不機嫌そうな玄曜が寝込んでいた。


「……熱、少しあるな」


オレはそっと手を伸ばし、玄曜の額に触れる。

やっぱり。あれだけ冷たい池に落ちたんだから、無理もない。


「玄曜。大丈夫か?」


「……大丈夫なわけねーだろ」


ぶっきらぼうに吐き捨てるように言う玄曜。


オレが作ったお粥を、もそもそと口に運んでいる。

——いや、正確には、オレが食べさせているんだけど。


体調が悪いせいもあるんだろうけど……なんだか、やけに不機嫌だ。


やっぱり……怒ってるのかな。

池に落ちたこと。


「……ごめんな、玄曜」


「あ?」


「オレを……庇ってくれたんだろ?」


一瞬、空気が止まった。


「……知らん」


「……え?」


「なんでオマエを庇ったのか……知らねぇよ」


視線を逸らし、ぶっきらぼうに吐き捨てる。


「玄……」


「寝る」


それだけ言うと、玄曜は背を向けて布団をかぶってしまった。


……なんだか。

余計に不機嫌にさせちゃった気がする。



——夜中。


念のため、熱の様子を見に来たオレは、そっと玄曜の部屋を覗いた。


寝台の上で、汗をかきながら眠る玄曜。

呼吸は少し荒く、眉がわずかに寄っている。


「……」


オレは音を立てないよう近づき、

はんかちで、そっと額と頬の汗を拭った。


「……オマエか……」


かすれた声。

玄曜が、うっすらと目を開けていた。


「水、飲むか?」


「……いい……」


一瞬の沈黙。


「……何もいらないから……ここに、居てくれ」


それは、命令でも、いつもの強気な言い方でもなくて。

——懇願するみたいな声だった。


「……わかった」


気づいたら、オレは玄曜の頭を撫でていた。


さらり、と指に絡む少し癖のある黒髪。


玄曜は一瞬、ピクリと反応したが、

何も言わず、そのまま静かに目を閉じる。


……眠ったみたいだ。


しばらく、オレはそのまま、玄曜の頭を撫で続けていた。


(……くせっ毛)


(寝顔、ちょっと子供っぽいな)


こんなふうに、弱さを見せる玄曜を見るのは——初めてだ。


「……こんなふうに、玄曜に触れられるの……」


ふと、思う。


「……オレだけ、なのかな……」


そうだとしたら。


——なんだか。


すごく、嬉しい。


そう思ったら…何故か胸の奥が、じんわりと熱くなった。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 19時頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。

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