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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第二章 「脅迫同居の次は、強制バディですか?」

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第七話 「オレが玄曜で、玄曜がオレで!? 前編」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

その日、オレと玄曜げんようは、後宮内に保管されていた

龍霊雨器りゅうれいうきだと言われている鏡」の掃除をしていた。


今まで、どんなに磨いても汚れが落ちず、

曇ったままだった――そう聞かされていた鏡。


それが。


「……あれ?」


布で一拭きしただけで、

鏡の表面がするりと澄んだ。


「綺麗になったなー!」

オレは思わず声を上げる。

「いい鏡なのに、なんでこんなに汚れてたんだろ?」


「さあな」

玄曜は、いつも通りぶっきらぼうに返す。


磨き上げられた鏡を、

オレと玄曜は並んで、同時に覗き込んだ。


鏡の中には――

ニコッと笑うオレと、愛想のない不機嫌顔の玄曜。


「……ふふ。オレ達、本当に正反対だな」


「……ふん」


なんでもない、いつものやり取り。

ただそれだけの、何気ない時間。


それが――

まさか、あんなことになるなんて。



「……どうなってるの、これ」


「最悪だな……」


翌朝。


目を覚ましたオレ達は、

そろって絶望の声を上げていた。


「……入れ替わってる……」


そう。


流星オレが、玄曜で。

玄曜オレが、流星になっていた。


「なんでこんな事にー!?」


「昨日の鏡だろ。龍霊雨器の仕業だな」


「どうしよう!?これ、いつ元に戻るの!?」


「おい。玄曜オレの格好で、オロオロするんじゃねーよ」


「玄曜だって!流星オレの格好で、

 不機嫌そうにするなよっ!」


言い合いになった、その時。


――トントン。


控えめなノックの音がした。


「おはようございます。お二人とも」


扉を開けて入ってきたのは、慎言しんげんだった。


オロオロしている玄曜(中身:星鈴)と、

態度の悪い星鈴(中身:玄曜)。


慎言は二人を一瞬見比べ、

小さく頷いた。


「……なるほど」


え。


「龍霊雨器のトラブルで、お二人が入れ替わっている、と」


いや、何も説明してないんですけど!?


「では本日、玄曜様は

 “喉を痛めて話すことができない”ということにいたしましょう」


慎言は淡々と続ける。


「業務中の発言は、私がすべて代弁いたします」


ちょっと待って!?

理解早すぎじゃない!?

有能すぎない!??


「……星鈴さんに入れ替わっている玄曜様は、

 本日はどうなさいますか?」


慎言は、取り立てて慌てることもなく、穏やかに尋ねる。


「……適当に過ごす」


即答する星鈴(玄曜)。


「かしこまりました。

 では、我々は仕事に参りましょう」


慎言はそう言って、

玄曜の姿をしたオレに目配せをし、部屋を出ていく。


「だ……大丈夫ですか!?

 文官の仕事とか……玄曜のフリなんて……!」


オレは、慌てて小声で聞いた。


「ご心配なく。文官モードの玄曜様でしたら、

 普段の星鈴さんで誤魔化せます」


「……そう、ですか……?」


そう言われても、冷や汗が止まらない。


「先ほども申し上げた通り、“喉を痛めて話せない”設定です。

 涼しい顔で、堂々と歩いてください」


慎言の口調は柔らかい。

けれど、その空気はどこか張り詰めていた。


「……決して、口を開いてはいけません。

 これから向かう後宮内では――特に」


そう静かに囁かれ、

玄曜の姿をしたオレは、

余計に冷や汗をかくのだった。



特にやることもなく、星鈴の身体に入った

玄曜オレは、後宮内をぶらぶらと歩いていた。


――さっきから、やたら挨拶されるな。


どうやら星鈴コイツ

下位の下女とはほとんど顔馴染みらしい。

後宮に来て間もないはずなのに、どんなコミュ力してやがる。


「星鈴!」


不意に、後ろから声をかけられた。


……星鈴?

ああ、今はその名前だったな。めんどくせぇ。


「ねぇ、星鈴ってば!」


無視するのも面倒で、振り返る。


「なんだ」


「今日は玄曜様はいらっしゃらないの?」


「いない。仕事だ」


適当に返すと、下女は残念そうに肩を落とした。


「そっかぁ。お姿が見られると思ったのに」

「星鈴はいいなぁ。玄曜様と一緒にお仕事できて」

「この前、久しぶりにお顔を拝見したの!やっぱり素敵だった〜!」


気づけば、周囲に下女が何人も集まっている。

話題は、ことごとく玄曜オレのことばかりだ。


……コイツら、仕事中じゃねぇのか。


「ねぇ星鈴!」

「玄曜様って、本当にお優しいよね!」

「一緒にいて、ドキドキしないの!?」


「しない」


即答する。

肯定したら、余計に面倒なことになる。


「もー!星鈴はいつもそう言うんだから!」


……いつも?そう言っている?だと?


「でもさ、星鈴には好きな人いるもんねー!」


別の下女が、楽しそうに割り込んできた。


「……は?」


思わず、足が止まる。


「気になってる人がいるって言ってたじゃない」

「仲良くなれたらいいな、って!」


――なんだ、その話は。


「ねぇねぇ、誰なの!?教えてよー!」


「……知らん」


吐き捨てるように言って、玄曜オレは歩き出した。


胸の奥が、妙にざわつく。

理由もわからず、苛立ちだけが募っていく。


あの流星バカに、気になる相手?

仲良くなれたらいい、だと?


後宮の人間か?

そんな話、一度も聞いたことはない。


イライラを抱えたまま歩いていると――

視界の端で、不快な光景が目に入った。


文官が一人、下女にしつこく話しかけ、

不自然に身体に触れている。


下女は嫌がっているが、立場上、強く拒めないようだった。


「……ちっ」


思わず舌打ちが漏れる。


「なんだ、あのクソ野郎は」


苛立ちは、一気に臨界点を越えた。


「これはこれは、星鈴殿」


文官がこちらに気づき、

いやらしい笑みを浮かべて近づいてくる。


「玄曜様はご一緒では?」


わざとらしく言いながら、

星鈴オレの肩に手を置き、撫で回す。


「噂は聞いておりますよ。玄曜様に随分とお気に召されているとか」

「私にも、取り入り方を教えていただけませんか?」


腰に、さりげなく腕が回された。


――その瞬間。


星鈴のこめかみに、青筋が浮かぶ。


「おい。貴様」


低く、押し殺した声。


「オレの管轄ものに、気安く触るんじゃねぇ」


次の瞬間。

星鈴オレは文官の足を引っかけ、地面に叩き伏せた。


「ぐあっ!」


「下位文官だな」


冷たい声で見下ろす。


「玄曜の管轄ものに手を出して……この後宮で、無事でいられると思うなよ」


言い終わる前に、

股間へ容赦なく蹴りを叩き込んだ。


文官の悲鳴が、後宮に響く。


周囲で固まっていた下女たちは、

恐怖と――そして、どこか熱を帯びた眼差しで、

星鈴(玄曜)を見つめていた。


「あのバカ……ちゃんとやってんだろうな……」


玄曜は、吐き捨てるように呟いた。


慎言がついている。

だから、問題はないはずだ。


――それなのに。


胸の奥に渦巻く、この苛立ちは何だ。

こんなにも落ち着かないのは、

流星アイツと入れ替わっているせいに違いない。


そうでなければ、説明がつかない。


「……早く戻らねぇと」


あの鏡の力は、そう強くはないはずだ。

おそらく、もう一度鏡に映る必要がある。


「それなら…夕方には元に戻れる」


そう自分に言い聞かせながら、

玄曜は足元に転がる、気絶したままの文官の横腹を軽く蹴った。


鈍い音がして、

胸に溜まっていた苛立ちが、ほんの少しだけ紛れた。

※作者より

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

後宮での生活は、まだまだ続きます。

引き続き、気軽にお付き合いいただけたら嬉しいです。

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