第二話 「工芸品倉庫に配属されたら、文官が胡散臭かった」
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本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
現れた青年に近づき、向かい合って立つ。
後宮文官…しかも上位文官の証である黒色の衣が、よく似合っていた。
「いえ。この倉庫は私の管轄なので。新しい下女の方を見に来ただけです」
青年は爽やかな笑顔で答えた。
……管轄?
確か、名前は――。
「玄曜といいます。君は……星鈴さん、でしたね」
そう言って、下女であるオレにも丁寧に頭を下げる。
「よろしくお願いします」
目が合うと、玄曜は穏やかに微笑んだ。
柔らかな物腰、落ち着いた口調。整った顔立ち。
なるほど。
これが後宮人気ランキング一位か。
男のオレでも、思わず見惚れてしまう。
「はい。白星鈴と申します。本日からこちらで働かせていただくことになりました。よろしくお願いします」
オレも頭を下げる。
――この男の前では、絶対に男だとバレてはいけない。
大丈夫。表情は崩れていない。
笑顔。笑顔……。
少しだけ首を傾け、自然な笑みを作る。
今の顔、絶対可愛い。間違いない。
玄曜は、オレの髪の先から爪の先まで、じっと視線を走らせた。
その目は、まるで品定めするかのようで。
じわり、と背中に嫌な汗が流れる。
「あの……何か?」
居たたまれず、声をかける。
「随分と、力仕事に慣れているようですね」
ドクン、と心臓が跳ねた。
「た、体力には自信がありますので……」
「工芸品の扱いにも慣れている」
「実家が商家で、工芸品を扱っておりました」
まぁ、今は廃業しちゃったけど。
「ほう……それは有能だ」
玄曜は機嫌よく笑う。
「ありがとうございます」
……危ない、危ない。
笑顔。笑顔。
オレもつられて、にこりと笑った。
その瞬間――
バタン!!
倉庫の扉が、勢いよく閉まった。
「!?」
誰もいないはずなのに。
次の瞬間、倉庫内の空気が重くなり、不気味な笑い声が響き渡る。
――クスクス。
――ふふ……ふふふ。
「なんだ……?」
棚に収められた工芸品の箱が、カタカタと揺れ始める。
焦るオレを横目に、玄曜は落ち着いた様子で倉庫を見渡していた。
自然現象? 幽霊? 妖??
……いや、違う。
この感じ――もしかして。
オレはそっと目を閉じ、意識を澄ます。
そのまま倉庫の奥へ進み、
棚の上に置かれた箱を開けた。
中には、美しい壺が収められている。
オレは指先でそっと触れ、静かに囁いた。
「……お前だろ。イタズラしてるのは」
その瞬間、倉庫内の笑い声がぴたりと止み、
工芸品の揺れも一瞬で収まった。
オレは、ほっと息を吐く。
「……何をしたんですか?」
「!!?」
ぎょえ!!
しまった!! こいつがいたんだった!!
「い、いえ! 私にも何がなんだか……!」
慌てて平静を装う。
――この男にだけは、この力を知られてはいけない気がする。
「この倉庫は……他とは違う」
玄曜が、静かに言った。
「後宮にある工芸品の中でも、とびきりの“問題児”を集めた場所です」
「問題……児?」
「先ほどのような騒ぎを起こし、新入りを驚かせて、泣かせるたり。イタズラ好きな連中です」
「一体、何の話ですか……?」
ここにいてはいけない。
オレの全神経が、そう警告している。
「さっきの、怖かったですね! 何だったんでしょう!
わ、私、午前の仕事がまだ残っておりますので――!」
早口でまくし立て、足早に玄曜の横をすり抜ける。
――その瞬間。
後ろから腕を掴まれ、体が大きく回転した。
勢いのまま――
「少し……いいですか? 星鈴さん」
壁と玄曜の間に、逃げ場はなかった。
白輝星、人生初の――
壁ドンである。
読んでいただきありがとうございます。
本作は、後宮×中華風ファンタジー×BLのドタバタコメディです。
まずは第一章、流星の同居生活が始まるところまでお付き合いいただけたら嬉しいです。




