第二話 「ようこそ!賑やかすぎる職場へ」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
「では、邪魔者は退散いたします。玄曜様。後ほど」
慎言はそう言うと、なぜか満足げな表情のまま、さっさと部屋を出て行った。
慎言さんを見送ったオレは、堪えきれず、
玄曜の前に立ち、もう一度新しい服を披露した。
「玄曜! 実際どう!? この服! 似合ってるだろっ!」
ジャーン! と効果音付きでポーズを決めてみせる。
「……普通だっつってんだろ」
ぶっきらぼうな返事。
もう少しくらい、褒めてくれてもいいじゃないか。
「結構、可愛いと思ったのに……」
オレは伏せ目がちにうつむき、髪飾りを
指先でくるりと弄る。
その様子を、玄曜は複雑そうな表情でじっと見つめていた。
「……お前……本当に男か……?」
「ふふっ! 可愛いだろっ!」
「普通だ。普通」
玄曜は、さっきよりも一層ぶっきらぼうに言い放った。
そのままお茶を飲み干し、衣を整えて出かける準備を始める。
「流星。今から倉庫に行くぞ」
「倉庫? 龍霊雨器の?」
「そうだ。倉庫の問題児に紹介する」
「問題児……?」
下女失踪事件の後も、倉庫には何度か入ったことがある。
けど……“紹介”って、どういう意味だ?
「あいつらは問題児だが、協力者だ。せいぜい気に入られて、うまくやれ」
そう言って、玄曜は意地の悪い笑みを浮かべた。
……嫌な予感しかしない。
背筋に、ひやりとしたものが走った。
*
「入れ」
玄曜に促され、オレは倉庫の中へ足を踏み入れた。
さっきの言葉――“問題児”が頭から離れず、自然と足取りが慎重になる。
倉庫の中を、ゆっくりと見渡す。
棚に整然と並ぶ、無数の工芸品。
壺、香炉、簪、器、飾り物……。
――玄曜が言っていた、“問題児”。
後宮に来てから何度か入ってはいたけれど、
改めてこうして見ると……やはり、普通の工芸品とは何かが違う。
「……これ、全部……」
思わず、声が漏れた。
「龍霊雨器……一雫の奇跡……」
オレがそう呟いた、その時。
カタン。
どこかで、小さな音がした。
――まるで、返事をされたみたいで、思わず肩が跳ねる。
オレは、もう一度倉庫を見渡した。
ずっと昔から魂を宿し、生きてきた工芸品たち。
人の手を渡り、時を重ね、ここに集められた存在。
「おい」
玄曜が、工芸品たちに向かって声をかける。
「今日からお前達の管轄になった、星鈴だ」
その瞬間――
ざわり。
空気が、大きく揺らいだ。
“きゃあああー!! ようこそぉぉぉー!!!!”
倉庫全体が揺れ、あちこちから一斉に歓声が湧き上がる。
「……っ!?」
衝撃に、オレは呆然と口を開けたまま固まってしまった。
えええ!?
なに!? なにこれ!?
「な、何!? 龍霊雨器って……話せるの!!?」
しん……と一瞬、静まり返ったかと思うと――
“やだあー! 話せるに決まってるでしょー!”
“龍霊雨器のこと、知らないわけぇ?”
“随分と頭の悪そうなやつが来たものだな”
“可愛いー!!! 構いたーい!!!”
また一斉に、好き放題しゃべり始める。
声は耳ではなく、頭の奥に直接響いていた。
「ぎょえぇ……これは……大変だ……」
「静かにしろ」
玄曜が一言そう言うと、話し声はすっと落ち着き、
代わりに、くすくすと笑う気配だけが倉庫に残った。
(玄曜……ここの龍霊雨器の前だと、素なんだ)
「星鈴には、この倉庫のお前達の管理を任せる。
あとは、後宮内の龍霊雨器トラブル担当だ」
「ええっ!? 聞いてないんですけど!?」
「今、聞いただろ」
「えぇー!!」
なんて勝手なやつなんだ……!
「だから、星鈴にも協力しろ」
“それはいいけど……一つ、聞いてもいい?”
近くから、少し落ち着いた声が響いた。
真面目な調子に、オレも思わず身構える。
「なんだ」玄曜がぶっきらぼうに返す。
“二人は、付き合ってるの?”
「はっ!?」
思わず、オレの声が裏返った。
「ちげぇよ」
玄曜も苦い顔をして、即答する。
“ええー!!?”
また一斉に声が弾ける。
“付き合ってないのに一緒に住んでるのー!?”
“えー、どうしてー?”
“やだぁー!”
“詳しく知りたーい!!”
賑やかを通り越して、完全に騒音だ。
玄曜はこの騒がしさに慣れているのか、
イライラした顔で腕を組み、嵐が過ぎるのを待っている。
「……もしかして、いつもこんな感じなの?」
小声で聞くと、
「大体こうだ。一度始まると、オレでは止められない」
「ええー……」
“問題児”と言っていた理由が、よく分かった。
玄曜はチッと不機嫌に舌打ちすると、黒衣を翻し、
そのまま倉庫を出て行こうとする。
「えっ、玄曜!?」
慌てて追いかけるが――
「オマエは今日は、コイツらの世話だ。
目録と実物を確認しろ。
さっきも言ったが、コイツらは協力者だ。うまくやれ」
そう言って、目録を押し付けられる。
「ええー!!」
「存分に役に立ってくださいね、星鈴さん」
玄曜は一瞬で文官モードに切り替え、穏やかに微笑んだ。
――アンタ、本当に切り替え早すぎだろ!!
そしてオレを一人残し、足早に去って行った。
※作者より
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
後宮での生活は、まだまだ続きます。
流星と玄曜、そして龍霊雨器を巡る物語が、
ここから少しずつ深く動き出します。
第二章は【火・木・土】の週3回、
21時頃の更新予定です。
引き続き、気軽にお付き合いいただけたら嬉しいです。




