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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第二章 「脅迫同居の次は、強制バディですか?」

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第三話 「前途多難な日々の始まり」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

玄曜げんようがいなくなると、倉庫中の視線が、一斉にオレへと集まった。


あちこちから囁き合う気配。

くすくす……と、含み笑いだけが響く。


(ど……どうすればいいんだ……)


緊張で、何を言えばいいのか頭が真っ白になる。

ヤバい……手汗、かいてきた……。


――その時。


“さあさあ。騒ぐのは、これくらいにしておこうか”


澄んだ、よく通る声が響いた。


ぴたり、と倉庫が静まり返る。


声の主を探して視線を巡らせると、倉庫の奥――

そこに、見事な螺鈿らでん細工が施された四曲一隻よんきょくいっせき屏風びょうぶが佇んでいた。


「わあ……!」


引き寄せられるように、オレは歩み寄る。


倉庫に差し込む陽の光を受け、螺鈿らでんがきらきらと輝く。

息を呑むほどの美しさだった。


「……綺麗……!」


“ははは。私のような工芸品は、初めてかな?”


「小さな手鏡とかは見たことありますけど……!

こんな立派な螺鈿細工の工芸品は、初めてです!」


“素直で結構。私は――花鳥螺鈿細工紫檀屏風かちょうらでんさいくしだんびょうぶの【紫翁しおう】。この倉庫では、古参の工芸品だ”


紫翁しおう……様。よろしくお願いします」


玄曜に渡された目録と、目の前の実物を交互に見ながら、頭を下げる。


“ふむ……。玄曜が気に入っただけのことはあるな”


「……え?」


“我々の存在を、こうも自然に受け止められるとはな”


「他の下女は、すぐ辞めてしまうと……玄曜様が言っていましたが……

今まで、こうして龍霊雨器に関わった方は……?」


“おらんな”


“ここまで玄曜に踏み込めた者はいない。実に、面白い”


「……踏み込めた……?」


どういう意味だろう。


不思議そうに首を傾げると、

周囲の龍霊雨器たちが、くすくす……と意味ありげに笑った。


“それで……星鈴”


「は、はい!」


“女装趣味というのは……貴殿の性癖なのかね?”


「…………は」


――バレてる。


思わず、天を仰いだ。


「……違います」


その一言が、引き金だった。


“もー我慢できなーい!!!”


倉庫中の龍霊雨器たちのテンションが、一斉に爆発する。


“なんでなんでなんで女装してるの!?”


“可愛いんだけど!!!”


“玄曜とはどうなのっ!?”


“仲良くやれてるのー!?”


「!!!? ぎょえぇぇぇ……!!!」


頭の中で、線香花火が

パチパチパチパチ……!!と、絶え間なく

弾けている感覚。


――これは……大変だ……。


龍霊雨器。

“一雫の奇跡”。


……いや、奇跡どころじゃない。


玄曜は、この倉庫の……

この龍霊雨器たちの管理を任せるって言ってたけど……。


前途多難すぎる……!!!


「ひ……一人ずつ……お願いします……」


オレが絞り出せた言葉は、それだけだった。



夕方。


食卓に突っ伏してぐったりしているオレを見て、

戻ってきた玄曜が、にやりと口角を上げた。


「……うまくやれたか?」


やけに機嫌がいい。


「玄曜……アンタ……

わかってて、オレに任せただろ……」


腹は立つ。

立つけど……もう、喧嘩する気力も残っていない。


「さあな」


玄曜は楽しそうに言うと、オレの目の前に料理の包みを置いた。


野菜炒め。

焼き饅頭。

根菜の混ぜご飯。


「……ふわっ!?」


立ち上る香ばしい匂いに、思わず顔を上げる。

今日は疲れ切って、ご飯を作る気力なんて残っていなかった。


「慎言からだ」


「しっ……慎言さああああーーーん!!!」


有能すぎる……!!

神か……!!!


「食ったら、さっさと寝ろ」


玄曜はそう言うと、続けて言った。


「明日は、龍霊雨器のトラブル対応に行くぞ」


「……!?」


焼き饅頭を頬張っていたオレは、危うく詰まらせるところだった。


「明日は、オレと一緒に後宮内を回る」


玄曜も焼き饅頭を食べながら、何でもないことのように言う。


「倉庫のヤツらも大概だが……

後宮内の龍霊雨器も、問題児だらけだ」


一拍置いて、さらに付け足す。


「――あと、後宮内の人間もな」


覚悟しとけよ。


そう言わんばかりの視線を向けられ、

オレは返事もできず、ただ焼き饅頭を見つめる。


不安と一緒に――


ごくり、と喉を鳴らして飲み込んだ。


(……明日から、本番か……)


こうして――

オレと玄曜は、正式に“バディ”として、

後宮に潜む龍霊雨器たちの厄介事へと踏み込んでいくことになる。


それが、

笑えないほど面倒で、騒がしくて、

――そして、思いのほか心を揺さぶる日々の始まりだとも知らずに。

※作者より


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

後宮での生活は、まだまだ続きます。


第二章は【火・木・土】の週3回、

21時頃の更新予定です。

引き続き、気軽にお付き合いいただけたら嬉しいです。

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